4月4週目 練習試合②
桜阪学園と枚方工業高校の練習試合は1回の攻防を終えて、2回表の枚方工業高校の攻撃に移っていた。
打席には枚方工業高校の4番打者が右打席に入る。180cmを超える体格で素振りを見る限るスイングスピードも速い。調べられた過去のデータでも確認したが、このチームの得点源はこの人のようだ。
マウンド上の松山も相手の4番と言うことで表情には緊張の色が窺える。
だが今後ピッチャーとしてこの人以上の強打者との対戦も必ず出てくるはず、ここは強気のリードで攻めることにする。
松山の投じた1球目、内角に構えたミットだったが、構えた場所からボール数個分外れボールとなる。
2球目は外角にスローカーブを要求するも、これもストライクゾーンから2個分外れてボール。続く3球目は外角のストレートがバットに当たるもライト線を大きく外れるファールボールとなる。
だが2ボール1ストライクからの4球目、低めに要求したストレートのコントロールが甘くうちゴロのコースに来てしまい、力強くスイングされたバットに打ち返されて、打球は左中間に飛んでいく。
「怜央!落ち着いて打球処理!ゲンは打球カバー!ボール3つは絶対行かせるな!」
レフトの守備につく田川やセンターの佐藤に初めての打球処理の機械が訪れる。俺はそれぞれの守備位置のメンバーに大声で指示を送りながら打球の行方を追いかける。
ボールはライナー性の軌道で左中間を飛んでいく。二人とも打球を懸命に追いかけるが打球はその間をバウンドし、打者走者は一塁コーチャーの指示を確認して2塁を奪おうとそのまま走ろうとしている。
バウンドしながらも勢いよく転がるボールはそのままフェンスに到達し、レフトの田川の方にバウンドする。田川はクッションボールを落ち着いて処理して中継に来ていた天江に投げ返すが、天江がボールを受けて振り返った時には打者走者はスタンディングダブルで2塁に到達していた。
打者走者がタイムを要求してゲームがストップする。その間に天江からマウンドに戻ってきた松山へボールが戻される。俺から声を掛けに行こうかと考えたが、天江と一言二言話すと、天江は守備位置に戻っていく。
松山もピッチャー経験があると言うことなので、ピンチを迎えるのも初めてではないだろう。ここはそのままリードを行うことにした。
相手ベンチはノーアウト2塁というチャンスに盛り上がりを見せている。相手監督はネクストバッターズサークルにいた5番打者に一言何かを伝えると、5番打者は左打席に入ってバントの構えを見せる。
俺はベンチにいる桜木さんに確認のため視線を送る。彼女は指先を1つだけ伸ばしている。これは試合前から決めていた内容と変わらない。
直近の試合ではなれない守備位置でのミスから守備が崩れることを防ぐためにアウトカウントを1つ稼ぐことを優先ということに決まっている。もちろん取りに行けるアウトは狙いに行くが。
「内野バント警戒。無理せずまず1つアウト取ろう。外野は4つね」
俺の指示に先ほどの俺の打席の際と同様、ファーストとサードがバント警戒のために守備位置を前に出し、外野も数歩前進してくる。
松山へサインを送ると、1球目は内角にスローカーブを投じた。
打者はバットを引かずそのままバントし、打球はすぐにワンバウンドするとフェアゾーンをファーストの方向へ転がっていく。
「ジン、ボールファースト」
「OK」
小松はボールを捕球すると、ベースカバーに入った渡部に送球する。タイミングは難なくアウトではあったが、その間に2塁にいたランナーは3塁に到達している。
続く相手の6番打者が右打席に入る。
「内野前進、外野もタッチアップ警戒!」
1アウト3塁なので外野フライでのタッチアップはもちろん、スクイズや内野ゴロでのホーム突入など得点のチャンスは幅広い。
ピッチャーの松山には力強いボールを投げ込むようジェスチャーを送るが、これが力みにつながったのか、この打者にはストライクが入らずストレートの四球を与えてしまう。
打者走者はファーストに向かう中で俺は主審にタイムを要求し、打者走者が一塁に到達した時点でタイムがかかる。
俺は内野陣をマウンドに集めて打ち合わせを行う。
「千晶、ボールは悪くないから変わらず投げていこう」
