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宿探し(再び)

オークステーキで満腹になった達也とリリアは、活気のある肉料理屋を出た。外はすっかり夜のとばりが下りており、空には月と無数の星が輝いていた。ランプの灯りが石畳をオレンジ色に照らし、昼間とはまた違った幻想的な雰囲気を醸し出している。


「ふぅ、食った食った!」達也は満足げにお腹をさすった。「少し腹ごなしに歩かないか? この街のこと、もう少し見ておきたいし」


「いいねー、夜の散歩! 昼間とはまた違ったものが見れるかもよ?」リリアも楽しそうに賛成した。


二人は、比較的明るく人通りも多い、大通りに近いエリアを選んで歩き始めた。夜のリベルは、昼間の喧騒とはまた違う、独特の熱気に満ちていた。酒場からは陽気な歌声や大声での談笑が漏れ聞こえ、道端ではランプを灯した小さな露店がまだ営業を続けている。香辛料の刺激的な香り、甘い焼き菓子の匂い、そして酒の匂いが混じり合い、異国の夜の香りを形作っていた。


行き交う人々の姿も多様だ。仕事を終えた職人らしき男たち、着飾って酒場へ向かう男女、フードを目深に被った怪しげな人影、そして昼間と同じように、エルフやドワーフ、獣人の姿もちらほら見える。達也は、まるでファンタジー映画のセットの中に迷い込んだような感覚を覚えながら、興味深く周囲を観察した。スマホを取り出して翻訳機能を使うのはさすがに目立つので控えたが、看板の意匠や建物の造りを見ているだけでも面白い。


リリアは達也の少し後ろを、楽しそうに鼻歌でも歌いながらついてくる。時折、「あそこの店は見た目よりずっと美味しいお菓子を売ってるんだ」などと、的確な(?)アドバイスをくれる。


しかし、しばらく歩いているうちに、達也は自分たち二人に向けられる、強い視線に気づき始めた。すれ違う人々、露店の店主、酒場の窓から覗く客…多くの視線が、明らかに達也と、そして隣を歩くリリアに注がれている。それは単なる好奇心だけではない、驚きや、戸惑い、あるいは値踏みするような色も含んでいるように感じられた。


(な、なんだよ…やっぱり見られてる! 俺だけじゃなくて、リリアもか…まあ、無理ないか、この組み合わせじゃ…)


達也は自分の姿を思い浮かべる。この世界では非常に珍しい、陽光のように輝く金色の髪。そして、これまた稀有な、夜空を映したかのように深い黒色の瞳。隣には、月光のような銀髪に、宝石のような赤い瞳を持つ美少女。こんな二人が並んで歩けば、嫌でも人目を引いてしまう。


達也は居心地の悪さから、慌てて被っていたフードを目深にかぶり直し、俯き加減になって、できるだけ顔を隠そうとした。それでも突き刺さるような視線はなくならず、じわじわと顔に熱が集まってきて、耳まで赤くなっているのが自分でも分かった。


すると、リリアがそんな達也の様子に気づいてクスクスと笑い出した。

「ふふ、タツヤちゃん、気づいた? 私たち、今、街中の注目の的だよ。すっごく目立ってるみたい」


「わ、分かってるよ! だからフード深くしてるんだろ!」達也は顔を赤くしたまま、小声で反論する。


「まあ、仕方ないって。だって、綺麗な金髪に、珍しくて吸い込まれそうな黒い瞳の子と、絶世の美少女吸血鬼(自称)の銀髪赤目ちゃんが二人仲良く(?)夜の散歩してるんだもん。そりゃあ、みんな見ちゃうでしょ」リリアは楽しそうに言う。「あなたのその黒い瞳も、なんだか神秘的で綺麗だからねー。みんな見惚れてるんだよ、きっと」


「か、からかうな!///」達也はさらにフードを深く被り、ほとんど前が見えないくらい顔を隠した。「じろじろ見られるのは気味が悪いんだよ…!」


リリアはそんな達也を見て、さらに面白そうに笑う。「まあまあ、落ち着きなって。でも、これだけ目立つってことは、やっぱり悪い虫も寄ってきやすいからね。ほら、ちゃんと私がそばにいて、守ってあげないと」と、達也の腕に軽く自分の腕を絡めてきた。


「ひっ…! だから、くっつくなって!」達也は慌てて腕を振りほどく。


もうこれ以上、街を歩く気にはなれなかった。人々の視線が痛すぎるし、リリアにからかわれるのも限界だ。

「…もういい! 宿にを探すぞ」


達也はリリアに背を向け、フードで顔を隠したまま、早足で宿への道を辿り始めた。リリアは「えー、もうちょっと夜景見たかったのにー。タツヤちゃんは照れ屋さんだなー」と文句を言いながらも、楽しそうにその後をついてくる。


