episode8 街一番の美女
渡瀬伍長が連れていた街一番の娼婦は、
アリスという名前らしく、
「妹のスズと二人で暮らしているんですよ」
と、トムマウスは言う。そして、
「スズは魔法学校に通っていて」
優秀な生徒であるという。
この異世界には多種多様な魔法使いがいて、
あらゆる分野で活躍しているようだ。
「我々は、この世界を、よく知る必要があるな」
と、伊波中尉は言い、
「軍曹、町に残って調べてくれ」
俺に情報収集を命じる。
その後、俺は町外れのホテルの一室を
拠点にしたのだが、数日後、
「あんたが、ここにいると聞いてね」
そう言ってアリスが部屋に入ってきた。
俺は、この来訪に身構える。
「何だ、渡瀬伍長の敵討ちか?」
「アイツは、ただの客だよ、客」
アリスはガサツな女性だが、その姿は美しく、
赤い服から露出させた脚が艶めかしい。
「どういう、つもりだ。俺は金貨は無いよ」
「そんなんじゃないよ。頼み事があってね」
アリスの頼み事とは、妹のスズのことであった。
「最近スズは、しつこい男に付きまとわれていて」
その男を追っ払ってほしいというのだ。
そして、その謝礼には、
「金貨か、それとも私の体か。どっちがいい?」
と、聞くので、
俺は目一杯、格好をつけて一言、言い放つ、
「どちらも、いらないよ」
その翌日の夕刻、俺はアリスと共に、
例の男が浸っているという酒場へ向かった。
「何だよ、姉さん」
その男はガラが悪く、
派手な装飾を施した長剣を携えている。
アリスは奴を睨みつけて言葉を吐いた。
「もう、妹に、つきまとわないで」
「今夜は、ずいぶんと、強気だな」
そう言いながら男は俺を一瞥して、
「用心棒かい。テメェはアリスの客か?」
と、馬鹿するような声で言った。