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元女房役の俺の元に押しかけてくる恋女房?  作者: コーヒー


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13/30

4月3週目 ②

仮入部期間が終わった最初の土曜日、正式に入部した選手とマネージャー・スカウティング班、そして学生監督の桜木さんを合わせた19名は練習を本格的に開始する前に部の所信表明を行う監督の話に耳を傾けている。


「それじゃあ、まずは総勢18名がこの桜阪学園野球部の記念すべき1期生として入部してくれて感謝しています。」


そう言って全員に深々と頭を下げてお礼を述べる桜木さん。


「仮入部期間にも話したとおり、この部はスタート時点で就任予定の監督が不在になるという逆風から始まり、正直に言って波乱に満ちたスタートを迎えています。でも、そのおかげで私が学生のみでありながら監督に就任できるという幸運が生まれました」


「凰花!俺がお前を支えてやるからな!!」


桜木が幸運と言って不敵な笑みを浮かべたところで、彼女の幼馴染みである天江が声を上げる。


「天江君、私が話しているときは黙って聞いてください。後でグラウンド外周5本走ってください」


「お、凰花―。いつもみたいに玲二って呼んでくれよー」


「うるさい、プラス5周」


そんなやりとりを見て爆笑する部員一同。俺も腹を抱えて笑ってしまった。


桜木さんが咳払いをすると、全員で傾聴の姿勢に戻る。


「まずは部内の絶対ルールとして全員に徹底してもらいたいことがあります。1つ目は私が監督であるということは絶対に口外しないと言うこと。」


そう言って彼女は3つ指を立てる。


「目的は対戦相手への攪乱。山口先生にはこの部の顧問を務めてくださいますが、対外的には監督として実際にベンチに入り、采配を振るう...ふりをしてもらいます。実際の際はマネージャーに分した私からサインを出しますが、同様に山口先生にも同様にカモフラージュのサインを出してもらいます。実際にその通り動くこともあれば、全く別の動きをとることもあるので、対戦相手にサインの法則性を見破られても問題ありません」


たしかにどのチームも監督として登録されている人物がサインを出していれば、まさか本当にサインを出しているのがその隣にいるマネージャーだとは思わないだろう。これは面白い作戦だと思う。


俺と同じ意見なのだろう。周囲の部員も同様に頷いており、特に反対意見は出ていない。


「2つ目は当事者意識をもって行動すること。全員認識しているとおり、この部は現状1年生しかいないのでそもそもの人数が足りません。練習の準備などマネージャーやスカウティング班もサポートしてくれますが、まずは選手であるあなたたち12名が誰ひとりサボることなく率先して行動すること」


「ポジションはまずはそれぞれの経験に合わせて考慮していますが、各自が複数のポジションを守れなければチームとして成り立ちません。そのためには自分が上手いと思うのであれば率先してその技術を仲間に教える。自分の実力をひけらかして、他者を見下すプレーをする選手はいかにチームの戦力であってもレギュラーから外します。その結果、例えばあと一勝で甲子園に出場できるという状況でもです。これは私の決意でもあるのでこの場で宣言しておきます」


そういう桜木さんの目には強い意志を感じる。


「3つ目は悩みがあれば必ず周りに相談してください。2つ目でも話したとおり、メンバーが一人足りなくなるだけでもチームとして非常に痛手です。プレー面はもちろん、気になることは内に留めず、誰かに相談しましょう。幸いなことに、私たちは全員同級生で上も下もありません。せっかくチームの自主性に任せてチーム作りができるのだから、問題点は全員で解決していきましょう」


「「「「はい!!!!」」」」


桜木さんの言葉に部員一同で元気に答える。


「元気な返事ありがとうございます。では次に本年度の簡単なスケジュールと目標について説明します」


そういうと桜木さんの合図にマネージャーである土井さんと野田さんの二人がホワイトボードを彼女のそばに運んでくる。


ホワイトボードには4月から3月までのスケジュールが書かれていた。


「4月から始まる春の地区大会は学校の設立から野球部として申し込みをする期間が間に合わないため不参加になります。桜阪学園としての最初の大きな大会は夏の全国甲子園出場に向けた地方予選」


