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結局、私は殿下に声をかけられなかった。
黙って立ちつくす私を見て殿下は困ったように笑った後、
「長旅で疲れただろう?ゆっくり休むといい」
そういうと私を宰相様にまかせその場を立ち去った。
「ふ・・・・。ふふふ・・・・。ふふふふふふふ」
その光景を思い出し笑いがこぼれる。
「おい。気持ち悪い笑い方をするな」
すっかりその存在を忘れていた宰相様にすかさず突っ込まれた。
「・・気持ち悪いとか言わないでください」
「気持ち悪いものを気持ち悪いと言って何が悪い!」
頭にこぶしが載せられるとそのまま頭のてっぺんをぐりぐりとする。
「い、いたたたたた!何するんですか!!」
べしぃ!!と宰相様の手を叩き落とそうと手を振るったが先に宰相様が手を引く方が早かった。
私の掌はむなしくも頭の上の空気を叩いただけとなった。
「おい。大人しくなったかと思えば変わらないのか。まったく、何をあっちで学んできた事やら・・・」
腰に手を当ててはぁと溜息をついた。
「・・・一体何なんですか!なぜ私がここに戻ってこなければいけないのですか!!どうして・・・」
涙ぐむ私に宰相様は再び溜息をついた。
「お前、ここに来た意味を忘れたのか?ここへは結婚をする為にやってきたのだろう?この結婚で得られるものはなんだ?そんな事もわからないのか?」
こぼれそうになる涙を食い止め、宰相の言葉に頭を働かせる。
「この結婚で得られるもの・・・」
大国の宰相と我が義父達の国の利益。
それは考えるまでもなかった。
「立て直しの最終・・・・。つまり国の強化・・・と言う事ですか?」
確かにこの国とフィナール国が友好を築けばこれ以上ないくらいの力を持つ事なる。
しかし、それで政略結婚とは・・・・。
「一体、いつの時代の話ですか」
今時、そんな事をしなくても、条約をかわせば済む事だ。
「まぁ、そう言うな。立て直し中のフィナール国が我が国に訪れる時間がなかったのだ」
・・・確かにここ1年国王の忙しさが半端じゃない事はわかっていたが、それにしても今時・・・・。
「しかし、私が宰相様に嫁いでもあまり意味はないのではありませんか?」
やはり宰相と言えども国を担っているのは国王である。
王族に嫁いだ方が効果が高い。
もちろん、そんな事だったら今すぐにでも私はお義父様とお義母様の所へ飛んで帰るが。
「は!?私と?・・・はぁ。・・・なるほど・・・。それでか・・・」
宰相様は私の言葉を聞いた途端、目を丸くしたかと思えば溜息の嵐。
終いには一人で納得している。
なんだ?一体・・・・。
「ふむ。お前と結婚しても確かにあまり意味はないが、とりあえず我が国とフィナール国との繋がりを誇示できるからな」
自分で言いながらなぜか溜息をついている。
・・・そんなに私と結婚するのが嫌ならば断ってくれればいいものを・・・・。
「そう言う訳にはいかない。これは決まったことだからな」
相変わらず人の思考を読むのが趣味なのか。
考えていたことに対しての返事をされたので、それ以上何かを言うのはやめ、ゆっくりと休む事にした。
今さら何か言ったところで明日には宰相と結婚しなければいけないのだから。
私の為にと用意された部屋に案内してもらい、部屋に入るなり私はすぐベットに横になった。
「・・・・殿下・・・・・」
今日の殿下は全くの別人のようだった。
目をつむり眠りについた私の頬に一筋、涙がこぼれた。
それに気付くことなく深い眠りへと誘われた。
この瞬間は明日の事など忘れて――――。




