死因
???「...て、...きて、おきて、おきて!!おきて!!!!」
今崎がハッと目を覚ます。目の前にはやせ細った目の大きい女性、その横には背の高い男性がいる。ここはどこだ?そしてこの人たちは?膝に手をつき立ち上がろうとすると体が動くことに気づく。
(生きてる、、、?俺は確か車にはねられたはず、なのに体がピンピンしてやがる。)
今崎「あの、、、ここってまさか天国じゃ、、、」
現実逃避するかのように苦笑いで冗談っぽく言った。
背の高い男性「お前も同じか」
今崎「同じって、、、まさか、お前も死んだのか?」
背の高い男性「ああ、俺とこの女そしてお前までも死んだはずなのに何故か傷一つなく、ここに存在している」
今崎は、一度やせ細った女性と目を合わせた後、辺り一帯を見渡す。12畳くらいの真っ白な部屋、そしてモニターが壁に埋め込まれている。扉などの出入り口は見当たらない。
やせ細った女性「はぁ、君もどうしてここに来たのかわからないのね」
今崎「わからない、、、目が覚めるとここにいた」
背の高い男性「出入り口が見当たらない、この場所にどうやって入ったか謎というわけだ。物理的に不可能ともいえる。それに、この密室空間に3人も居れば二酸化炭素の蓄積で多少の息苦しさを感じでもおかしくないはずだが、その様子はない」
やせ細った女性「それに、持ち物も全部なくなっています、、、衣服はそのままみたいですけど」
今崎「お前たち、ここに来るまでの記憶はないのか?」
背の高い男性「あったらさっさと言っている。」
やせ細った女性は無言で首を振っている。今崎は立ち上がり、恐怖と疑念を誤魔化すようにドンッ!ドンッ!と壁を殴ったり蹴ったりしてみたが、びくともしない。
背の高い男性「無駄だ、力技はさっき試した。このモニターもやけに頑丈に作られている」
今崎「モニター、、、?そうだ、このモニターは何のために設置されているんだ?」
今崎はモニターに近づき、じっくり観察した。モニターに触れた瞬間、
ジジッ・・・モニターが起動した。
『貴方達三人は、不慮の事故により命を落としました。ここは、自分の意志とは反して死んでしまった人に再命の機会を与える場所です。ですが、、、全員というわけにはいきません。私が指定する「ゲーム」をクリアした人だけが与えられる権限、すなわち本当に必要な命を厳選する場所とでもいいましょうか。』
(人間?それに女性だ。ということはモニターの向こうには人間が存在しているのか?もしかしたらコミュニケーションがとれるかもしれない、、、)
今崎「おい!待て!一体ここはどこなんだよ!俺たちは一度死んだはずだ!なのになぜ生きている!」
今崎は皆の気持ちを代弁するかのように怒鳴った。
『まもなくゲームが開始します。しばらくお待ちください』
(クソッ!何も教えてくれないのか。ただ、モニターの中に人間がいるのは間違いない。ゲームをクリアしたら再命?生き返られるってことなのか?そんな非現実的なことなんて、、、でも一度死んだはずなのにこうやって生きている、どういうことなんだ、、、)
モニターには「しばらくお待ちください」という文字だけが残っている。背の高い男はモニターを見つめたまま動かない。細身の女性はうずくまり床を見つめている。
背の高い男性「ふざけたことを言いやがるな。おい、お前、名前と死因、今まで何をやっていたかを教えろ。何か手掛かりがあるかもしれない」
背の高い男性は感情に基づくものではない理知的な口調で今崎に話しかける。今崎はそれを拒む必要はないと判断し答える。
今崎「あ、ああ俺は今崎。スマホ見ながら歩いていたら車にはねられて死んだ。ニートやってた。」
背の高い男性の冷静さに少し驚きながらも、自分の情けない死因と生前の行いの嫌悪感から淡白に答える。背の高い男性は興味がなさそうに目線を外す。
背の高い男性「お前は?」
背の高い男性はうずくまっている女性に目線を合わせることなく立ったまま見下すように問いかける。やせ細った女性は驚いた仕草を見せ、うつむきながら答える。
やせ細った女性「私は、、、上葉。マンションの屋上から飛び降りて自殺しようとした、足を前に出した瞬間急に怖くなってやめようとしたの、でも、その瞬間誰かに押された。屋上には誰もいなかったはずなのに、、、ああ、えっと仕事は心理カウンセラーをしてた。仕事のストレスと人間関係でね、、、」
(誰かに押された、、、?)
