俺の物語の結末!
三十一、
「玄さん、何故、輝たちはあちらの世界に戻ることが出来ないのじゃろうか?」
「にゃ〜ん、にゃ、にゃーん。」
「成る程・・・。」
爺さんと猫は先程からずっとこんな調子だ。俺にはさっぱりわからん。・・・・いや、きっと爺さんにもわかっていないと思われる。先程から必死になって機械を眺めているからな・・・・。
俺はこれからどうしたらいいのか考えていると、話し終わったのか爺さんは台所へと姿を消し、猫缶を持ってきた。そして、それを猫の前に置く。
だが、猫はその餌を拒否。
「ああ、玄さんは煮干派じゃったな。すまん、わすれとったわ。」
成る程、これが頑固なところか?かなり粋な目をしている猫だ・・・。
猫が煮干を食べ始め・・・俺は爺さんからどのようにしたらあっちの世界に戻れるか聞いてみた。
「簡単じゃ。一人、犠牲になればよい。世の中、ギブアンドテイクじゃ。まぁ、犠牲といっても帰るのがちょっと遅くなるだけじゃ。」
「そうか・・・なら、俺が犠牲になろう。」
俺を追ってきてくれた皆のためだ。それに、ちょっと帰るのが遅くなるだけなら構わない。今更、そんなことを言っている場合でもない。猫に何をされるか分かったものでないが、ここは、大人しくしておこう。家族のために・・・・。
「なら、あちらの世界に戻したい連中を玄さんのところに連れてくるんじゃな。ほれ、玄さんが機嫌のいいうちにな?」
「わかった。」
俺は三人を連れて黒猫の前に姿を現した。猫は粋な座り方をしており(なんとなくだ。なんとなく、そんな感じに見えるだけだ。)いつでもどうぞといったところであった。
「本当に、輝さんは戻ってくるんですね?」
「ああ、本当だ。」
「嘘じゃないよね?」
「大丈夫だ。」
「帰ってきてくださいね?」
「ぜひとも、帰らせてもらいます。」
俺は三人にそういって別れた。猫は三人の前を歩いていき、道場のほうへと姿を消した。そんな、三人の後ろへと向かって俺は叫ぶ。
「・・・・また、いつかな・・・・俺は、お前たちの事を忘れない!!」
三人が驚いて振り返ったような気がしたが・・・爺さんが際どいところで扉を閉めてしまった。
「輝、何も焦ることなんてない。」
「だけど・・・・そうだな、俺が間違ってた。ちょっと帰るのが遅くなるだけ出しな。」
俺は猫が食べ残していった煮干を口に運んで何かを飲み込んだ。
それから、数日後・・・・。
葵は青空を眺めて溜息をついた。そこは、彼女が輝とであった初めての場所であった。今日は少々遅い、夏祭りがある日であった。
「輝さん・・・・。」
葵は溜息混じりに視線をそらし、そろそろ帰ろうかと立ち上がったのであった。そこへ、加奈と碧が二人してやってきた。
「葵さん、どうかしたの?」
加奈は思いつめたような顔をしている葵へと声を掛けた。彼女は毎日のように学校が終わったら部活にも行かずにこの場所へと足を運んでは夏なのにザリガニを探したりしていたのであった。
「・・・いえ、なんでもないんです。加奈ちゃん、碧さん、輝さんは帰ってくると思いますか?」
その質問に、二人は顔を曇らせた。
「帰ってくる・・・よ。だって、帰ってくるっていってたもん。」
「そうですねぇ、帰ってくるといいですね。」
二人ともはっきりしたことは言えない。何故なら、三人と輝が別れる時、なんとなく、もう会えないんじゃないかといった感じを覚えたからであった。
「・・・そうですよね、まだ、分かりませんよね?」
「気長に待ちましょう。きっと、どうにかしますよ、輝君なら・・・・。」
「そうだよね、輝なら、どうにかするよね?」
「ま、俺なら帰ってきてるんだけどな。どうにも、こういうのはちょっと苦手で・・・・タイミングが分からんね。」
「そうですよね・・・ちょっと、気恥ずかしいですよね?」
「うん。」
「そうですね。」
「「「・・・・・」」」
視線は輝へと注がれていき・・・・視線が集まってしまっていた輝はどうかしたのかといった感じで三人を見比べた。
「あ、そういえばまだ言ってなかったな。ただいま、みんな。」
「「「おかえりなさい!!」」」
青空の下、輝は家族たちに抱きしめられてこちらに戻ってこられたことを何処かの誰かに感謝した。これまでの事を思い出し、やっぱり、帰ってこなかったほうがいいかもしれないとちょっとだけ思ったのは気の迷いかもしれない。かくして、輝は家族と一緒にお祭りへと出かける準備をしたのであった。〜輝編 完〜
さて、どうだったでしょうか?おもしろかったでしょうか?これで、輝の物語も一段落つきました。これも、皆様のお陰です。




