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美しい夢は獏(ばく)のご馳走  作者: なぎ・けい


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6/12

お見合い

 昔々、「クリスマスケーキ」という言葉があった。

 何かと思うかもしれないが、12月25日を過ぎたクリスマスケーキが売れ残りと言われるように、25歳を過ぎても結婚できない女性のことを「クリスマスケーキ」と揶揄する時代があったのである。

 うちの姉もそう呼ばれまいと結婚を焦っていた。姉は美人ではないが、不美人でもなかったので、ときおり見合い話が舞い込んで来た。

 お相手の写真とか釣書きを見ながら姉が聞く。

 「今度の人は大正薬科大学卒業と書いてあるけど、この大学の経営母体って大正製薬なの?」

 「違うでしょ。もしそうだったら、明治大学の経営母体は明治製菓ってことになるよ」

 などと私は答えていたが、見合い話はなかなかまとまらなかった。

 一番の原因は、やはり姉の性格にあったのではないかと思う。

 姉は見合いの席でも、気に食わぬことがあると黙り込んでしまうタイプ。沈黙に業を煮やした男性が、「何かお話してよ」とうながすと、こう混ぜっ返すのだという。

 「お話って何?昔々あるところにお爺さんとお婆さんがいて、お爺さんは山へ芝刈りに、ってお話でもすればいいの?」

 かくして姉は独身のまま30歳に至った。ところへ、もう来ないだろうと思っていた見合い話が親戚筋からまた舞い込んで来た。

 お相手の写真と釣書きを見て、父と母だけでなく本人も大いに乗り気に。

 ところが見合いの席から帰ってきた姉は、かんかんに怒っている。

 「写真を見ていいと思ったから会いに行ったけど、現れたのは別人だった。あれは他人の写真で私を釣って、見合いの席におびき出したに違いない!」

 母がなだめる。「そんなことあるもんか。写真と実物と多少違うことはよくある。いい条件の人だからせめてもう一回会ってみないか」

 姉は不承不承、もう一回だけなら会うと決めた。

 「今度また別の人が現れたりして!」とそばで聞いててはしゃぐ妹の私。

 さて次の会合のあと、姉には珍しくしおらしく間違いを認めた。「やっぱりよく見ると写真と同じ人だった」

 かくして話はとんとん拍子に進み、姉はめでたく結婚することができた。

 お相手は、変装が趣味だとか変わった嗜癖があるのでもない、ごく穏当な学校教師。

 父は大いに喜んでいた。うちの長女でさえ、引き取ってくれる人がいた、感謝感激雨あられ。


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