新たなる旅立ち
二十一、
人は、恐怖を目の前にしたらどうなるのであろう・・・まぁ、それが俺の場合であったら次のようになる。
「葵、お手上げ。」
俺たちの目の前に現れた謎の老龍。何処かで見たような感じがするのだが・・・どこだろうか?うぅむ、脳年齢が衰退しているかもしれん。
「輝さん、諦めないで頑張ってください!」
「駄洒落か?まぁ、話し合いで解決しよう。」
過去一度、とある龍に襲い掛かった結果、俺は昇天した記憶がある。それ以降、雷がちょっとばかり怖くなっちまった。
「あ〜、俺と隣にいる人物は貴方に危害を加えようとは一ミリも考えておりません。どうか、見逃してくれませんか?」
老竜は俺をじろっと見て首を振った。交渉決裂。いや、まだだ、こんなことでやられてしまったらいつもの二の舞だ。ここは食いついていかないと・・・。
「なら、葵だけならいいですか?」
龍は首を縦に動かした。・・・よし、後は時間を稼ぐだけだ。
「輝さん・・・。」
俺は近付いてきた葵の耳元でこういった。
「いいか、急いで家に帰って碧さんと加奈を連れてくるんだ。出来るだけ早いほうが俺の生存率が高くなるからな・・・。」
葵が頷いて走り去っていくのを横目で見送ってから、俺は龍から少しばかり距離をとった。だって、あんな巨体が倒れてきたら一発で終わるんだもん。
『さて、邪魔者もいなくなったからはじめようかね?』
「え?」
瞬きした瞬間に龍は姿を消していた。そして、俺の目の前にばあちゃんがいた。その両手には真剣が握られているように見える。
「ば、ばあちゃん・・・よく切れそうな包丁だね?」
「輝、ぼけてる時間はないよ。さぁて、どのくらい強くなったのか見せてもらおうか?」
突っ込みなしですか・・・。まぁ、そんなこんなで老龍はばあちゃんだったのだ。これで爺さんが近くに倒れていたことも納得がいく。爺さん、助けて・・。
俺は絶望感に打ちひしがれながらも大地を蹴って跳躍した。無論、相手が相手なので生きて帰ることはないだろう。
どすっと音がして俺の肩に何かが突き刺さった。痛くはないが力が抜けていくのをしっかり確認することが出来る。このままでは・・・この前とおんなじ展開になってしまう・・・くそ、俺じゃどうすることも出来ん。やっぱ、お手上げ・・・。
「・・・・爺さん、俺に力を貸してくれ!!」
俺は出てくるはずもなかろう、爺さんを呼んだ。今頃、コタツに入って震えているに違いない。だが・・・。
「輝、急いで離れるんじゃ!!」
爺さんの声がしたかと思うと・・・俺は誰かに引っ張られた。
「輝さん、しっかりしてください。」
倒れたときには既に力が残っておらず、首を動かすことも出来ない。しかし、俺は目の前の光景が信じられないでいた。なんと、爺さんがやってきたのだ。
「・・・輝よ、短い間世話になったな。」
「ま、全く世話はしてないけどな・・・。」
「とりあえず、この化け物はわしがどうにかする。じゃあまたな・・・。」
爺さんとばあちゃんはともに姿を消した。残ったのはばあちゃんが落としていった二本の剣であった。地面に突き刺さっており、それが何よりの証拠であるといった感じである。
「輝さん、顔色が悪いですよ?」
「輝!大丈夫?」
「輝君・・・。」
俺の目の前には心配そうな三人の顔があったのだが・・・・もっと近付いて確認しようとして・・・俺は意識を失った。誰かの声が幾度となく、聞こえて気がしたが・・・おれは睡魔に勝つことなどできることもなく、目を開けなかった。
目が覚めると、そこは爺さんがいる場所であった。しかし、俺の体はベッドにしっかり固定されており、体中包帯だらけである。はい、お約束のミイラ男です。
「輝、すまんな・・・抑えようとしてこのざまじゃ・・・。」
そして、隣のベッドにはあらゆるところを骨折したようなミイラ男が座っていた。俺より凄まじい・・・。
「爺さん、ばあさんはどこに行ったんだ?」
「・・・地獄に向かった。なんでも、菜々美の夫を見に行くといっておった。当分は平和に過ごせるぞ・・・。まぁ、体がこうだから動くことは出来ないんじゃが・・。」
どうやら、爺さんはばあちゃんに一撃も与えることなく撃沈したらしいな・・・。
「ああ、輝は別にどこを怪我したわけじゃないんじゃよ。雰囲気でさせてもらった。」
「・・・・そうかい。」
「因みに、今頃お前さんの肉体は集中治療室じゃろう。ま、お前さんの体が大丈夫になるまで、碧さんの言われたところに向かうといい・・・。ほれ、地図じゃ。わしがわざわざお前のところに行って渡そうとしたんじゃがな、途中、絶世の美女に会ったので声をかけたらちょうどあの化け物が姿を現したのじゃ。」
え、それって爺さんが悪いんじゃないの?自業自得だろうに・・・・。
「ま、わしとしては今回は善戦したつもりじゃ。それにな、わしがこっちにやってきたとき、お前さんにはお客が来ておったぞ。道場にいるからな。」