達也は、この金髪黒眼という目立ちすぎる容姿が、今後の大きな悩みになることを確信しながら、宿への道を急ぐのだった。


「…さて、どうするか」達也は立ち止まって腕を組み考え込む。「ライターを売るにしても、まずは落ち着ける拠点が必要だよな。昨日の宿はあくまで緊急避難だったし…」


「だねー。やっぱりちゃんとした宿を探そっか。あの『家』(キャンピングカー)は便利だけど、さすがに街中で出すわけにはいかないし」リリアも同意する。「安くて、安全で、目立たないところがいいんでしょ?」


「ああ。あと、できれば清潔な方が…」達也は付け加えた。


「注文が多いなぁ、もう」リリアは肩をすくめたが、まんざらでもない様子で歩き出した。「まあ、このリベルなら、そういう宿もきっと見つかるよ。こっちこっち!」


二人は、リベルの迷路のように入り組んだ通りを歩き始めた。昼下がりの街は、様々な種族の人々でごった返している。威勢のいい商人たちの呼び込みの声、工房から聞こえる金属を打つ音、酒場から漏れる陽気な音楽、そして行き交う人々の多種多様な言語(達也には全て日本語に聞こえるが)。アザリアの整然とした雰囲気とは全く違う、混沌としたエネルギーが街全体に満ち溢れていた。


達也はリリアの後をついていきながら、スマホのカメラ(翻訳機能)をこっそりと起動し、道端の看板や貼り紙に書かれた文字を読み取ろうと試みる。「武器防具『ドワーフの槌』亭」「薬草・魔道具『賢者の瓶』」「エルフ織物専門店」「何でも屋『猫の手』」…様々な店が軒を連ねている。


宿屋を示す看板もあちこちに見られた。「銀竜の宿」(見るからに高級そうだ)、「石壁の旅籠」(頑丈そうだが窓が少ない)、「旅人の羽根布団」(名前は良いが建物が傾いている…)。


「あ、あそこはどうだ? 『冒険者の休息』って書いてあるぞ」達也が一つの宿を指さす。屈強な冒険者らしき人々が出入りしている。


「んー、あそこはねぇ、確かに安いし情報も集まるけど、ちょっとガラが悪すぎるかなぁ」リリアは首を横に振った。「酔っ払いに絡まれたり、盗難にあったりする危険もあるから、あなたみたいな子にはお勧めしないよ」


「そ、そうか…」


二人はさらに裏通りへと足を進める。道幅は狭くなり、建物の古さも増していくが、人々の生活感のようなものはむしろ色濃くなっている。洗濯物が窓から干されていたり、子供たちが路地で駆け回っていたりする。


「こっちの地区は、比較的静かで宿代も安いところが多いんだ」リリアが説明する。「その代わり、ちょっと分かりにくい場所にあるけどね」


リリアは慣れた様子で、いくつかの宿を指さしながら、「あそこは亭主がケチ」「こっちは虫が出るって噂」「あ、あそこの『猫のあくび亭』は、看板猫が可愛いけど、女主人がめちゃくちゃお喋りだから捕まると長いよ」などと、真偽不明の情報(?)を付け加えていく。


達也は、リリアの情報と自分の目で見た雰囲気を頼りに、慎重に宿を選んでいく。あまりに寂れた場所は不安だし、かといって目立ちすぎるのも避けたい。


散々歩き回り、少し疲れてきた頃、二人はようやく目当てに合いそうな宿を見つけた。大通りから二本ほど入った、少し静かな通りに面した、三階建ての古びた木造の建物。「静かなるふくろう亭」という、控えめな木の看板が掲げられている。建物自体は古いが、窓は綺麗に磨かれており、入り口の周りも小ざっぱりとしていた。出入りしている客も、商人風の落ち着いた身なりの人や、静かな旅人といった雰囲気だ。


「…ここ、良さそうじゃないか?」達也が言うと、リリアも頷いた。「うん、悪くないかもね。少なくとも、変な連中の溜まり場って聞いたことはないし」


二人は意を決し、その「静かなる梟亭」のドアを押した。中はランプの柔らかな光に照らされ、磨かれた木のカウンターと、いくつかのテーブル席がある、こぢんまりとしたロビーになっていた。カウンターの奥には、白髪で長い髭をたくわえ、尖った耳を持つ、穏やかそうなエルフの老人が座って本を読んでいた。彼がこの宿の主人のようだ。


達也は少し緊張しながらカウンターへ進み出た。

「あの…すみません。一晩、部屋を借りたいんですけど…空いてますか?」


エルフの老人はゆっくりと顔を上げ、達也とその後ろに立つリリアを静かな目で見つめた。そして、穏やかな声で答えた。「はい、ようこそ。空き部屋ならございますよ。お二人で一部屋でよろしいかな?」

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