弾道弾迎撃 その時日本は・・・
テスト勉強の息抜きにちょろっと書いて見た。最後はグダグダ。後悔はしていない。
20XX年4月28日
市ヶ谷NCCS
薄暗い部屋の中で多くの職員がせわしなく動いていた。中央の巨大な液晶モニターには朝鮮半島周辺の海上自衛隊第1護衛隊群の配置が映しだされている。その横のやや小型のモニターは上空から撮影されていると思われる映像が流され、中心の構造物でなんらかの作業をする人々がはっきりと映し出されている。最新鋭の偵察衛星からのリアルタイムの映像だ。2012年4月に北朝鮮が発射したミサイルがイージス艦のレーダーでは山が邪魔になり探知出来なかった反省を踏まえ、宇宙空間に日本独自の機動偵察衛星が打ち上げられたのだ。予算を付ける名目上気象庁所属の『ひまわり8号』ということになっているが、れっきとした偵察用軍事衛星であり、普段から市ヶ谷駐屯地地下(防衛省地下)の中央戦闘指揮所で運用されている。
そして、今はその実力を最大に発揮するべき時だった。
「出ました!! 北朝鮮東倉里ミサイル発射基地より大陸間弾道ミサイル発射を確認!! 偵察衛星は正常に機能しています。ただ今追尾中!! あと20秒でイージス艦の探知圏内に入ります!!」
「良し! 良くやった! これより非常事態宣言を発令する!! 自衛隊の全部隊は武器の使用を許可する!! 弾道弾迎撃を妨害するものは徹底して排除しろ!!」
『状況開始、了解!! これより第1護衛隊群は独自行動に入ります!!』
『航空自衛隊ペトリオット部隊了解!! 衛星接続開始します!!』
時は21世紀初頭、日本周辺海域は緊張で満ち溢れていた。
第1護衛隊群
ミサイル護衛艦『こんごう』CIC
「レーダーより準中距離弾道ミサイル2発を確認!! SPY-1、追尾開始!!」
『こちら護衛艦『あきづき』。護衛は任せてくれ』
「よろしく頼む。システムをBMDモードへ、長距離弾道弾迎撃戦闘用意!! 全警戒システムを目標へ集約!! 目標以外のことは考えるな!!」
「目標弾道弾、中間軌道突入まで132秒!!」
「VLS開放!! SM-34発発射用意!!」
「発射用意良し!!」
「発射!!」
艦首側のMk.41VLSから爆炎をあげて発射したSM-3は白い軌跡を残して大気圏外に向かった。
第1護衛隊群
汎用護衛艦『あきづき』CIC
「多数の対空目標接近!! 戦闘機です!! 距離20000!!」
「我々の出番だ。対空ゥ戦闘ォ用意!!」
「対空戦闘用意!! ESSM発射用意良し!」
「VLS開放、弾数7発!! 同時攻撃開始!!」
「発射!!」
VLS内部のキャニスターに搭載された32発のESSMのうち、7発が一度に発射された。同時3目標以上の攻撃は国内でイージスシステムとFCS-3でしか出来ない芸当だ。
「次発発射!!」
「発射!!」
「第1波、全弾命中!! 敵機半数を撃破!!」
「第2波到達前に敵機より小型目標分離!! 対艦誘導弾です!! 距離12000!!」
レーダー画面には数機の戦闘機から分離した小型の対艦誘導弾が白く明滅している。
「『むらさめ』『あけぼの』もシースパロー発射始めました!!」
「最優先目標に設定!! 127mm砲撃ちぃ方始め!!」
「撃ちぃ方始め!!」
たった数秒の間に戦局は次々と入れ替わる。矢継ぎ早に指示を飛ばす自衛官の表情は既に戦争のそれだ。
「敵対艦誘導弾、音速を超えています!!」
迎撃ミサイルや砲弾の幕を超えてみるみる接近していた超音速の誘導弾はその速度から産まれる物理的衝撃と高性能炸薬のエネルギーを持って『さわかぜ』の艦橋を爆発させた。
「ッ!! 『さわかぜ』被弾!! 艦橋に誘導弾直撃!!」
「焦るな!! まだ2発残ってるぞ!!」
「ESSM第2波着弾!! 全弾命中、戦闘機は全て撃墜!! 飛翔中の対艦誘導弾は2発!!」
「『こんごう』及び本艦に誘導弾接近!!」
「ESSM再度発射!! 4発、目標対艦誘導弾!!」
「発射!!」
再び艦橋下のVLSから火柱が上がり、4発のESSMが打ち上げられた。ESSMの誘導ははんぺん型のフェイズド・アレイ・レーダーの横にある専用の誘導ユニットを介して行われる。
「・・・着弾!! 『こんごう』向きの誘導弾は撃墜!! 本艦は未だに狙われています!! 距離3000!!」
「CIWS!!AAWオート!!」
「露天甲板の隊員は退避!! 総員衝撃に備え!!」
艦橋前部と後部構造物の上に設置されたCIWSがチェーンソーのような音をたてて毎分6000発の弾丸を浴びせる。射程は2000m。本体上部の白いレドームに内臓された対空レーダーにより完全な自立制御が可能である。だが音速を超えるような最新型の対艦誘導弾ではその効果が疑問視されており、今回もレーダーに捉えてから着弾までの数秒間しか射撃ができない。