背の高い男「そうか、誰かに押されたというのが気になるな。俺は神田だ、脳外科医をやっていた。死因は一酸化中毒、手術中かなり大きい爆発音が聞こえた。手術を中断し、扉を開けると俺がいた手術室以外すべて燃えている様子だった。手術室は無窓だ、死に至るまでそう時間はかからなかった。」
その言葉を聞いた上葉が顔を上げる。
上葉「そんな、、、神田さんは脳外科医なんですよね、、、?しかも、手術中だった。ということはかなり大きい病院だったはず。私は仕事柄大病院に行き来していたけど、耐火建築で、スプリンクラーや自動消火設備がかなり充実していた、全焼するなんて考えられない」
神田「ああ、そのはずなんだが、おそらくそれが機能しないほどの大爆発だったんだろう。しかし、それほどの爆発で俺がいた手術室だけ無事だったというのにも違和感が残る。中央臨床医療機構病院、俺が所属していた病院だ。何かニュースとかは見なかったか?かなり有名な病院だ、話題になっていてもおかしくない。」
今崎「いや、そんなニュースは聞いたことないぞ、、、」
上葉「私も、、、」
神田「なるほどな、であれば俺たちはほぼ同時刻に死んだ可能性が高いと考えられる」
上葉「そうですね、、、私と今崎さんが先に死んだ後に、神田さんが死んだという可能性もありますが、私と今崎さんは即死、神田さんが死に至るまでは病院の爆発、そして一酸化炭素中毒の致死過程には時間がかかります。なにより、神田さんが一番最初に目覚めてましたからね。時系列がおかしくなります。」
神田「その通りだ」
神田は上葉に少し関心するように微笑む
(誰もいないはずの屋上で誰かに押されたという上葉と、不自然な病院の大爆発、女に目がくらんで轢かれてしまった俺、この不自然すぎる死が同時刻に起きたっていうのか、、、?)
今崎「さっきから思ってたんだけど、俺たち3人の死に方なんだか不自然じゃないか?」
神田「3人?どういうことだ、俺と上葉はそうかもしれない、だが、お前は歩きスマホで車に轢かれただけだろう。如何にもありがちな死因じゃないか」
今崎「いや、、、実は」
今崎は自分の死因について詳しく話した。
神田「ほう、その女が気になるな。もしかすると、この状況にその女は大きく関わっているかもしれない。それに、誰かに押されたという上葉の証言、病院の爆発、そして、かなり間接的ではあるが、今崎はその女に殺されたと捉えるものとすれば、それぞれが単独犯とは考えにくい、であれば、組織的な犯行か、、、だとしても規模が大きすぎるし、この場所と俺たちがなぜ生きているかの証明にはならないな」
『ゲーム開始1分前となりました。皆様心の準備をお願い致します』
神田の話を遮るようにゲーム開始準備のアナウンスがされた。
今崎「心の準備って、、、なあ、こんなゲーム本気でやるつもりなのか?」
神田「やるしかないだろう、普通なら信じがたいことだが、俺らはすでに死んでいるのにも関わらずこうして存在している、すでに非現実的なことが起きているんだ。それに、ゲームをクリアしていけば、この場所の謎が解けるかもしれない」
上葉「私、、、わかりません、、どうすればいいか、、、」
神田とは対照的に上葉はまだ気が動転しているようだった。
今崎「そうか、、、てかさ、クリアできなかったどうなるんだろうな」
その言葉を聞いた瞬間、神田の目つきは鋭くなり、上葉の瞳孔は激しく揺れ、今にも泣きだしそうな表情に変わる。思い出したのだ、あのアナウンスを。ゲームをクリアした者には再命の権限が与えられる。そうでない者は死ぬ、薄々わかってはいたが、この場所の謎を解くという現実に目を向けているようで、目の前のゲームが始まるという事実に目を背けていたのだ。少しの間、静寂の時が流れ、そのゲームが今始まる。
ジジッ・・・『お待たせしました、ゲームを開始します』




