episode54 ヘルメスの謀略
彼女の飛び回し蹴りを受けた瞬間、
俺の目の前に『幾つもの世界』が重なった。
「全ての世界は、この瞬間、同じ場所に存在する」
と、彼女は言った。
「時は存在しないわ。それは脳の錯覚」
「それなら俺と君との戦いの意味は?」
「意味などない。事象は起こるだけよ」
次の瞬間、俺は岬の断崖絶壁に立っていた。
彼女の姿は消えていて、
目の前には純白の鎧を着た将軍がいる。
「この崖は、かつては別の世界にあった場所だ」
「将軍よ、それで、この崖が何だというのだ?」
「その世界の崖で私は恋人と身を投げ心中した」
「そんな事は、この異世界には関係ないだろう」
「これで、ようやく私もマユのところへ行ける」
そう言って、将軍は崖から身を投げた。
こうして、この戦争は、
国王派の勝利により終結したのだが、
「ランスロット様、緊急事態です!」
岬に早馬の伝令兵が飛んできて報告する。
「ヘルメスが反乱を起こしました!」
伝令兵の話によると、
「ヘルメスは国王がオオワシの人獣であることを」
人々に暴露して、城へと攻め込んだというのだ。
「急げ、城に戻るぞ」
全軍に命令を下したランスロットだが、彼も、
「まさか国王が人獣であったとは」
と、動揺を隠しきれない様子であった。そして、
軍勢が町に到着するころには、夜になっていて、
「あ、あれは」
俺は町の光景に言葉を失う。
そこには無数の篝火が焚かれ、広場では、
オオワシの人獣の国王が火炙りにされていた。
「やあ、兵隊さん、ご苦労様でしたね」
酒に酔った町人が集まり、
帰還した俺たちに声をかけてくる。
「あなた方は、将軍の大軍に勝利したんでしょう」
「我らは城に攻め込んで、国王を処刑しましたよ」
だが、そうするとアリスの身も危ない。




