11
「お義父様、お義母様・・・・」
目の前の2人は私をしっかりと見据えていた。
「・・・私のような者を養女にして下さったのにすぐにこちらを出ていかなければいけない事・・・・・」
言い終わる前に義母の目から涙がこぼれ落ちた。
そんな義母の隣に立っていた義父が私の肩に手を置いた。
「いいんだよ。ローズ、お嫁に行っても私たちの娘であることに変わりはないんだからね。そもそも、この事は始めから解っていた事だ。お前が気に病む事ではない」
にっこりと笑うお義父様。
「・・・すみません」
あの、国王がすべて悪いんです・・。
「ローズ・・・。何かあったらすぐに戻ってくるんですよ!?辛いことがあったらいつでも帰って来て!あなたの部屋はそのままにしておくからね!」
お義母様・・・。
お父様とは反対の肩にそっと触れる義母の手のぬくもりが心を締め付ける。
「・・・せっかくお義母様の娘となれたのに、すぐにこの家を出ていくことをお許しください」
肩に置かれた2人の手に自分の手を重ねる。
「・・いいのよ。すべて国王様がお決めになられた事なんですもの・・・。ローズ、幸せになるのよ?」
繋がれた手のぬくもりと義母の言葉に頬に冷たい雫がこぼれた。
それを拭うように義母の手が私の頬に触れる。
「・・・ローズ・・・・」
義母はそれ以上何も言わず私を抱きしめてくれた。
義母は解っていたのだ。
この縁談は断ることが出来ないことを・・・・。
ひきとめることが出来ないことを・・・・。
久しぶりに誰かに抱きしめられる感覚に私は更に涙を流した。
************************************
「それでは、お義父様、お義母様・・・・。短い間でしたがお世話になりました」
馬車の前で頭を下げる。
「・・・ローズ、道中は気をつけて・・・。辛ければいつでも帰ってくるのよ!!」
涙目のお義母様の肩を抱くお義父様も何も言わず手を振ってくれた。
この国にいたのは約1年・・・・。
国王の言葉に甘えてここで暮した。
そう思えば、今回の事はいい恩返しかもしれない。
突然の事で頭にきたけれど、辛いときに手を差し伸べてくれたのは紛れもなく国王だったのだから・・・・。
「・・・あんな傲慢でわがままな国王でも色々してくれたんだもんね・・・・」
一体どこに向かっているのかもわからない馬車に揺られながらこれまでの事を思い出していた。
「色々あったなぁ~・・・・・」
この一年大変だった。
今は国の人にも受け入れてもらっていた。
だけど初めは全くだったのだ。
よそ者がいきなり城の仕事を任されるのだ。
いい思いをするはずがない。
「ふふ・・・。そう言えば、最初はかなりひどかったなぁ・・・。書類なんて私を素通りだったし、会議があることを知らせてもらえなかったり、私が食事に行こうと思えば仕事を持ってきたり・・・」
くだらないいやがらせについついキレて怒鳴ってしまったこともしばしばあった。
国王ったら絶対にそういうときは出てこないくせに私がこっそり泣いてるといつの間にか側にいてくれたり。
そう思ってハッと気付いた。
「・・・そうか。国王が出てきてたら余計にややこしくなってたわね」
見越していたのだろう。
国王が出ていくことで私の実力が認められるわけではない事を・・・。
「あぁ・・・。挨拶してあげればよかったな・・・」
頭にきて国王には挨拶すらせずに馬車に乗った。
「結構助けてもらってたんだなぁ・・・」
今だからわかることだろう。
今度会うことがあればちゃんとお礼を言おう。
会う機会があれば・・・・。
揺れる馬車に体を任せ目を瞑る。
次に目を開ける頃には目的の場所についているだろう事を願って・・・・・・。