艦に衝撃が響いた。
「被害状況知らせ!!」
「後部ESSM誘導ユニット故障!!」
CICの隅でそんな声が上がった。
『ミサイルは本艦後部飛行甲板直上でCIWSにより撃墜!! 破片が甲板に突き刺さり後部CIWSも被害の恐れあり!!』
「それだけか!?」
『目立った被害はありません!! 主機に異常なし! 負傷者もいません!!』
「問題はESSMか」
「後部270度から360度までの誘導が不可能です」
「修復は可能か?」
「可能ですが2時間はかかります」
「1時間半でやれ。それまではなんとか持ちこたえる」
「了解。直ちに作業にかかります」
そういうと誘導要員の中の技師資格を持つ隊員がCICを飛び出し、修復に向かった。
「・・・まぁ、まだレーダーがやられた訳じゃない。大丈夫だ。これからまだ来るぞ!! 警戒を緩めるな!! 艦隊の被害を知らせろ!!」
「ハッ! 『さわかぜ』は艦橋に被弾し炎上中。航行に深刻な支障をきたしておりますがダメージコントロールにより沈没は免れました。死傷者30名がいる模様です。既に重体の者は『ひゅうが』に移送されようとしています」
「CICは無事なのか?」
「対空戦闘システム以外は無事だそうで、司令は単艦で帰投させるようです」
「分かった。各員警戒を継続しろ!!」
「了解」
第1護衛隊群
ミサイル護衛艦『こんごう』
「目標第2ブースター切り離しを確認!!」
「SM-3、1段目をバージ!!」
「対艦誘導弾接近!!」
「放っておけ!! 『あきづき』がなんとかしてくれる!!」
「り、了解・・・」
「SM-3、2段目をバージ!! 弾頭保護カバー開放、弾頭露出!!」
「インターセプト30秒前!!」
「弾頭の軌道修正完了! ・・・あとは待つだけです・・・」
円筒形のキネティック弾頭がスラスターによる姿勢制御を続け、弾道弾の通過軌道上で待ち構える。
「インターセプト10秒前!!」
「5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・今!!」
画面の中で赤く表示された弾道弾が1発だけ弾けた。
「1発外れた!?」
「糞ッ!!」
「目標、中間軌道を通過・・・。SM-3はもう間に合いません・・・」
「仕方が無い・・・後は空自のパトリオットに任せよう・・・」
やれることはやった。これから俺たちが出来ることは次の弾道弾が発射されないようにすることだ。
「対地攻撃スタンバイ!!」
「・・・了解。対地戦闘用意!! VLS8番・9番、15式対艦巡航誘導弾スタンバイ!!」
「対地攻撃用意良し!! 目標東倉里ミサイル発射場、偵察衛星とリンクします」
「接続確認!! 目標レーザー照射開始!!」
「照射確認!! 周波数入力、誘導開始!!」
「VLS開放、攻撃始め!!」
「発射!!」
市ヶ谷NCCS
「弾道弾は1発残っています。パトリオット部隊が発射カウントダウンを始めました」
正面の巨大なモニターには北朝鮮東部から伸びた軌跡が表示され、日本海上で1つが途絶え、もう一方が点線を辿って福島第1原発へと伸びている。点線は予想進路だ。
「そこまでピンポイントで狙えるのか?」
「中国の弾道弾技術が2年前に流出した記録が残っていました。最新鋭のものです」
「例え完全な設計図が有ったとしても北朝鮮での弾道弾製造は技術的に不可能なんじゃないのか?」
「ここをみてください」
そう言って自衛官が小型のモニターに衛星から撮影した弾道弾の頭頂部を呼び出し、そこをさらに拡大した。
「漢字?」
「はい。ハングルではなく漢字です。少なくとも弾体自体は中国で製造されたことは確実です」
「前からそうではあったが・・・本当に四面楚歌だということか」
「はい」
「よろしい。条件は揃った。韓国政府に通達。日本は北朝鮮に対し宣戦を布告する。貴国の中立表明を願っている」
正面モニターでは第二、第三護衛隊群の光点が朝鮮半島を取り囲んでいた。
福島第1原発半径20キロ圏内
2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震により炉心融解を起こした福島第1原発はそこから半径20キロを未だ避難区域と指定され、人が居住することを許されない地区になっていた。だが今はここに新たな集団が拠点をおいて活動している。MIM-104パトリオットPAC-3弾発射機を中心とし、フェイズド・アレイ・レーダー、電源車、指揮通信車などで構成される航空自衛隊岐阜基地のPAC-3迎撃部隊である。数日前に陣地構築が終了し、現在CH-47JAやUH-60JAなどによる物資補給が定期的に行われている。
