猫の言葉はわからない
三十、
帰りたい、帰れない。いや、正確に言うと帰る方法がわからない。そんな経験ないであろうか?例えるのなら、くるくる回転ドアに入ってしまい・・・出ようとするがタイミングをなかなか見出せない。そんな感じだ。そして、俺・・・いや、俺たちはそのような状況に陥っていたのであった。
「あ〜、困ったなぁ。」
「輝さん、全然困っている感じがしてませんよ?」
「そうだ、もう少し困ったような感じになったほうがいいんじゃないのか?」
「まぁ、言っても始まりませんし・・・輝君、とりあえずお爺さんがいるところへ行きませんか?」
最年長者の一声により、俺たちは行動を開始したのであった。
「よぉ、輝・・・。」
爺さんは既に包帯を取っておりその顔には無数の傷が残っている。まぁ、見た目的には元気そうであり、既に死んでいるといっても過言ではない気がしてならないが・・・ここはスルーするのが基本だと俺は思う。
「爺さん、あっちに戻れなくなっている気がするんだが・・・戻る方法ないのか?」
葵達はここにはいない。俺としてはこの爺さんが葵達にちょっかいを出す可能性が非常に高く、更に、それを笑いの種にしてしまうとわかっているからだ。
「そうじゃのう・・・ちょっと玄さんに聞いてくるから待っておれ。」
玄さん・・?誰だろうか、それは・・・俺も結構こっちに来ていたのだが・・・初めて聞く名前だな・・。
「爺さん、玄さんって誰?」
「玄さんはな・・・まぁ、言うなれば大工の棟梁じゃ。がさつな性格で一本気・・そうじゃのう、典型的な頑固親父じゃ。」
しみじみ頷く爺さんを見ていて俺は簡単にその玄さんの顔がありありと浮かぶようであったが・・・・。
「お、玄さんじゃ。」
そこにいたのは黒猫であった。頭に鉢巻をしているのがいかにも大工の棟梁のようだ・・・・まてまてまてまてぃ!!
「爺さん、これが玄さんか!?」
頷く爺さん。
「そうじゃ。これぞ、大工の棟梁、玄さんじゃ。姿こそ、猫じゃがな。」
「にゃ〜ん。」
おいおい、今、めちゃくちゃ猫みたいな鳴き声発したじゃねぇか?本当にこの猫は頼りになる偉人さんなのだろうか?
「さて、ちょっと玄さんに聞いてみるかのう・・・。」
そういって爺さんが取り出したのはどこからどう見ても猫語翻訳機械であった。




