2話
2人は再び巡り会う。
一度目の別れから三年。
それは偶然じゃなかった。必然だった。
小学校の練習試合という一度きりの交差点、そこから交わることのないと思っていた道が、再び交わる日が来たのだ。
中学三年の夏——県大会の決勝。
くもり空の下、今にも泣き出しそうな空のもと。
笠見津中 vs 南陽中
異なる道を歩んできた二人の、再会の舞台だった。
「6番 ピッチャー 三上 明!」
低く、だが力強いアナウンスが球場に響き渡る。
背番号1を背負った少女は、マウンドに立つだけで空気を変えた。
静かな眼差し、無駄のない動作。見慣れたそのフォームには、すでに一種の貫禄すら漂っていた。
——あの時の彼女だ。俺が憧れ、打ちのめされた少女。
「1番 キャッチャー 辰馬 玲!」
名前を呼ばれた少年はヘルメットを深く被りながら、ゆっくりとバッターボックスに入った。
かつての少年ではない。だがまだ未完成の捕手。
それでもその目には、確かにあの時と同じ火が宿っていた。
一回表、先攻 笠見津中
先頭バッター、辰馬玲。
1球目。
インコース低め、ストレート。
——シュッ、と空気を切る音。
玲は迷わず振った。
だがミートはしない。空振り。
2球目。
外角いっぱいのカーブ。
反応したが、ファウル。
0-2。追い込まれた。
だが、あの時と同じだった。
——彼は、諦めなかった。
3球目、4球目、ファウル。
5球目、ボール。
6球目、ファウル。
7球目……!
甘く浮いたスライダーを捉えた!
ライナー性の打球がセンター前へ!
だが、明の守備陣は完璧だった。センターが前進してスライディングキャッチ。
「アウトォォ!」
スタンドから歓声が上がる。
けれども、マウンドの明は驚いていた。
"また……あなたは"
彼女は気づいていた。あの時のように、彼はただの楽しさでバットを振ってはいなかった。
そこには"届きたい"という意志があった。
—試合は進む。—
南陽中はやはり強かった。
2回に3点、5回に1点を加え、ジワジワと点差を広げていく。
だが、玲は負けていなかった。
キャッチャーとしての洞察、配球の妙、投手とのコミュニケーション。
特に彼のリードは、南陽中の監督にすら衝撃を与えていた。
「……あの捕手、バッティングも送球もまだ荒削りだ。だが……配球、性格、目配り……キャッチャーとして大切なものを、すべて持っている。」
誰もが思っていた。
この点差、普通なら二桁いってもおかしくなかった。
だが南陽打線が本気で振ったバットの多くが、空を切った。
—そして試合は終盤へ。—
7回裏、1点を返した笠見津中。
玲はまた打席に立つ。
2アウトランナー1塁。点差は3点。
明は全力で投げた。
玲もまた全力で振った。
——結果はショートライナー。
試合終了の合図が鳴った。
4-1。
それは、圧倒的な実力差のある者同士の試合にしては、あまりに接戦だった。
けれど確かな勝敗は刻まれた。
——玲は、負けた。
だが、明は誰よりも彼に拍手を送った。
試合後の整列時、再び視線が交わる。
「また、きっと。」
玲が口の中で呟いた。
それは届かないかもしれない言葉だった。
だが明は、その瞬間、確かに笑ったように見えた。
その空は、まるで二人の再会を祝福するように、ゆっくりと土砂降りになっていった。
——次に出会うのは、きっとあの舞台。
甲子園。
そこでまた合間見えると信じて。