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元女房役の俺の元に押しかけてくる恋女房?  作者: コーヒー


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入学2日目 ④

「わかったわ。では、あなたの家に行って、お母様も交えてお話しましょう。さぁ行くわよ」


桜木凰花の夢や野球部の現状について話を聞かされ、ただ野球というスポーツと決別した俺は彼女の誘いに応じることはできなかった。


彼女の言葉を断ったはずが、全く予想もしていなかった切り返しをされた。


この後のことは動揺もありあまり覚えていない。


結果として彼女に言いくるめられた俺は、理事長室を後にして何故か我が家へと押しかけられていた。


「本当に狭くて汚い家だけど、入るの?母ちゃんには話しておくからまた都合がよいときでも」


「だめ。大事なことは当日中に話し合うべきよ。それにお母様が戻られるのはもうすぐなんでしょ?なら待たせてもらうわ」


俺の意見に全く耳を傾けてくれず、そういう彼女を渋々家の中に招き入れる。


2DKの2階の1室を賃貸している俺の家で流石に母ちゃんや俺の部屋に招き入れる訳にもいけないので、ダイニングキッチンの食卓の一席に桜木を座らせる。


理事長室ではコーヒーをご馳走になったが、我が家にあるのは冷蔵庫の麦茶のみ。彼女がそれを好むかはわからないが、何も出さないわけにはいかないので俺と桜木の2人分のコップを準備し、俺も席に着いた。


「口に合うかわからないけど」


「別に麦茶くらい私も普通に家で飲んでいるわよ。おもてなしありがとう」


そう言ってお茶を飲む桜木の姿を見て、理事長の孫という話を聞いてどこか幻想的な偏見を持っていたことを少し恥ずかしく感じた。


「母ちゃんはもうすぐ帰ってくると思う。それより本当に帰りの時間とか大丈夫か?」


「さっきも言ったけど大丈夫。ママには連絡しているし、本当に遅くなるなら車で迎えに来てくれるから。ママも今日は私にとって決戦の一日だって伝えてるから、お赤飯炊いて待ってるって。じょ、冗談よね、別にそういう意味での決戦ではないのに」


そういう意味、というのはいわゆる告白とか男女の関係につながるような意味合いなのだろう。そういう意味では確かに全くの見当違いである。

なにせ彼女がここにいるのは自分の夢のために、ある意味俺を巻き込もうとしているだけなのだから。


「そういえば、弟が野球をしてるって言ってたけど。今もシニアのチームに在籍してるの?」


「えぇ。身内びいきではないけど、それなりの成績は残しているから、来年度は桜阪学園へ入学させて戦力として活躍させる予定よ」


そう話す彼女は自身が監督を務めている未来を思い描いているのだろう。心なしか話す表情も楽しげだ。


「ま、まぁそうなるといいよね」


彼女が思い描く未来は俺が野球部に入部するということが前提である。ここで安易に肯定すると言質ととられかねず、俺は曖昧な答えしかできなかった。


この話題はよくないと思った俺は強引に話題を変えることにした。


そんなこんなで彼女と他愛ない話を続けていると、自宅のドアが開く。


仕事帰りの母ちゃんが買い物袋片手に家の中に入ってきた。その様子を見て、桜木は席を立ち上がり母ちゃんに挨拶をする。


「突然お邪魔して申し訳ございません。金沢くんの同級生の桜木凰花と言います。よろしくお願いいたします」


「桜木、、、凰花ちゃんね。はじめまして。遙人の母です。こちらこそよろしくお願いいたします。ハルから連絡もらったときはびっくりしたけど、こんな美人さんがいるとは思わなくて、もっとびっくりしちゃったわ。ハル、本当に無礼を働いて連れ込んだとかではないのよね?」


「ち、違うって!!それは100%ない!!桜木も言ってくれ」


「はい、それはご安心ください。もしそういったことであれば、私ではなく弁護士が来ますので」


そう言って笑みを浮かべる桜木、俺はその光景をみて冷や汗をかくが、母ちゃんはその様子を気に入ったのか、同じく笑みを浮かべてうんうんと頷いている。


「いやー。うちはハルしかいないから女の子とのやりとりって新鮮!!やっぱり娘も欲しかったなー」


そういうと母ちゃんは少しだけ待ってね?と言って、手洗いを済ませ、先ほどまで手に持っていた買い物袋の中身を手早く冷蔵庫の中に収納する。


それらを終わらせると、俺の隣の席に着いて桜木との話をする準備を済ませる。


「えっと、それじゃあ桜木さんからハルのことでお話があるということだけ聞いてるので、まずは桜木さんの話を聞かせてもらえる?」


母ちゃんの言葉に、桜木も緊張があるのだろう。少し自分を落ち着けるように呼吸を整えてから話を始める。


俺に野球部に入部して野球を再開して欲しいこと。


その理由である自分の夢。


今の桜阪学園の野球部の状況。


そして俺が断った理由。


ここまでは俺と桜木が学園の理事長室で話したことに相違ない。


「本当にこの馬鹿は」


そう言って母ちゃんは俺の頭をはたく。


「あんたが野球を再開するかどうかを家のことを理由にするんじゃないわよ。母ちゃん怒るよ」


「もう怒ってるよ」


「いえ、金沢くんが本音を言っているかはさておき、やはり野球というスポーツは道具はもちろんかかるお金は大事なことです」


そう言いながら俺を見る桜木。不敵に笑みを浮かべている。


「なのでその部分について、お母様を交えてお話させていただきます」


「お母様へ失礼がないようにお話しますが、生意気なことや失礼なことがあれば申し訳ないので先にお詫びしておきます。先ほど現状の桜阪学園の野球部の状況はお話させていただきましたが、実際問題として当初特待生や推薦枠で押さえていた生徒の大量辞退があったと言うことで、野球部として年初に組んでいた部費や予算は大きく余っております。」


