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〜追放された鑑定士は、世界の真理を読み解く〜  作者: レノスク


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第四章 痕跡を辿る者たち

夜明けは、予想より早く訪れた。

 小屋の隙間から差し込む光が、床の埃を淡く照らす。

 レインはすでに目を覚ましていた。

 外の空気が、わずかに変質している。

 村そのものに異変はない。

 だが――通過した痕跡がある。

 レインは扉を静かに開け、外へ出た。

 朝の村は静かだった。

 人の気配はあるが、まだ動き出していない。

 地面に残る足跡。

 数は少ない。

 意図的に消されている。

 ――追跡者。

 ――行動規範、統制あり。

 ――魔力隠蔽、熟練。

「……早いな」

 予想よりも、半日は早い。

 遮断術式が部分的に解けたことで、

 “管理対象が生きている”という情報が、

 どこかへ伝わったのだろう。

 レインは一度、小屋を振り返った。

 中では、ルナがまだ眠っている。

 呼吸は安定しているが、完全ではない。

 ――接触は、避けるべきだ。

 レインは村の外縁に沿って歩き、

 追跡者の進路を逆算する。

 森を抜け、街道に出る。

 そこから分岐し、この村へ――

 選択としては、合理的すぎる。

 情報を持っている。

 もしくは、

 感知している。

 小屋に戻ると、ルナはすでに起きていた。

 毛布を抱え、戸口を見ている。

「……行かない、ですよね」

 問いではなかった。

 不安の確認だ。

「行く。ただし、ここではない」

 レインは簡潔に答えた。

「誰か……来てるんですか」

「可能性が高い」

 ルナは一瞬、体を強張らせた。

 だが、悲鳴も拒絶もなかった。

「……私の、せい、ですよね」

「違う」

 即答だった。

「君の存在は、結果だ。

 原因は、別にある」

 それが何かを、今は説明しない。

 レインは荷をまとめ、ルナに外套を渡した。

「深く被れ。顔は見せなくていい」

 ルナは黙って従った。

 村を出る直前、

 レインは一瞬だけ、視線を遠くに向けた。

 見られている。

 距離はある。

 だが確実に、こちらを追っている。

 ――三。

 ――魔力遮断術式、応用型。

 ――識別印:灰色。

「……灰の監査官か」

 声には出さない。

 出す必要がない。

 灰の監査官。

 国家でも、教会でもない。

 世界の“異常”を管理する組織。

 才能が強すぎる者。

 構造が時代に合わない者。

 世界の枠から外れた存在。

 それらを、封じ、保管し、

 必要とあらば――消す。

 勇者制度よりも古い。

 だが、表には出ない。

「……来る」

 ルナが、かすかに呟いた。

 レインは一瞬、彼女を見る。

「分かるのか」

「……分かりません。

 でも……近づく感じが、します」

 それは、遮断されていた才能の副作用だ。

 感知能力が、無意識に漏れ始めている。

 レインは進路を変えた。

 街道ではない。

 人の通らない、丘陵地帯へ。

「走れるか」

「……はい」

 その返事に、迷いはなかった。

 丘を越えた瞬間、

 空気が一段、重くなる。

 結界。

 簡易だが、索敵に特化している。

 ――視認、不可。

 ――接触判定、あり。

 レインは足を止め、短剣を抜いた。

 刃は相変わらず、錆びている。

 だが、情報は変わっていた。

 ――媒介、安定。

――契約進行度、低。

――干渉、可能。

 背後で、足音が三つ。

 隠す気配はない。

「対象を確認」

 低い声。

 感情のない、事務的な発声。

 灰色の外套を纏った者たちが、

 丘の向こうから姿を現す。

「管理番号・不明。

 遮断解除、部分確認」

 中央の人物が、ルナを見た。

「再収容を行う」

 命令ではない。

 宣告だ。

 レインは一歩、前に出た。

「彼女は、管理対象ではない」

「判断権限を持たない者の発言は記録しない」

 そう言って、監査官は手を上げた。

 結界が、収縮する。

 その瞬間――

 ルナが、息を呑んだ。

 世界の情報が、歪む。

 ――魔力循環、急上昇。

 ――遮断術式、崩壊開始。

 ――周囲環境、同調。

 風が止まる。

 音が、消える。

「……レイン」

 ルナの声は、震えていなかった。

「私……ここ、嫌です」

 それは、拒絶だった。

 意志だった。

 次の瞬間、

 地面に走った細い亀裂が、

 監査官たちの足元で止まる。

 破壊ではない。

 警告。

 監査官の一人が、初めて表情を変えた。

「……覚醒兆候」

 レインは、短剣を地面に突き立てた。

「下がれ」

 声は低く、明確だった。

「これ以上進めば、

 君たちは“管理対象”になる」

 灰色の監査官たちは、動かなかった。

 だが、踏み出しもしない。

 世界が、均衡を選んだ。

 緊張の中、

 最初に結界を解いたのは、彼らの方だった。

「……本部に報告する」

 そう言い残し、監査官たちは後退する。

 完全な撤退ではない。

 だが、接触は避けられた。

 静寂が戻る。

 ルナは、膝をついた。

 息が荒い。

 レインはそばに寄り、手を差し出す。

「無理をした」

「……でも……」

 ルナは、彼を見上げた。

「……連れて行かれなかった」

「それでいい」

 レインは短く答えた。

 問題は、先送りになっただけだ。

 だが、それで十分だった。

 丘の上で、風が再び流れ始める。

 世界はまだ、完全には動いていない。

 だが――

 確実に、目を覚まし始めている。

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