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美しい夢は獏(ばく)のご馳走  作者: なぎ・けい


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ぷんぷん

 姉は私より八つ歳上だが、短大の栄養学科を出て、日本製粉という食品会社の研究室に助手として就職した。

 上皇后美智子さまのご実家は、日清製粉という大企業の経営者であったことが知られている。日本製粉はその日清製粉と並ぶ製粉業界最大手であった。

 姉が知人から「どこにお勤めですか?」と尋ねられて答えると、「ほほう、いいところにお勤めですねー」と感心されたという。「日本政府にお勤めとは。素晴らしい!」と。

 やがて日本製粉は、名前が紛らわしいせいか、社名を変えるに至った。現在は「ニップン」という親しみやすい名前になっている。

 私は姉と「二回ぷんぷん怒っているような会社になったね」と語り合っていた。

 研究室の助手はみな短大出の女性だったが、研究員はこれすべて旧帝大の大学院を出たインテリ男性だったという。

 新しく入社してきた研究員に的場まとばさんという方がいた。あるとき研究室長が彼を呼んでこう言った。

 「あ、きみきみ、きみ名前なんて言ったけね。俺も歳くったな、名前が出てこないよ。あ、そうだ、思い出した。波止場くん!」

 以来ずっと彼は、助手の女性たちから「波止場さん」と呼ばれる習いになったという。

 波止場さんは決して怒らず笑っていた。

 研究室では試作品のパンなどが出来上がると、研究員と助手たちがパンを食べながら冗談を言って笑いあうのだという。

 それだけではない。お昼休み以外にもコーヒータイムというのがあって、助手の女性たちは連れ立って社外の喫茶店まで出掛ける。仕事着である白衣を着たままである。

 「私たち、白衣着てるから、道行く人たちに女医の軍団だと間違えられないかなー」とさざめきあいながら。

 だいじょうぶ、その心配は要らない。女医と助手とではそもそも放つオーラが違う。

 にしても、どんだけホワイトな職場だったのだろう!姉はあまりに居心地がいいせいで、30歳で結婚し寿退職するまでずっとその職場を離れなかった。

 給料は安かったと聞くが。

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