15
「ま・・・まさか・・・」
止まりそうになる足。
それとは逆にどんどん速くなる心臓の音。
その人の姿形がはっきりと見える頃には私は視界がぼやけていた。
そして・・・・。
「ローズ」
優しく私を呼び掛ける声にあふれる涙が止まらない。
「・・・でんか・・・」
すぐ側まで近付いた私に手を差し伸べる殿下。
私がこの手をとってもいいの?
ためらう私の考えを読んだかのように殿下は祭壇から下りてきて私の手を取った。
「ローズ?もう逃がさない」
優しいけれどはっきりした意思が含まれている言葉。
「君がいなくなって俺がどれだけ悔しかったかわかる?」
握りしめられる手から伝わるぬくもり。
ずっとこのぬくもりを探してた。
「だけど、好きな女性一人守れない。側にいてもらえないような男じゃ駄目だと思ったんだ」
そっと、殿下は私を祭壇の前に導く。
「この1年本当に辛かった。君が側にいなかったからね。だけど、君にふさわしい男になれるよう、この国を守れるよう必死に頑張った」
繋がれた手のぬくもりが消え、私の目の前にかかっていたベールが捲られる。
「そして、今君を手に入れる。もう2度と離さない」
強いまなざしが、遮るものなくまっすぐ私に降り注ぐ。
「ローズ、こんな形で君をここに引っ張り出してしまったけれど、君は俺と結婚してくれる?」
綺麗に整えられた化粧はすでに意味を成していないだろう。
きっと、今の私はひどい顔をしてる。
「・・・・でも、私は・・・」
否定の言葉を出したと同時に殿下は言葉を遮った。
「ローズ。君の本当の気持ちが知りたい。ジクの事は関係ない。そんな事で本音を隠してしまわないで」
殿下の瞳はまっすぐに、心の奥底から私の事を思ってくれていることが伝わってきた。
「私の本当の気持ち・・・・」
しっかりと見据える殿下の瞳から目がそらせず、思わず口にしてしまった。
「・・・・殿下を・・・殿下を愛してます。誰よりも!!」
それは心の叫びの様に。
そして、やっと告げられる想いに、私の心は軽くなった。
その瞬間、広間中から喝采が起こった。
「ローズ。ありがとう。・・・今まで辛い思いをさせたね。これからは俺が側にいて君を守るよ。だから君ももう逃げないで?俺の側にいてくれるね?」
にっこりと笑う殿下を見て、私は涙が止まらなかった。
殿下の言葉にコクリとうなづくと殿下はそっと私を抱きしめてくれた。
そして、祭壇から向き直ると、広間にいる人たちに向かって叫んだ。
「今、この瞬間より、この者を私の妻とする!意義があるものは?」
殿下が問うとその場が静まり返る。
「では、フィナール国公爵家令嬢ローズ・オーランドを我が妻とする事をここに宣言する!!」
すると、静まり返っていた広間が瞬く間に盛り上がった。
あちこちから聞こえる賛辞の声。
あまりの事に私は何が何だかわからないでいると、そっと殿下が耳打ちをした。
「ローズ、これは宰相とフィナール国の国王が企んでいたことなんだよ。もちろん、途中から私も参加したけどね」
にっこりと笑う殿下。
ふと広間を見れば、ここにいるはずもない国王様の姿があった。
目が合うと、にやりと笑ってこちらに親指を立てた。
「国王・・・・」
国王には随分と酷い事を言ってきた。
ここへ来る前も挨拶すらしなかった。
それなのに・・・・。
嬉しそうにこちらを見ている国王は泣くなと言わんばかりに手を振っていた。
「ローズ」
私の肩を抱き寄せる殿下。
「私たちは幸せだね。こんなにも大勢の人たちに祝福されて」
広間を見渡すと、たくさんの人たちが私たちに拍手をしてくれていた。
その中には、宰相様も、国王様も、さっき準備をしてくれた侍女もいた。
その想いに私は今までにないくらい泣いてしまった。