「1回が出来過ぎだったんだ。落ち着いて行こう」
「わかってるって。打たれて当然なんだから守備は任せる」
俺や羽川の言葉に落ち着いた様子で返事をする。
「守備はどうする。ゲッツーシフト?それとも中間守備でいくのか?」
渡部の質問に天江がニヤニヤしながら俺に話しかけてくる。
「ていうかたぶん走ってくるでしょ。だからさ」
そう言って耳打ちしてきた内容はまだ全体練習としては取り組めていないものだった。
「それやって後から小言をもらうのは俺なんだけど」
「カナがミスらなければ大丈夫でしょ。出来ないのか」
不敵に笑う天江に俺も覚悟を決めて了承する。
主審からもプレーの再開を早く始めるように指示が入ったため、内野陣はそれぞれの守備位置に戻っていく。
選択したのは中間守備、ホームでのアウトと2塁でのゲッツーをどちらも狙うことを選択した。
相手の7番打者が左打席に入る。打者はバットをそのまま構えているが、スクイズの可能性もあるため警戒は必要である。
松山は1球ファーストへの牽制を挟み、セットポジションから投球動作に入った。
それと同時に1塁ランナーは初球から盗塁のスタートを切った。
松山から放たれたボールは外角を外したコースに投じられる。バッターはスイングをして盗塁を援護するが、それを回避して二塁にボールを投じる。
「投げた!!Go!!」
相手ベンチは3塁ランナーにホームを目指すよう一斉に声を掛け、それを合図に3塁ランナーはスタートを切ってホームに突っ込んでくる。
「甘いぜ!!」
2塁めがけて投じられたボールをその手前でカットした天江が素早く捕球し、ノーステップでホームベースを守る俺の元に送球する。
3塁ランナーがホームベースに滑り込む手前で俺のキャッチャーミットにボールは届き、滑り込んでくる足にタッチする。
「アウト!」
タイミング的にも問題ない返球だったため、主審もアウトを宣告してくれた。油断することなく2塁を奪ったランナーが進塁をねらってないか牽制し、2塁に戻ったことを確認して松山にボールを戻す。
今のプレーに相手ベンチは意気消沈し、残念ながら俺たちのチームはベンチに残っている選手が一人しかいないため盛り上がってないが、それでも桜木さんはナイスプレーと声を掛けてくれている。目は笑っていないが…
2アウト2塁となり、状況的にピンチは続くが先ほどよりは失点の可能性が少なくなり、また相手の8番打者の打力も高くなかったため、セカンドへの平凡なゴロとなり、2回の表も無失点で終わることが出来た。
2回裏の攻撃は7番の安藤からの打順であったが、安藤は2ストライクからショートゴロ、8番の渡部が三振、9番の田川は初球を引っかけてサードゴロという結果に終わり、三者凡退で終了した。
3回表の枚方工業高校の攻撃も9番打者が2ボール2ストライクからピッチャーフライ。
1番打者が1ストライクからの2球目を打ち上げたが、力ない打球が3塁のファールグラウンドに上がり羽川がキャッチして2アウト。
2番打者には四球を許したが、3番打者には2ボール2ストライクから3球ファールで粘られたが、最後はスローカーブで空振りを奪い、今日初めての三振を奪い、3アウトとなって攻守交代を迎えた。
「ナイス三振」
「まぁその前の四球は余計だけど」
「まぁ松山らしいよね」
「ナイピッチ」
ベンチに戻る松山に守備についていたナインが声を掛けながら戻っていく。
ベンチに戻った松山は予定の3回を無失点で乗り切った事への喜びからか、グラブをベンチに置くとすぐさまベンチの最前列の前に出てきて声をあげている。
同じく守備から戻った天江がヘルメットを被りながら打席に向かう準備を行いながら松山に声を掛ける。
「さぁ、4回からは俺の番だから、その前に1発放り込んでもう1点追加してくるぜ」
あきらかにホームランを狙うと宣言してから打席に向かっていく。
天江のビックマウスに松山も苦笑いしてるが、それでもすぐに激励の声をあげてチームを鼓舞している。
「来た!絶好球!!」
天江が打席に入り、2ボールから投じられた高めのストレートを強打すると、打球は空高く舞い上がり、センターは後ろを向きながら追いかけていき、その間も打球はぐんぐんと伸びていき、センターがフェンス手前で足を止める。
入ったか!?
