ばあちゃんと人魂
掲載日:2026/06/04
夏の夜になると、私はよく祖母と縁側に腰掛けて涼んでいた。
風のない夜だった。
ふと田んぼの向こうに、青白い灯がふわりと浮かんだ。
「あれは何?」
幼い私が尋ねると、祖母は驚く様子もなく言った。
「人魂たい」
私は思わず祖母の腕にしがみついた。
けれど祖母は笑った。
「何も悪さはせんよ」
安心しかけた私に、祖母は続けた。
「ただね、足を広げて立っとったらいかん」
「どうして?」
「人魂が足の間を通り抜けると、あっちの世界に連れて行かれるけんね」
私は慌てて両足をぴたりと閉じた。
その様子を見て、祖母は声を立てて笑った。
田んぼの向こうでは、人魂がゆらゆらと揺れていた。
あれから何十年も経った。人魂が本当にあったのかは分からない。
けれど夏の夜道で不思議な灯を見るたびに、私は無意識に足を閉じる。
そして、あの時の祖母の笑い声を思い出すのである。




