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家に帰りお義母様の美味しいご飯をたべ、綺麗な夜着に着替えベットに腰かけた。
・・・というか、それをこなした事を覚えていない。
「・・・・婚約・・・・・」
目の前には大きな熊のぬいぐるみがいる。
「・・・ふふ。おかしい・・・・」
まるでぬいぐるみと話しているようだ。
「・・・良かったじゃない。・・・・良かったのよ」
声が震える。
「私じゃ彼を幸せになんてしてあげられないでしょ・・・・」
目の前が歪んで見える。
「きっと素敵な人よ」
頬に冷たいものが流れ落ちた。
「・・・・こうなる事を望んだのは私じゃない」
ギュッと目の前にあった熊を抱きしめた。
思い切り顔を埋め付けて。
声が漏れないように。
涙で顔が濡れないように。
心まではさすがに誰も隠してくれない。
私の心の中では黒い物がどんどんあふれ出して来ていた。
どうして?私の事を愛してくれていたんじゃなかったの?
あの人なら私の事をずっと思ってくれるって心のどこかで思ってた。
「何、都合のいい事考えてるんだか・・・・・」
ふっ、と笑いがこぼれる。
同時に自分の中にはまだあの人が住んでいた事を知る。
忘れたと思っていたのに。
思い出さなかったから、吹っ切れたんだと思っていたのに。
それは違った。
隠して、心の奥底に潜んでいただけ。
「・・・・私にどうする事も出来ない・・・・」
気づいてしまった心の本音を知っても、もう彼は婚約してしまうのだ。
あの時、どうして逃げてしまったんだろう。
逃げなければ今も笑ってあの人の隣りに入れたんだろうか?
「そんなわけないわ・・・。兄のした事は許されない・・・・」
あの時はそう思っていた。
もちろん今でも思ってる。
でも・・・・それ以上にあの人を想う気持ちは強かったのだと今更ながら知ってしまった。
「あの人の傍にいればよかったの・・・・?傍にいる事が許されたの・・・・?」
自問自答に誰も答えてくれるわけはない。
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「ローズ!どうして私の前からいなくなったんだ!?」
で、でんか?
「あぁ!私のローズ!やっと帰って来てくれたんだね!もう離さないよ!!」
殿下!苦しいですよ!!
「ローズ!!ローズ!!」
苦しいですって、殿下!
「さぁ!今すぐ私と結婚しよう!約束だっただろう?」
え?結婚ですか?
あれ?だって誰かと婚約したんじゃないんですか?
「・・・・婚約?」
で、殿下?
「あぁ。そうだったね。もう君は必要ないんだった。俺には可愛い婚約者がいるんだ」
殿下・・・?
「気安く話しかけないでくれる?もう君はこの国の人間ではないんだから」
そんな!私はいつでもこの国の事を・・・!!
「嘘をつくなよ!兄を使ってこの国を陥れようとしたのはお前だろう?」
ち、違います!!そんな事するわけないじゃないですか!!
「どうかな?俺よりもそっちの国がよかったんだろう?」
そうじゃありません!!私は・・殿下の為に・・・。
「俺の為?俺が本当に望んでいる事と違う事ばかりしてきたのに?」
そんな事・・・。だって!国の為に・・・・。
「そう。君はいつだって国の為なんだよね?俺の事は考えてくれた?」
そ、それは・・・・。
「いいんだよ。ローズ。もう気にしなくて。だって・・・・・俺にはこの人がいるから」
で、でんか?・・・その人は・・・?
「知っているだろう?俺の婚約者だよ?この人とこの先2人でこの国を豊かにするから、もう国の事は心配しなくてもいい。君の自由に生きればいいんだ」
いや・・・。いやです!!私は・・・・私はこの国が好きなんです!!殿下の事が好きなんです!!
「ローズ・・・・。もう、遅いんだ・・・。すべて・・・・」
まって!殿下!!行かないでください!!
殿下!!!!!!!