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元女房役の俺の元に押しかけてくる恋女房?  作者: コーヒー


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5月3週目 対東星学園 ②

東星学園との練習試合当日、両チームともにアップは終わり、試合開始を待つ状況だ。


先ほど両チームのキャプテンがメンバー表を交換し、先攻後攻を決めた。


ちなみに今回は俺がチームを代表していくよう桜木さんからの指示で向かった。


相手チームの代表選手がスカウト組であれば、その際揉める要素になりかねない。とのことで俺を指名されたのだが、それなら羽川で良いのでは?と疑問が浮かんだが、どうも羽川があまりキャプテンとしてのポジションに前向きではないようである。


別に俺も前向きではないのだが?と伝えると、黙っていきなさいと言われた。


相手チームからはスカウト組の新田が出てきたので、奇しくも両チームのキャッチャーが出てきた。


その際、新田は先発が野上であることと、俺がキャッチャーであることをメンバー表で確認し、値踏みするような目線を向けてきたが、俺は無視して戻ってきた。


ちなみに今回も俺たちは後攻を務めることになった。正確に言うとじゃんけんに負けて新田が先攻を選んだ結果、後攻になったのである。


東星学園のスタメンは以下の通り


1番セカンド湯川ゆかわ さとし2番ショート田ノたのうえ 風斗ふうと3番ライト仲村 駿輔なかむらしゅんすけ4番ファースト清川きよかわ るい5番センター本多ほんだ 啓介けいすけ6番サード浜田はまだ 哲志てつし7番レフト加川かがわ 伸治しんじ8番キャッチャー新田にった あつし9番ピッチャー下原しもはら 光一こういち


