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隣に座る国王様に視線を合わせることもなく私は不思議に思っていることを聞いた。
「・・・・何故、私なのですか?国王様でしたら女性はよりどりみどりでしょう?」
「ふ、よりどりみどりとは面白いな。まぁ、確かにそうなのだが」
笑う国王様をちらりと横目で見れば、次の瞬間には真面目な顔をしていた。
「・・・別に妃など誰でも良かったのだ。ローズ、おまえでなくともな」
ニヤリと笑う国王様の顔に悪びれた様子は微塵もない。
「我が国をきちんと考えてくれる奴ならばな・・・・」
「・・・・・私がそうだとでも?」
「うむ。お前ならば民の事を考え、前国王夫妻の様な事はないと思った。まぁ、お前を知るたびにお前はそれだけではないとわかったがな」
「買い被りすぎです」
国王様からの視線が痛かった。
「そうかな?お前は国の為にこの国の王子から逃げたのだろう?」
心に何かがぐさりと刺さった。
「お前ではダメだと思ったのだろう?・・・・兄の事があるから」
「!!ご存じだったのですか?」
思わず顔をあげ、国王様を見た。
「当たり前だ。自分の国を揺るがそうとする奴の素性ぐらい調べる。・・・まさか助けに来るのが妹のお前だとは思わなかったがな」
「・・・・そうですか」
良く考えれば当たり前の事だ。
「・・・お前の目の前で兄を殺した私を怨むか?」
「・・・・いいえ。あれは兄が悪いのです。贅沢に目がくらみ自分の国を攻撃させるなど・・・・私でも許せません」
「・・・そうか。しかし、それであの王子のもとを去るというのは関係ないだろう?」
「いいえ。関係あります。私はこれでも宰相補佐官でした。国の安全の為にいつも翻弄している宰相様を補佐する立場。それなのに、そんな私の部下が国を脅かす存在だったなんて・・・・。何かしらの処罰があって当然なのです。そんな私が、王子のお側になどいられるわけがありません」
「しかし、お前は今その立場にないだろう。処罰の対象でもない。ただ兄を助けに行っただけだ。その兄が罪を犯していようが、妹には関係のない話しだ」
「・・・そういう訳には参りません。兄の罪は私の罪です」
「・・・なぜ、そう頑なになる?お前は王子の側にいたくはないのか?」
そんなわけがない。
王子の側にいたかった。
「・・・わからんな。しかし、お前が王子のもとから離れたいというのならば、私は手を貸そう。我が国に滞在すればよい」
国王様は私の手をとり立ちあがった。
「そんな!!兄がご迷惑をかけてしまったのに私までご迷惑をおかけすることはできません!!」
国王様の手を振りほどこうとしたが、その手はしっかりと握られていた。
「構わん。しかし、お前がどうしても気にすると言うのならば、我が国の立て直しに協力をしろ」
「・・・私がですか?・・・・それは、妃になれということですか?」
「妃云々は後々考えろ。先程も言ったが、別に妃が今すぐ必要だというわけではない。理由がなければお前はこの国から出られないのだろうからな。もちろん、私の妃として来たいというのならばいつでも歓迎するが?」
にやりと笑う国王様。
「それはご遠慮させていただきます。しかし、・・・私がお役に立てるのでしょうか・・・」
「立ちそうにもないものをわざわざ誘わん。時間の無駄だ」
きっぱりと言われると返事のしようがなかった。
「ふ、決まりだな。今夜にでも我が国に戻るとするか。出発までに必要な物をまとめておけよ!」
国王様は勝手に決めてしまうと、握っていた手を離し来た道をさっさと戻って行った。