俺たちは打球がフェンスを越えることを願い、枚方工業高校のナインはなんとかセンターが捕球することを願って打球の行方を追いかける。
「ガッシャーーン!!!!」
フェンス上部の柵部分に当たった打球はクッションしてセンターがいた位置から少し離れた場所に落ちる。
いい打球だったがホームランとはならず、だが打球処理に戸惑っている間に3塁も狙える長打となった。
センターが打球を捕球し中継のセカンドにボールを送球した頃には天江はすでに2塁を蹴っており、ボールが3塁に届く前にベースに滑り込んでいた。
「「「ナイスバッティング!!!」」」
1回に続き天江の長打からチャンスを生み出し、桜阪学園のベンチはまたしても盛り上がっている。
2番打者の俺が打席に入る。桜木さんからのサインは打て。
ノーアウトからのピンチに枚方工業高校の内野陣はマウンドに集まり、少しの間打ち合わせをして守備位置に戻っていく。
相手バッテリーは攻め方を変えたのか、内角をガンガン突いてくる投球で初球はファール、2球目と3球目がボールとなり2ボール1ストライクとなる。
4球目、この打席初めての外角へ逃げるスライダーが投じられるが、俺は待ってましたとバットを振り、打球は右方向へフライがあがる。
少しバットの先に当たってしまったが、打球はライトが定位置から少し下がった位置で足を止める。
ライトが捕球と同時にホームへボールを投じる、そして捕球のタイミングに合わせて3塁ランナーの天江もホームベースに突っ込んでいく。
ライトの送球を受けたセカンドがキャッチャーへ送球するが、2秒ほどの余裕を持って天江はホームベースに滑り込み、俺の犠牲フライとして3点目を獲得した。
「アマはナイスホームイン!!」
「カナもナイス犠牲フライ!」
「カナもホームラン狙って打ち損じたのか!」
ベンチのメンバーは笑いながら俺と天江の帰還を祝福してくれる。
「いやー感触的には超えたと思ったんだけど。まぁサイクルヒット狙うぜ!」
天江は残るホームランとシングルヒットで達成できるサイクルヒットを狙うと息巻いている。その様子にベンチに残るメンバーもさらに盛り上がる。
3番の佐藤は2球ファールボールを打った2ストライクからの3球目をセンターにはじき返し、4番の羽川は四球で出塁しノーアウト1塁2塁に。
3回まで好投した5番の松山は初球をファーストに転がし、2塁はアウトとなったが打者走者である自身はなんとかセーフになり1アウト1塁3塁にかわる。
先ほどファーストゴロに終わった小松は挽回と言わんばかりに5球目のストレートを三遊間を破って、1点を追加して4-0に、ランナーも1塁2塁とチャンスは続く。
だが7番安藤と8番渡部はそれぞれ空振り三振となり、3回裏の攻撃は終わった。
「よっしゃ!!ここからはサクサクとアウトを取っていくぜ!!」
そして4回からは天江がマウンドに上がる。山口先生が主審に選手交代を告げ、ピッチャー用のグラブを手に楽しそうにマウンドに向かう天江に続き、桜阪学園の選手は守備位置に向かう。
練習試合は中盤戦を迎えていくのだった。