「これを私個人ですべてを勝手に使うことはできませんが、理事長である祖父には許可を得て、金沢くんが入部する際には特待生枠として道具類や活動にかかる費用は経費として認めてもらいました。これは当学園に入学している特待生はすべて同じ条件ですので、ご安心ください」


もう何年も野球から離れている俺に何故そこまでの期待をしてくれているのか。正直にいうと期待が重すぎる。


それは母ちゃんも同じことを感じていたようで


「もう何年も野球から離れているこの子に無条件でそんな待遇というのは考えられないんだけど。何か条件があるの?」


桜木は真剣な表情で答える。


「本当に無条件と言うことではありません。たしかに特待生にはそれにふさわしいだけの活躍が期待されています。ですが、金沢くんには例えばペナルティはありません。これは私個人のワガママを通す上での条件ですので、これは私と祖父の個人的なお話です」


わずかに緊張した表情に変化した桜木はそう話すと改めておれと母ちゃんそれぞれに視線を向ける。


母ちゃんは桜木の顔を見ながら、何か考え込んでいる。


「じゃあその個人的な条件っていうのはうちには関係ない話だとするわね。凰花の夢って言うのも理解した。でもその夢にかける思いと、今のハルの状況を考えたときに、どうしてそこまでできるの?」


母ちゃんは桜木の目をじっと見つめる。


そして母ちゃんに見つめられた桜木は言葉に詰まってしまっている。


お互いに何も話さない状況が少しの間続くが、先に口を開いたのは母ちゃんだった。


「あーそういえばマヨネーズ買い忘れちゃったの思い出した。ハル、ちょっと近くのお店まで買いに行ってきて」


そういう母ちゃんは鞄から財布を取り出すと、1000円を俺に手渡して買い物に行くよう促す。


「はぁ?今この状況で桜木をおいて俺だけ家を出て行くってどういう状況だよ」


「いいからさっさと行ってきて。その間は凰花ちゃんと世間話でもしておくから。こんな機会でもないと年頃の女の子と話す機会ないんだから、母ちゃんにも少し凰花ちゃんを譲りなさい」


そう言って有無を言わさぬ態度で俺は家を追い出される。


自宅を追い出され、同級生と母親を自宅に残していくってどういう状況だよ。

俺がもし逆の立場で相手のお父さんと二人きりで取り残されたら、地獄だと感じるぞ。


とはいえ買い物に行ってこなければ母ちゃんは俺を家に入れないだろう。


せめて桜木に息苦しい思いはさせないようさっさと買い物に行って戻ってこよう。と考えながら俺はスーパーへ向かった。





近場のスーパーで頼まれたマヨネーズを購入し、20分ほどで自宅に戻ってきた。

扉を開こうとすると、中からは母ちゃんの笑い声が聞こえてくる。


どうやら少なくとも耐えがたい空気で二人で過ごしていたと言うことはなさそうな気配だ。


「ただいま。頼まれたもの買ってきたよ」


「あーお帰り。いやー凰花ちゃんともっと二人でガールズトークしたかったのに。お邪魔虫ね、この子は」


「もー陽子さん。金沢くんもお帰りなさい」


そう言って俺を迎え入れたのは俺が出て行く前には想像ができなかった仲よさげに話す、自分の母と同級生。


机にはどこから引っ張り出したのか、俺がリトルの頃に野球をしていた写真のページが開かれたアルバムが置かれている。


自分がいない間にどのような会話があったのかはわからないが、今日初めて会った同級生と自分の母ちゃんが仲良くなっている光景を見て、この感情をどう言葉にしたらいいのだろうか。


そんな俺を見て母ちゃんは口を開く。


「ハル、あんた凰花ちゃんと一緒に野球部にはいりなさい。あたしは凰花ちゃんの夢を応援することにしたから」


そんなことを言われると思ってもいなかった俺は返す言葉もなかった。


「大体、本当に未練がないならあんたの部屋のクローゼットの奥に隠されてる野球道具はとっくに処分してるでしょ。だったら凰花ちゃんの夢の応援のためよ。いいわね」


「陽子さん!ありがとうございます!ということで、金沢遙人くん。明日からは桜阪学園の野球部として、一緒に甲子園を目指しましょうね」


桜木は満面の笑みを浮かべてそういった。


そして俺は家族という外堀を完全に埋められて、再び野球というスポーツと真剣に向き合うことになったのだった。


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