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「はぁ・・・。お美しいですわ・・・」
鏡越しに本気で見とれている侍女に私は苦笑いする。
「・・・ありがとう。あなたの腕がいいのよ」
「いいえ!とんでもございません!どれもこれもすべてローズ様を引き立てるだけにしかすぎませんわ!!」
力説する侍女に更に苦笑しながらも、こんなに嬉しいと思わない花嫁は自分くらいだろうと思わず鏡の自分に眉を寄せる。
今日はいよいよ、宰相様との結婚式。
昨夜、ベットに入り横になったまま朝を迎えてしまった。
ここまでの度に相当疲れていたのだろう。
自分でも朝起きた時は信じられなかった。
「ふふふ。こんな素敵な花嫁様を迎えられるとは我が国も安泰ですわね!」
何も知らない侍女は嬉しそうに私の髪をセットしていく。
「・・・私などがいなくても、この国はずっと安泰でしょうに・・・」
ぽつりとつぶやいた言葉に侍女は即座に反応した。
「何をおっしゃいます!この婚姻は誰もが心待ちにしておりましたわ!」
なんとも大げさな侍女だ。
誰もなんて、ただの政略結婚に大げさな話だ。
「さぁ!出来あがりました!このままお時間まで少々お待ち下さいね!私は少し会場の方を見て参ります」
そう言うと侍女は部屋を出て行き私一人が取り残された。
「・・・・笑っちゃう」
鏡の中の私は誰もが憧れてそしてきっと幸せな時に着るであろうドレスを身に着けていた。
「こんな不幸そうな顔した花嫁なんてきっと私くらいでしょうね」
別に不幸だなんて思っていない。
だけど、好きでもない人と結婚なんてしたくなかった。
いくら恩返しだと言ったって、心の中では納得なんてできない。
ましてや、この国に戻って来てしまったら嫌でも目に入ってしまう。
「私って未練がましかったのね・・・」
自分自身に話しかけていると、先程の侍女が戻って来てそろそろ会場の方へお願いしますと告げた。
もう一度鏡の中の自分を見つめると、私は覚悟を決めその部屋を後にした。
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「では、ローズ様。こちらからお入りください」
王宮の広間で行われる結婚式。
宰相様だからだろうか?
普段は王族しか行えないこの場所での結婚式に私は一瞬戸惑った。
しかし、隣国から嫁いで来ると言う名目上この場所になったのかもしれないと思い至った。
そして、扉が開けられる。
中からは、パイプオルガンの音が響き渡った。
私の旦那様になるであろう宰相様はすでに祭壇前で待っている。
しかし、ここからは少し距離がある為はっきりと見えない。
顔にはベールも掛っている。
一歩一歩ドレスを踏まないよう慎重に歩きながら祭壇を目指す。
これで、私の役目も終わりかな。
そう思いながらまた一歩祭壇へと近づく。
しかし、近づくにつれ私は自分の目を疑った。
観客の中に・・・宰相様?
一歩、また一歩と祭壇に近づく。
しかし、その手前の観客の中にいるはずのない宰相様がこちらを見てにやにやと笑っている。
「・・・な、なんで・・・・」
そこにいるのが宰相様ならば、あそこで待っているのは?
ハッと顔をあげ祭壇の前にいる人物を見る。
だけど、その人は背中を向けている上、自分にかかっているベールが邪魔で良く見えない。
それでも、足だけは勝手に前に進む。
宰相様を見つけた時から、私の心臓は大きな音を立てて鳴っていた。