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〜追放された鑑定士は、世界の真理を読み解く〜  作者: レノスク


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第七章 欠けた歯車

 砂漠の縁に近い街道は、昼でも冷えていた。

 陽は高い。

 だが風が乾き、体温を奪う。

「……おかしいな」

 勇者アルドは、足を止めて地図を見下ろした。

「この辺りで、分岐があるはずなんだが」

「地図が古いんじゃない?」

 魔法使いのセリアが苛立ちを隠さず言う。

「街で確認した時は問題なかったわ」

 重装の戦士ガルドは、無言で周囲を見回していた。

 砂に残る足跡。

 風向き。

 だが、それ以上の判断材料がない。

 以前なら、ここで立ち止まることはなかった。

「……鑑定、できる奴がいればな」

 誰ともなく、そう呟いた声が落ちる。

 アルドは一瞬、口をつぐんだ。

「……今さらだ」

 そう言って歩き出すが、

 その足取りには、わずかな迷いが混じっていた。

 問題は、戦闘ではなかった。

 小型の魔物が現れても、対処できる。

 火力も、防御も、十分だ。

 だが――

 判断が遅れる。

「この魔物、弱いけど……

 なんか変じゃない?」

 セリアの詠唱が止まる。

「何がだ」

「魔力の流れが……歪んでる」

 アルドは剣を構えたまま、答えを探す。

 以前なら、

 “危険度は低いが、近くに上位個体がいる可能性”

 そう即座に示されていたはずだ。

「……とりあえず、倒す」

 結論は単純だった。

 結果、戦闘自体は勝利。

 だが直後、地面が沈んだ。

「しまっ――」

 遅い。

 砂の下に隠れていた別個体が、地面ごと襲いかかる。

 ガルドが盾で受け止めるが、衝撃は重い。

「……ちっ」

 魔物は逃げ去った。

 被害は軽傷。

 だが、全員が理解していた。

 これは偶然ではない。

 夜、焚き火を囲んで。

 誰も、積極的に話そうとしなかった。

 アルドは剣を磨きながら、ぽつりと口を開く。

「……レインがいた頃は」

 その名が出た瞬間、空気がわずかに固まる。

「戦う前に、結果が見えていた」

 ガルドが低く言う。

「勝てるか、退くか。

 時間がかかるか、即断か」

「それを、鬱陶しいって思ってたのは誰?」

 セリアの言葉は鋭い。

 だが、責める響きはない。

 アルドは剣を止める。

「……俺だ」

 勇者として、前に出ることを選び続けてきた。

 だから、立ち止まらせる存在を、無意識に避けていた。

「間違ってた、とは言わない」

 アルドはそう続ける。

「でも……

 失って初めて分かるものもある」

 ガルドは火を見つめたまま、短く息を吐いた。

「……次の依頼、慎重に行くしかないな」

 だが、それは裏を返せば――

 以前より遅くなる、ということだった。

 一方、その頃。

 灰の監査官本部。

 円形の会議室に、複数の影が集まっていた。

「対象区域の異常反応、明確に低下」

 報告官が淡々と述べる。

「名を与えられた存在の安定化が進行中」

「監督者は?」

「鑑定士レイン。

 危険行動は確認されず」

 沈黙。

 中央に立つ人物が、ゆっくりと口を開く。

「……予測より、早い」

「感情同調型の存在が、

 言語による制御を獲得し始めています」

「通常、その段階には数年かかる」

 別の声が続ける。

「鑑定士の介入が、

 世界干渉を最小限に抑えていると考えられます」

 中央の人物は、指を組んだ。

「つまり――

 排除対象ではなく、観測対象」

 結論が、静かに下される。

「当面、監査は縮小。

 だが、勇者一行との再接触には注意を」

 その言葉に、誰も異を唱えなかった。

 夜明け前。

 レインは、祠の外で目を覚ましていた。

 世界の情報が、微かにざわめく。

 ――勇者一行、進行速度低下。

 ――判断遅延、累積。

 それを読み取り、

 だが感情は動かさない。

 彼にとって、それは予測通りの流れだった。

 祠の中から、足音がする。

「……おはようございます」

 ルナだった。

 表情は落ち着いている。

 だが、どこか張り詰めてもいる。

「……昨日、あまり感情が出ませんでした」

 レインは視線を向ける。

「何を感じた」

「……何も、感じなかった気がします」

 それは、進歩であり――

 同時に、次の課題でもあった。

「制御しすぎると、今度は鈍る」

 ルナは少し驚いた顔をする。

「……それも、良くないんですか」

「極端は、どちらも歪む」

 世界も、人も。

「今日は、逆の練習をする」

「逆?」

「感じることを、許可する」

 ルナは、ゆっくりと頷いた。

 境界を作るということは、

 閉じることではない。

 開閉できるようになることだ。

 朝日が、祠を照らす。

 世界は静かだが、

 複数の歯車が、別々の場所で回り始めていた。

 それが再び噛み合う時、

 同じ形には、もう戻らない。

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