が、そこに弾道弾撃ち上げの連絡が入った。連絡が入ったのは衛星がそれを探知してから僅か0.75秒後のことである。2012年以降、宇宙レベルでの情報共有化が急速に進められていた自衛隊ではそのC4I能力のタイムラグが大幅に短縮し、最低でも全部隊で1秒以内での情報共有が可能となっているのだ。
「海上自衛隊が一発外しました!!」
「進路は変わらず!! 此方に向かっています!!」
「フェイズド・アレイ・レーダーに捉えました!!」
「レーザー誘導装置起動します!!」
「良し!! 第1射、発射!!」
4連装発射兼格納ボックスの蓋が跳ね飛び、轟音とともに2基の発射機から計4発の迎撃ミサイルが発射された。
「第2射、発射!!」
残った4発も第1射の失敗に備えて少し時間をおいて発射する。周辺地域には破片の落下に備えて陸上自衛隊の03式中距離地対空誘導弾や11式短距離地対空誘導弾の配置が行われている。特に03式中SAMはパトリオットよりも精度が高いと言われているため、パトリオットが弾頭本体の迎撃に成功すれば大きな破片が民家を直撃するような被害は非常に少なくなるだろう。だが問題は原子力災害が再び起きるか否かなのだ。そのためには1軒2軒の家屋倒壊など成功の範疇である。
パトリオット主要装備が展開されている一角に駐車された82式指揮通信車の中では指揮官達が大型の液晶ディスプレイの前で緊迫した指示を飛び交わしていた。
「第1射着弾まで20秒!! 第2射着弾まで35秒!! 原発直撃まで60秒!!」
「基地防空機関砲射撃用意!!」
相手はマッハ6以上の弾道弾だ。それがどれほどの意味があるのかはたかが知れているが、無いよりはまし程度の配置である。
「第1射命中!! なれど弾頭の破壊に至らず!!」
「第2射着弾まで10秒!!」
既に弾道弾の各落下部品の迎撃のため03式中SAMが撃ち上げられている。完全消滅までは時間の問題だろう。
「第2射着弾!! 弾頭破壊を確認!! しかし物理的エネルギーの消失は認められず!! 破片がそのまま降り注いできます!!」
通常の原子力発電所の建屋なら多少の破片くらいでびくともしないだろう。だがこの発電所は既に手負いだ。屋根さえ仮の物が先月取り付けられたばかりで使用済み燃料や水温調整のための水循環システムなども剥き出しである。そこに小さくても時速数百キロで迫る破片が当たれば核弾頭を撃ち込まれたのと同じ・・・いや場合によってはそれ以上の被害になりうる。
「11式短SAM発射!! VADS射撃開始!! CIWSも電源を入れろ!!」
隅に展開された高機動車の荷台から次々と短距離ミサイルが撃ち上げられている。建屋の方からも断続的な射撃音が聞こえてきた。VADSの手動射撃と退役した護衛艦から降ろしてヘリで輸送したCIWS、陸上自衛隊の87式自走高射機関砲の全自動迎撃である。中には91式携帯地対空誘導弾を並べ撃ちする隊員たちもいる。
『破片は数十にも及びます!! とても全部の迎撃は不可能です!!』
「撃ちまくれ!! なにがなんでも撃ち落とせ!!」
指揮官はそう言うしかなかった。
たとえ建屋近くに展開するVADS部隊を被爆の危険に晒そうとそうするしかなかった。
「建屋直撃しますッ!! 退避ッ!!」
もはやこれまで。
海上自衛隊と航空自衛隊のMD防衛は無駄に終わった。
かに思われた。
「・・・おい!! VADS部隊!! どうなった!! 状況を報告せよ!!」
指揮車中に設置された外部の放射線濃度を測るガイガーカウンターは反応を示していない。5キロと離れていない前線基地のため原発何かあればほぼ直後に反応があるはずだ。
「レーダーに新たな反応!!」
「また弾道弾か!?」
「いえ・・・IFF反応機多数・・・!? これは・・・松島基地及び三沢基地航空団のF-2戦闘機です!!」
「なんだと!?」
『こちらVADS迎撃部隊!! F-2によって破片は撃墜されました!!』
「破片が次々と撃墜されて行きます!!」
二十数機のF-2戦闘機が機関砲を撃ち、誘導弾を放ち、持ち得る最大の火力を使って迎撃に当たってくれていた。
既にレーダーディスプレイに写る破片は見当たらない。
「・・・迎撃成功。周辺地域への被害は皆無です」
「・・・やったぞ」
「「「やったぞぉぉぉぉぉ!!!!!」」」
こうして史上初のMD防衛は、成功という形で幕を降ろした。
海上自衛隊の巡航ミサイルは北朝鮮の地上にあるミサイル発射基地をことごとく破壊し、多数の命を奪った。
だがそれは結果的には日本人の命を救うことになるのである。
戦争とは自国の利益、国民を守るためにあるのであって、決して他国の救援のため「だけ」にあるとは思ってはいけない。
もちろんアメリカも同じである。
この後、日朝戦争が勃発するのか。また国交が正常化するのか。
それらはまだわからない。
戦争を終わらせるのは、
政治家の決断によるものである。
今後ともよろしくです。