5月1週目 ①
5月、長期休暇となるゴールデンウィークは土日の休みと重なって6連休となっていた。
なっていたと過去形になっているのはすでにゴールデンウィークは終了して本日は5月7日、平日として日常に戻って現在は朝のホームルーム前の時間である。
クラスメイトは思い思いに友達とゴールデンウィーク中の思い出を語り合っている。
俺もいつものメンバーである古賀、斉藤、そしてゴールデンウィーク中も同じ部活のためほぼ毎日顔を合わせていた大木さんと話しをしているところだ。
「女子バスケ部は監督の伝手で連休中は滋賀に遠征して向こうのチームと合同練習と練習試合だったんだけど、もうボロボロ。フィジカルの差って言いたくないけど、相手校のレギュラー全員170cm以上でセンターに至っては190cm。中からボコボコにやられちゃったわ」
斉藤さんは悔しそうに手をぐっと握りながらそう話す。
「それでもレギュラーで試合に出るだけでもすごいね。それに凪咲ちゃんは一人で18点も取ったんでしょ?バスケに詳しくないけどスコアの3分の1近いの点数を取ってるってすごいよ!」
話を聞いていた大木さんが斉藤さんを励ますようにそう話す。
試合自体は48-91と大きくスコアを離されて敗北したらしいが、その中でスモールフォワードのポジションのレギュラーとして出場した斉藤さんは、それだけの活躍をしたそうだ。
「今のうちの学校はどうしても1年だけのチームだから3年間の上積みがあるチームには厳しい部分があるよな」
「あー分かる。サッカー部もこの連休中に練習試合が2試合あったんだけど、3年主体のチームには1-3で負けて、1年生チームとの試合は3-0で勝ったわ」
俺の言葉に同調するように古賀が口を開く。
「サッカー部は今20人のチームなんだけど、やっぱりレギュラーはスポーツクラスの選手が中心でさ、監督はこの時期はいろいろ選手を試すっていってくれてるから、俺も試合には出れたんだけど、どうしても後半戦の途中交代からだから悔しいぜ」
「それでも試合に出られるだけでもすごいよ」
「古賀ってポジションどこなの?」
古賀のサッカー部での話に大木さんと斉藤さんは話を聞いている。ちなみにバスケ部の話をしていた斉藤さんと目が合ったが、話題を取られたことに苦笑いを浮かべていた。
「俺はサイドバックだぜ。大木さんサイドバックってわかる?」
古賀の質問に大木さんが困った表情を浮かべる。
「サッカーわからなかったらわかんないよね。古賀、麻衣を困らせないでよ」
「えぇー!大木さんごめん!」
「凪咲ちゃん、古賀君は悪くないよ。私がわからないのが悪いんだから」
「大木さんは優しいよね。それに比べて斉藤は...」
「あーん!?」
古賀の失礼な物言いに斉藤さんがメンチを切っている。なかなかの迫力に古賀はタジタジである。
その様子に笑いが堪えきれなくて、俺は思わず声を出して笑ってしまった。そして笑い出した俺を見てメンチを切っていた斉藤さんも同じく我慢が出来ずに笑い出す。
「古賀は将来絶対に奥さんに尻に敷かれるタイプだ。間違いない」
「それね」
「ちょっと二人とも」
俺たち二人の言葉に大木さんも口元を押さえている。なんとか笑いを我慢している様子だ。
「大木さんに簡単に説明すると、サイドバックっていうのはいわゆる守備的なポジションのひとつで、サイドとあるようにピッチと呼ばれるこのフィールド内の両サイドのこの場所を担当する事が多い」
俺は手元に置いていたノートをサッカーのピッチに見立て、サイドバックの大まかな位置を指し示す。
「攻守に自陣と相手陣を縦に走り回ることの多いポジションだから、サイドバックの選手も攻撃的な選手もいれば守備的な選手もいて面白いポジションだよ」
これまで自分でサッカーをプレーしたことはないが、某有名なサッカーゲームやゲームセンターにある海外選手や一部日本人選手も採用されているカードを用いて自分の好きなチームを作って対戦するカードゲームに一時期ドはまりしていた。
ちなみに好きなフォーメーションは3-6-1である。
「ハルはサッカー語れるから是非一緒にサッカー部に入って欲しかったんだけどなー」
「ハルって体型に似合わず運動神経すごくいいもんね。それに入学してまだ1ヶ月だけど、ちょっと痩せてきたよね」
