水滴
ご案内いたします。前を走行している列車が、重大な人身事故に巻き込まれたため、現在全ての運転を見合わせております。事故現場での安全確認と対応に相当の時間を要する見込みです。運転再開時刻は未定となっております。お急ぎのお客様には大変ご迷惑をおかけいたしますが、状況が判明次第、改めてご案内いたしますので、今しばらくお待ちください。
(・・・これじゃあ、約束の時間に間に合わないじゃねえかよ、タクシーで行くか、、、?いやそれだと金がかかりすぎる。とはいえ歩いていくのも遠すぎるしな、しゃあねえ、今日は断って家でゴロゴロするっきゃねえな)
画面が割れているスマホをポケットから取り出した。
今崎「わりい、電車止まっちまって今日行けそうにないわ、なんか人が飛び降りたみたいでよ」
足立「うわ、、、人身事故ってやつ?そういやお前も彼女に振られたとき飛び降りようかなとかいってたよな」
電話越しだがニヤニヤしているのがしているのが伝わる。足立は小学生からの親友で、中学、高校ともに一緒だったが、足立は大学へ、今崎は大学へは行かずそのまま働いたが社会についていけずここ2年はニートをやっている。
今崎「うるせえ、あの時は本当に辛かったんだよ、でも、久々に会う予定だったのに残念だな。」
足立「まあこういう日もあるよ。お前はいつでも暇だろ?次予定空いたら連絡するわ。バイトと勉強が忙しくてよ、結構先になるかもしれんが」
今崎「皮肉かよ、てか、お前いつからそんな真面目になったんだ?中学の頃なんて俺よりバカだったのにな」
足立「お前が変わらなさすぎるんだよ。いい加減働かないと親も怒ってるんだろ?バイトで良かったら紹介してやるからさ」
今崎は自分に嫌悪感を抱きつつ、足立との電話を楽しんでいた。それから、足立の大学の話、今崎の悩み話やその他の世間話をして電話は終わった。
(そろそろ帰るか、、、人がざわざわしてて気持ちわりい。気のせいかもしれないけどなんだか血の匂いまでしてきた、、、)
今崎は落ち込んだ気分を晴らすべく、お気に入りのYouTubeを見ながら帰ることにした。信号を待っているとき、やけに綺麗な女性が隣にいることに気づいた。10代?20代?とにかく色白で綺麗だ。ジロジロ見ていると目が合ってしまったので、即座に目をスマホに向けた。内心ドキドキしながらも、冷静さを装いスマホの画面に目を向けている。YouTubeの内容なんて入って来やしない。スマホに目をやりながら20秒ほどたった後、横目で隣の女性が信号を渡り始めたことに気づいた。今崎はその後を追うように、スマホに目をやりながら前へ進んだ。
ドンッ!!!!!!!!!!!!!!!!
大きい音とともに宙を舞った。地面に叩きつけられ、周りの人が騒いでいる。体は痛いとかいう次元じゃなく全く動かない、自分の体じゃないみたいに。信号は青じゃなかったのか?じゃあ何故あの女性は前へ進んだ?単に車が信号を無視しただけなのか?じゃああの女性はどうなった?・・・・・・・・・
そういった疑念も次第に消え、親や足立、今までの思い出が脳裏に浮かぶ。その意識は長いこともつはずがなく、「失いたくない」という思いとともに、目から水滴を流し意識を失った。
その水滴は涙か血かわからない。




