洋次郎
稲川洋次郎68オ、大手証券会社の役員まで勤めた、ちょっと煙たいタイプのじじいである。
しかしながら、家族には、昔から優しく、今も愛されている。
子供は、3人、長男の和人、次男の利之、末っ子の長女の昌代である。
退職後は、町内の副会長も勤めちょっとした有名人でもある。民法のテレビに、1.2回インタビューされたのが、今の自慢話だ。
そんな、元気な洋次郎であったが、昨年妻の智美に先立たれてからは、一人暮らしになり、元気も、明るさも、少しずつ陰ってきた様子である。
「お父さん、お茶ここに置くよ。」長女の昌代が、大きな声で叫ぶ。昌代は、結婚した後もこの町が、好きで、出来のいい旦那と子供一人、千佳と近所に住んでいる。周に2~3度こうして、洋次郎の顔を見に来ているのだ。
大きな声で叫ぶのは、耳が遠くなった洋次郎のためである。
そんな、洋次郎の日課は、朝5時に起き、味噌汁と昨日の夕飯の残りと梅干で朝食を食べ。少しの掃除を済ませると、雨でも降らない限り、800mほど先の、小さな公園へと足を運ぶ、近所で、顔の洋次郎にみんな声を掛けてくれる。それも楽しみで公園へと毎日足を運ぶのだ。
そして、持ってきた小さなショベルと竹串で公園の草取りをして、ベンチで休む、小さな子(1~2才)が砂場やすべり台で遊ぶのを見るのも楽しみの一つだ。
そんな事を繰り返し、お昼を過ぎた頃、家へと向かう、娘の昌代と孫の千佳(3才)が1時頃いっも来てくれるからだ。保育園の帰りに洋次郎の家に寄って行くのだ。お昼は、大抵、昌代がお弁当を用意してくれる。テレビを見ながら、その弁当を食べ、お茶を飲み終わらない内に千佳の「あれしょう、これしょう」のさいそくが始まる。
孫は、可愛い、千佳はもっと可愛い、一緒に遊ぶのは、洋次郎にとって最高の時間であった。耳が遠くなった洋次郎は、千佳に何度も大声で同じ事を言わせてしまう。
「お爺ちゃん、そこじゃない」
「そこじゃない」
「そこじゃない」「もお~ そこじゃないて~」
しっかりしてきた孫を喜ぶのと同時に自分の衰えに気づき始める日々であった。
そうこうしている内に娘と孫は、帰り、又、少しの掃除を終え、簡単な夕飯のしたくをする。オカズは、1品、お米も少しの夕飯を食べ、シャワーを浴びて、就寝、大抵9時頃、眠なる。大抵こんな毎日を過ごしている。
会社の部下だった山崎が、ゴルフによく誘ってくれるが、ここ5年位は、足腰が痛くて断っている、最近は、肩も腕も上がらないのでとてもプレー出来ないはずである。
近所の中村さんと将棋を指すのがせいいいっぱい、しかも、いつも負けてばかりだ。
実は、洋次郎は、自分では気づいていないのだが痴呆症も始まっている。それも心配で、昌代は、できるだけ洋次郎の様子を見に来るようにしているのだ。