「それな!野球部で相当絞られてるのか?」
二人の心配する声に俺と大木さんは苦笑いを浮かべる。
もちろん野球部でも運動はしっかりとしているのだが、どちらかというと絞られているのは練習後の桜木さんとのトレーニングの方なのだが。
ちなみにこの一月でベルトの穴は二つほど絞ることができた。体重は予定通り減っているが、桜木さんの監視の目はまだまだ緩まない。
「ちなみに野球部はこのゴールデンウィークはどうだったんだ?」
「そうそう、実際どうなの?」
二人の問いかけに俺はこのゴールデンウィーク期間中の試合内容を回想する。
練習試合は3試合行われた。
1試合目は京都から遠征で来てくれた木津川高校。京都府の南部に位置する木津川市にある公立校だ。
この高校は過去に一度だけプロ野球選手を排出したことがある公立校で、当時は甲子園の出場こそならなかったものの、京都府大会の決勝まで進んだことがあり、そのときのエースピッチャーこそ、プロ野球に入団した選手である。
その年以外では目立った成績は上げられていないが、5年前にも一度準々決勝まで進出していたらしい。
この日は相手チームからの了承もとれ両チームDH制を導入して練習試合を行った。
スタメンは1番ショート天江、2番ファースト小松、3番レフト野上、4番サード羽川、5番DH長瀬、6番セカンド渡部、7番ライト安藤、8番センター田川、9番キャッチャー金沢、ピッチャー松山
控えに佐藤、山田の2名
試合は3-5で桜阪学園は敗北した。
先発の松山は5回まで投げて被安打9、2四死球、味方のエラーも絡み5失点。6回からマウンドを引き継いだ天江は3回を被安打2の無失点で抑えた。
練習試合の方針としては1試合を3イニングずつ投げるという方針であったが、ゴールデンウィーク中は3試合を戦うのと、イニング数を投げる練習を行うということで例外的にイニング数が伸ばされた。
松山は3回までであれば球威のあるボールを投げられるが、4回以降は球威が落ち始めて痛打される場面が増えた。それでも責任イニングである5回を投げたのは立派だった。
天江が変わろうか?と無意識の煽りをしていたので、それにむかついて投げきったのかもしれない。その後ろでは野上も肩を回して無言のアピールをしていたが、今日は登板の予定がなかったため、アピールは不発に終わったのだが。
打撃陣は相手投手から3点は奪ったものの、先日のミーティングでも課題に上がった田川、渡部、小松、安藤、長瀬、そして途中交代で入った山田のところで上手く打線がかみ合わなかった。
この5人のうち安打を放ったのは小松と安藤。
二人はそれぞれ4打数1安打でヒットを放ち、特に小松には打点が1ついた。
一方の田川は3打数でノーヒット(犠打1)、長瀬は4打数ノーヒットで2三振。山田は途中交代で1打数ノーヒットだった。
天江は4打数2安打、野上はツーベース1本の3打数1安打1打点、1四球。羽川は勝負を避けられ4打席ほど打席に入ったが、2死球含むノーヒット(犠牲フライ1)1打点。俺は3打数で1安打に終わった。
ベンチにいた佐藤はこの日はアップ中に指を負傷し、大きな怪我ではなかったため出場することも出来たが、念のために欠場した。
ちなみに俺が9番の打順にいるのは練習試合前に桜木さんから全員に説明があった。
理由は2つ。
一つはキャッチャーというポジションで肉体的にも負担があるため、この連休中の試合はキャッチャーに専念させるとのことで打順を後ろに下げた。
二つ目の理由は公式戦に入るまではなるべく全員に打席に立ち実戦の場に立たせるため。もちろん練習でも打撃練習は行っているが、やはり実戦の場に立って打席に入らなければ経験値はつめないのだ。
桜阪学園野球部として初の敗戦、チームとして課題が浮かび上がった試合だった。
2試合目は大阪府の私立高である放出学園。
大阪府の中でも難読漢字である大阪市城東区にあるこの地名を冠するこの学園は野球部にも力を入れており、ここ数年でも何度か準々決勝に進出した実績があるそうだ。
この日は桜阪学園として初めて相手校に赴いて試合に向かったのだが、あいにく2・3年のレギュラー陣は別の学校に練習試合に出ていたそうで、この日の相手は俺たちと同じ1年生で組まれたチームだった。