桜木さんが手を叩いて自身に注目を集める。


「さぁそれじゃあいつも通り山口先生をカモフラージュにサインを出していくからしっかりと勝ちに行くわよ」


「「「おぅ!!!」」」


「金沢君と野上君はちょっとこっちに」


そう言うと野上と俺を近くに呼び込む。


「投球練習は130kmくらいのストレートに抑えて投げるように」


悪いことを考えている表情でそう言う桜木さん。


俺は桜木さんの意図に気づいたが、野上の顔には疑問符が浮かんでいる。


「ちゃんと投げないと投球練習にならないんじゃ?」


「あー野上、あいつらの認識としては、新田ですら野上のストレートを取れなかったのに、出来て1ヶ月で指導者もいない学校にお前のストレートが取れると思うか?」


野上は首を横に振る。


「そうね。元々スカウトされた入学した天江君や佐藤君たちもキャッチャーを務めず、見たこともない人間がキャッチャーをしていたらどう考えると思う?」


「キャッチャーが取れないのであれば、捕れるスピードまで落とす...とか?」


「他に考えることもあるけど概ね正解ね。実際の投球練習でその光景を見たらそう思うでしょうね」


「そこで初球に野上本来のストレートが投げ込まれたら?」


俺と桜木さんの話でようやく合点がいったという表情になる。


「相手にとってはショックを与える投球になる」


桜木さんはその言葉に笑顔を見せる。


「正解よ。いくら東星学園の一年生でも145kmの野上君のストレートは1巡目では捉えられないはずよ」


「そこに相手の様子を見て実際の配球は俺が考えるから、野上は投球に集中してミットに投げ込んでくれ」


俺の言葉に桜木さんは笑顔で頷いている。


「今日は行けるところまで野上君に行ってもらうから、マウンドでは思う存分投げてきて」


「はい!」


野上は桜木さんの言葉に嬉しそうに返事をすると、近くにいた長瀬に声を掛けて軽いキャッチボールを行いに行く。


「野上の嬉しそうな表情」


「普段はチームのために投球回数を制限しているからね。ここでは思う存分投げてもらいましょう。その分金沢君がしっかりとリードしてガス欠にならないように管理してね」


「任せとけ。同学年相手に、野上の能力で打ち込まれるならよっぽどの不調はキャッチャーのリードの問題だ」


「あなたのリードは信じているわ」


桜木さんは拳を握りこちらに伸ばしてきたので、俺も合わせてグータッチする。


「あぁーーー!!!カナ!!凰花と気安くグータッチするなんて羨ましいぞ!!!」


その様子を離れた場所で見ていた天江が大声を上げてこちらに近づいてくる。


その様子に巻き込まれるのは勘弁と俺はその場を離れ、桜木さんは天江に絡まれていた。


桜木さんの睨むような視線は気づかないふりをした。


それから5分後、試合開始の時間となり、主審を務める東星学園のコーチの一人が両チームに集合を掛ける。


この試合は両チームから2名ずつ審判を出すことを提案するも、東星学園のコーチが控え選手もこちらが多いため東星学園ですべての審判を出すと提案してくれ、山口先生に話すふりをして桜木さんに伝えたところ、了承を得られたのでこの試合の審判は東星学園がすべて務めることになった。


両チームがホームベースに整列し、主審のコールで試合開始が宣言される。


「「「「よろしくお願いいたします!!!!」」」」


両チームは大きな声で挨拶をし、後攻の俺たち桜阪学園野球部はそのまま守備位置に、東星学園の選手たちは初回の攻撃のためベンチに戻っていった。


野上は桜木さんの指示通り球速を抑え、ゆったりとしたフォームで俺のミットにボールを投げ込んでくる。


右打席から少し離れた位置でスイングをしながらタイミングを合わせる1番打者の湯川や相手ベンチの選手たちは野上の投球を見て、ニヤニヤとした表情を見せている。


おおかた俺が野上のストレートを予想通り捕れないと判断して、余裕を感じているのだろう。


今から初球を投げ込んだ時の表情が楽しみである。


規定の投球数を投げ終わり、湯川が打席に入る。


「お手柔らかによろしく」


「こちらこそ」


湯川が俺に声を掛けてきたので、こちらも返事をしておいた。


「プレイボール!!!」


主審がプレイボールを宣告し、湯川は打席で構える。


「(初球から叩いて早めに点をとって下原を楽にしてやるか)」


俺はサインを送り、野上が投球動作に入る。


先ほど同様ゆったりとしたフォームで放たれたボールは高めに投げ込まれた。


湯川のバットはボールがミットに収まってから後を追うようにスイングされた。完全な振り遅れだ。さらにバット自体もボール2個分は下をスイングしていた。


「す、ストライク!」


「なっ!?」


打席の湯川は野上の投球に驚いた表情を見せている。


そしてそれは東星学園のベンチにいる選手たちも同様である。


「お、おい下原!相手のピッチャーのボールは捕れないから打ち頃のストレートが来るんじゃないのかよ:


「そ、そのはずだよ!あれは偶々のまぐれだ!」


「そうだ。それか元々構えたところにドンピシャに投げ込まれたんだ!!」


相手チームの一人がベンチで騒ぎ出すが、下原や新田がなんとか火消しをするようにその理由だと考えられることを話している。


打席の湯川も聞こえてきた内容に同意するように首を振っているが、動揺しているのは確かである。


ここは考える隙を与えない。


打席を外していないので、野上にサインを送る、それを見て野上は投球動作に入った。


湯川は慌てたように構えるが、ボールは外角低めに構えたミットに収まる。


ややコースは甘かったが、動揺していた湯川はバットを振ることなく見送った。


「ストライク!」


主審は再度ストライクを宣告し、カウントが2ストライクとなる。


「た、タイム!」


湯川は慌てて打席を外し、一度ベンチにサインを確認する。


向こうのコーチがサインを送る仕草を見せているが、今の湯川の精神状態ではまともに打てないだろう。よっぽどの失投がない限り、もう勝負はついている。


俺の考えは結果として間違ってはおらず、3球目は野上が高めのストレートを投じると、湯川は振り遅れて、空振り三振となった。


三振となった湯川はベンチに戻って行くと、相手ベンチの前にいた2番打者とコーチに話しかけている。


「す、すいません」


「謝罪はいい。相手投手は打ちのレギュラークラスだと考えて戦うしかない。それよりあの投手の持ち玉は?」


「俺もストレートが速くて捕れないと言うことしか」


「おい、下原、新田!お前らは知らないのか?」


「こ、コーチ、すいません。練習会ではストレートが速くて捕れなかったので、実際にどんな持ち玉があるのかは...」


「くっ、なら1巡目は徹底的に見ていくぞ」


「「「はい!!!」」」


ベンチ前での会話が終わり、2番打者の田ノ上が左打席に入る。


正直ベンチ前での会話が聞こえてしまっているので、こちらとしてもその通りなら攻め方はこうだ。


俺は野上にストレートを要求すると、野上はなんの躊躇もなく俺の指示通りにボールを投げ込んでくる。


1球目は内角に投じられたボールに田ノ上はわずかに腰を引いた。


ミットを動かさず捕球したボールはストライクゾーンをしっかりと通っている。


2球目も変わらずストレートを外角に要求する。ボールは構えたミットよりも二つ分外に外れているが、田ノ上はスイングすることも出来ず見逃した。


これでカウントは1ボール1ストライクとなるが問題はない。田ノ上の様子を見るとストレートに反応できていない。


3球目も続けてストレートを外角へ要求する。今度は構えた通りのコースに来たボールは問題なくストライクゾーンを通る軌道だ。


「ストライク!!」


田ノ上はスイングしたが、これも明らかにタイミングが合っておらず、振り遅れた。


「野上ナイスピッチ!次で決めよう!」


俺はボールを野上に投げ返しながら、打席にいる打者に聞こえるようにそう告げる。


「なっ!」


田ノ上はこちらを睨んでくるが俺は知らん顔で野上にサインを送る、カウントは1ボール2ストライク。ピッチャー有利のカウントである。


田ノ上はバットを構えてなんとか食らいつこうという表情を見せていた。


「(2ストライクと追い込まれているからなんとかストレートは食らいついてカットする。甘いコースにくるまで粘るしかない!)」


俺のサインを確認して投じられた4球目


ぐっとバットグリップを握った田ノ上は先ほどまでのタイミングに合わせてスイングの動作に入る...が


「(ボールが来ない!!)」


俺が要求したのは打者のタイミングを外すチェンジアップ。


タイミングを完全に外された田ノ上はボールがホームベースに届く前にスイングの動作は終わっていた。


「ストライク、バッターアウト!!」


二者連続三振を奪った野上は満足そうな表情を浮かべ、早く次も投げたいとこちらに視線を向けている。


「野上!ナイスピッチ!」


「次も三振狙えー!!」


バックも野上の好投に盛り上がる。


一方で東星学園ベンチは予想外の展開なのか、まだ動揺した様子である。


「おい、あのキャッチャー完全に野上のボールを捕球してるぞ」


「あ、ありえない」


新田の焦る表情が見えた、いい気味である。


3番打者である仲村が左打席に入るが、この打者もストレートとチェンジアップで翻弄し、

5球目のストレートをバットに当てられるも、力ない打球がサードのファールゾーンにフライが上がり、羽川が難なくキャッチして3アウトを奪った。


「よし、野上ナイスピッチ!2回からも頼むぞ」


「俺が先制点をあげてくるから気楽に投げなよ」


天江がバットとヘルメットを取りながら軽口を叩いて打席に向かっていく。


一方の東星学園のナインはなんとか気を取り戻そうと声をあげている。


「し、仕方ない!点を取るのは苦戦するかもだが、俺が同じように抑えればいいんだ。チャンスが来るまで抑えるから守備は頼むぞ!」


「お、おぅ!2回は俺からだ。まずは野上から1本ヒットを打つぞ!」


下原の言葉にファーストに向かいながら清川が答える。


「あぁ、試合はこれからだ!」


「まずは無失点に抑えよう」


ナインも続いて守備位置についていく。


防具を外す俺に桜木さんがサポートに近づいてくる。


「ナイスリード」


「ありがとう、このまま1巡目は問題なければストレートとチェンジアップで組み立てる予定だけど?」


「それでいいわ。スライダーは2巡目まで温存しましょう」


「了解、他に注文は?」


「先制点!」


そう言って防具を外し終えた俺の背を叩き、俺の返事も聞かずにネクストバッターズサークルへと向かわせる。


1回裏の攻撃は1番の天江から、2番打者の俺も下原の投球練習を眺めて、打席に備えるのであった。


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