そう言って7月と書かれた場所に大きく印をつける。


やはり高校野球の花形と言えば夏の甲子園、というのはここにいる全員の共通認識であろう。


「夏の甲子園が終われば各チーム新体制に移行して、秋の地方予選が9月。そこを突破すれば10月に近畿大会。そしてそこで優勝すれば11月の秋の神宮球場での全国大会」


9月から11月までにも印をつけると、桜木さんは続けて言う。


「ここを過ぎると、新年度の春の地区大会はでは大きな大会はありません。我が桜阪学園はこの一年はまずは自力をつけていかないといけません。そのために!!」


そう言うと桜木さんはホワイトボードを裏返す。


「この仮入部期間の間に私やマネージャー・スカウティング班と山口先生総出で近畿中の野球部を抱える学校に連絡を取り、練習試合の日程を調整しました。断られた学校も多いですが、基本的には土日のほとんどは当校に招待、または先方の学校に出向いて練習試合を組んでいます」


そう説明する桜木の言葉通り、来週の土曜日を皮切りに毎週土日は学校名と地区がずらっと並んでおり、7月の甲子園地方予選までしっかりと予定が埋められている。5月の大型連休も一日おきに練習試合が組まれている。


「私たちのチームで必要なのは1も2も試合を通じた実戦経験とそこからの課題の抽出。そして各部員のレベルアップ。試合は投手経験のある3人で1試合を担当してもらいます。そして全員に様々なポジションも守ってもらいます」


「凰花、別に俺が完投してもいいんだぜ!」


「それじゃあチームの総合力アップにならないので却下です」


天江は何でもないことのように完投を宣言するが、桜木さんはその言葉を一切の躊躇もなく切り捨てた。


たしかにイニングを長く投げてもらうことはあるかもしれないが、長期的に考えればチームの総合力のアップを優先させるべきだろう。


「キャッチャーはもちろん希望者を募りますが、我が部には過去に実績のある凄腕キャッチャーがいるので、当面キャッチャーは金沢くんを固定します」


桜木さんの言葉に全員の視線が俺に集中する。すでに俺の過去については部内でも周知の事実なので改めて何か言うことはないのだが...


桜木さんの視線には別の意味が含まれているのを俺は気づいている。


「(だから油断せずにしっかりとダイエット計画を遂行しろ)」


野球部に入部以来、部活動終了後に桜木さん監修のもとダイエットを目的とした肉体改造のためのトレーニングを2人で行っている。


そして2人で決めた短期目標として10日以内にまずは1kgを減量するという目標。


結論からいうとクリアはしたのだ。


だがその油断と内部通報者(というか母ちゃん)の存在により、体重計測後の暴食とその結果増加した体重が桜木さんにばれた。


その結果、クリアしたのでペナルティこそ実施されなかったものの、中期目標である残り50日での5kgでの減量とは別に、改めて短期目標として10日で1kgの減量を言い渡され、短期目標がクリアできなければラーメン禁止令と自宅での食事制限を言い渡されることにった。


俺は人権を守るためにもこの邪知暴君からの課題をクリアしなければならないのだ。


「基本的には1週間のうち、土日の練習試合で各々の課題を抽出。月曜日は休養日としてMTGにて前日の反省点と個別での課題の抽出、そしてその対策となる個別の練習メニューを立案します。火曜日から金曜日は個別課題のトレーニングメニューの実施と全体での練習メニューの実施。このサイクルで動いていきます。イレギュラーな場合は別途対応します」


そこまで話して桜木さんは手を叩き、もう一度全員の視線を自分に注目させる。


「我が桜阪学園の最終目的地は甲子園に出場して優勝することです。これも目線はずらしません。私たちが3年の夏に卒業する頃には、深紅の優勝旗を学園に持ち帰りますのであしからず。皆さん、いいですね?」


「「「「おおおぉおおーーーー!!!!!」」」」


監督として部員全員に意思を確認し、俺たちも全力で応えた。こうして俺たち桜阪学園野球部は正式に動き出したのであった。


その未来は輝かしい栄光か、涙にあふれた挫折を経験するのか。桜阪学園の野球部の伝説?はここにスタートしたのであった。






「それでは、山口先生。先生もカモフラージュとはいえしっかりと監督として見えるように、守備練習時のノックは先生にお任せしますので、部員の皆さんと一緒に上手くなっていきましょうね」


そう言って少し離れた場所で活動を観察していた山口先生に桜木さんはノックバットと練習着を持って手渡した。


山口先生は鳩に豆鉄砲を食らったような表情でそれらを受け取り、なんともいえない表情で練習着に着替えるために室内練習場から出て行った。


そしてその光景を見ていた俺たちは「あぁ、悪い意味でのサプライズを食らったんだな」と先生が戻ってきたら優しい言葉をかけてあげようと心に決めたのであった。

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