この日はDH制は採用されなかった。
スタメンは1番センター佐藤、2番ピッチャー野上、3番ショート天江、4番サード羽川、5番ファースト松山、6番レフト山田、7番セカンド渡部、8番ライト長瀬、9番キャッチャー金沢
控えに小松、安藤、田川
試合結果は5-1で桜阪学園の勝利。
先発の野上は7回途中で豆を潰してしまい降板となったが、6回1/3を被安打2、四球2で自責点1。
今日もストレートが走っており相手打線を寄せ付けなかったが、7回に豆を潰したことが発覚するまでに連続で四球を与えてしまい、降板となった。
後を継いだ松山は後続を最少失点で抑え、2回2/3を被安打3の1失点(自責点0)で抑えてくれた。
なお余談ではあるが、野上は豆を潰すまで黙っていたことを桜木さんに怒られ、本来3試合目も3イニングを登板する予定であったが、罰として登板予定は取り消されてベンチでの応援を言い渡されていた。
打撃陣の方はと言うと、3回に野上のヒットと羽川の犠牲フライで2得点。5・6・7回にも1点ずつ加えることができた。
打撃に課題を持つ6名のうち1試合目で無安打だった長瀬が1安打とピッチャーで1試合に打席に立たなかった松山にもそれぞれ1安打1打点が生まれた。
佐藤は4打数1安打、死球1。野上も4打数2安打1打点。天江は4打数1安打2四球。羽川は4打数1安打2打点(犠牲フライ1)山田と渡部は3打数でノーヒット。
途中出場の小松、安藤、田川もそれぞれ1打席ずつ打席に立ったが無安打に終わった。
俺は相手ピッチャーの抜け球を捉えてレフトへのソロホームランを放ち3打数1安打1打点という結果だった。
そして迎えた練習試合3試合目。
大阪府の箕面市にある公立校の箕面中央高校を学園のグラウンドで迎えた俺たち。
この学校も直近で大きな実績を上げたことはない一般的な学校ではあったが、ピッチャーが左のアンダースローという変わり種の相手であった。
この日もDHは採用されなかった。
スタメンは1番レフト田川、2番ファースト松山、3番サード長瀬、4番ピッチャー天江、5番ショート佐藤、6番セカンド小松、7番センター山田、8番ライト安藤、9番キャッチャー金沢。
控えに野上、渡部、羽川となった。
試合の結果はというと2-1でなんとか勝利することが出来た。
先発の天江は7回を被安打6も無失点。本日もテンポの良い投球で打たせて取るピッチングを桜木さんに指示されそれを実行した。それでもランナーが2塁に進むとギアを上げた投球をしていたのは、点を取られたくないという意識が働いたのだろう。
本来なら6回で降板する予定だったが、前回の野上の豆を潰したことによる罰の影響もあり、3連投になった松山の負担を軽減するべく7回までの登板となった。
天江本人は完封も狙えたので続投することを提案していたが、桜木さんはやや考えた上で松山への継投を指示していた。そして桜木さんの指示であればおとなしく言うことを聞く天江はおとなしくマウンドを降りて、そのまま羽川と交代してベンチに下がった。
松山はカーブの失投をホームランにされた1失点以外は安定して2回を抑えてくれた。ただその1球が本人としても相当悔しかったのか、試合終了後も落ち込んでいた。
打撃陣の方は左のアンダースローに3巡目まで大苦戦してしまったが、6回に天江と佐藤の連続ツーベースで1点を奪い、8回にも四球とエラーが絡んだ中で1点を奪った。
この日は田川にも1安打が生まれたが、唯一4月からの練習試合で無安打が続いてしまった男がいた。山田のことだ。
5試合で一人だけノーヒットと言うことで、試合後にも思い詰めた表情をしていた。周りのメンバーは口々に気にするな、結果はいずれついてくると声を変えたが、山田の表情はさえなかった。
個別のメンタルケアは桜木さんが行うとのことだったので、当日は特に声を掛けなかったのだが、今日の練習の際に改めてフォローを入れようと心に決めた。
そんなことを考えながら3人との会話をし、やがてチャイムが鳴り一日がスタートする。
そんな中、午前中の授業が終わった昼休み、俺の元に訪ねてた人間がいた。
「金沢、ちょっと時間いいか?」
「山田?大丈夫だけど」
現れたのはやや深刻そうな表情を浮かべる山田の姿であった。




