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キッチンカー

美味しいオークステーキを堪能し、満腹感に包まれながらも、達也とリリアの頭の中は次の課題――安定した収入源の確保――でいっぱいだった。


「ライターや胡椒の転売は、あくまで一時しのぎだよな…」達也は腕を組んで唸る。「何か、もっとこう…継続的に稼げる方法はないかな」


「うーん…」リリアもエールのジョッキを傾けながら考える。「薬草採集とか、簡単な魔物の討伐依頼とか? でも、あなたじゃ戦闘は無理そうだし、薬草も目利きができないとねぇ。あとは…やっぱり地道に日雇い労働とか?」


「日雇いか…それも考えたけど、俺、この見た目だし、力仕事もできないしな…」達也はため息をつく。TS転生した非力な少女の身体では、選択肢が限られる。


達也が元の世界の知識を活かせそうなアイデア(簡単な道具の作成、料理レシピの販売など)をいくつか挙げてみるが、リリアは「そんなものが本当に売れるの?」「どうやって作るの?」と懐疑的だ。リリアが提案する異世界ならではの儲け話(「遺跡で見つけた古い魔道具を闇市場で売れば…」とか「報酬の良い護衛依頼があるけど、ちょっと危険で…」など)は、達也にとってはリスクが高すぎると感じられた。


議論は行き詰まり、重い沈黙がテーブルに落ちた。その時、達也の頭に、自分の最大の切り札のことが閃いた。


(そうだ…キャンピングカー! あれを使えば…!)


「なあ、リリア」達也は身を乗り出して言った。「俺のあの『家』…キャンピングカーのこと覚えてるか?」


「あの巨大な箱? 忘れるわけないじゃない。あれがどうかしたの?」


「あれさ、実は中に『キッチン』が付いてるんだよ。カセットコンロだがも使えるし、水も出る(タンクから)。それに、『電気』っていう力も使えるんだ。車の中の明るい照明とか、あの光るノートパソコンとかを動かしてるやつ」


「あの車には、外にその『電気』を取り出す機能も付いてるんだ(※外部電源出力機能のこと)。それを使えば、車の外でも電気を使う調理器具とかを使えるかもしれない」


「外で電気が!? まるで魔法のようだわ…!」


「だからさ」達也は核心に触れた。「あれを使って、移動式の屋台みたいなことってできないかな? 俺たちの故郷の珍しくて美味い料理…例えば、お前が気に入ってたホットケーキとか、あるいはもっと手軽なサンドイッチみたいなものとかを作って、街角で売るんだよ。そういうのを、俺の故郷では『キッチンカー』って言うんだけど」


達也の提案に、リリアは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐにその内容を理解し、興奮したように身を乗り出してきた。

「移動式の屋台! あの箱が!? それは面白いわ! あなたの故郷の料理なら、きっとリベルの人たちも驚いて買ってくれるかもしれない!」

ホットケーキの味を思い出したのか、彼女は少しよだれを垂らしそうになっている。


しかし、すぐにリリアは現実的な疑問を口にした。

「でも、どこでやるの? リベルは自由だって言っても、さすがに勝手にどこでもお店を開いていいわけじゃないでしょ? 人通りの多い場所は、きっと他の商人たちが場所を押さえてるだろうし…。それに、商業ギルドの許可とか、場所代みたいなものはどうするの? あんな目立つ箱で商売したら、すぐに衛兵が飛んでくるんじゃない?」


「うっ…それは、そうだな…」達也も考え込む。「場所は…やっぱり最初は街の外れとか、市場の隅っことか、あまり目立たないところで試してみるしかないかもな。許可は…ギルドの鑑札があるから、簡単な露店の申請なら通るかもしれない。ちゃんと手続きはしてみるつもりだ」


「ふーん…」リリアはまだ納得していないようだ。「じゃあ、料理の材料は? ホットケーキとか、あの甘いメープルシロップとか、あなたの故郷の特別なものが必要なんじゃないの? こっちの世界にあるもので作れるの? それに、調理は全部あなたがやるの? 大変じゃない?」


「材料は…まあ、卵とか牛乳とか小麦粉とか、こっちで手に入るもので代用できるものもあると思う。味は少し変わるかもしれないけど。特別な調味料とかは…その…まあ、なんとかする(通販があるとは言えない)。調理は基本俺がやるけど、リリアにも野菜を切るとか、皿を洗うとか、簡単な手伝いはしてもらうぞ!」


「えー、私もやるのー?」リリアは少し不満そうだ。


「それから、安全性はどうなの?」リリアはさらに問い詰める。「あんな珍しい料理を出して、しかもあなたが作ってるってなったら、絶対に悪い奴らに目をつけられるわよ? アザリアの騎士団みたいな連中だけじゃなくて、この街のゴロツキとかにもね。大丈夫なの?」


「それは…一番心配なところだ」達也も顔を曇らせる。「だから、リリアには護衛も兼ねて、そばにいてもらわないと困るんだ。売るものも、最初はあまり高価じゃなくて、手軽に買えるような、目立たないものから始めた方がいいかもな…ホットケーキとか、おにぎりとか…」


「あと、その『電気』ってやつ。外で使うのはいいけど、車の動力源なんでしょ? そんなに自由に使って大丈夫なの?」


「ああ、それは車の『電気発生装置』(エンジン)を時々動かせば補充できるから、昼間の短い時間なら問題ないはずだ」


達也とリリアは、キッチンカー計画の実現可能性について、熱心に議論を交わした。場所の確保、ギルドへの申請、食材の調達、調理の分担、そして何よりも安全性。課題は山積みだ。しかし、他の金策案に比べれば、達也の持つ特別な力(キャンピングカー、現代知識、通販スキル)を最も活かせる、現実的で、そして何より**「面白そうな」**計画に思えた。


「……よし」長い議論の末、達也が言った。「課題は多いけど、やってみる価値はあると思う。まずは、明日、ギルドに露店の申請について聞いてみて、それから市場で食材探しだ」


「ふーん、まあ、あなたがそこまで言うなら、付き合ってあげてもいいけど?」リリアはまだ少し不安そうな顔をしながらも、どこか楽しそうな色も浮かべていた。「ただし! 私の分のホットケーキは、特別に大きく焼いてよね!」


「はいはい、分かったよ」


こうして、自由都市リベルでの達也とリリアの新たな挑戦――異世界初の(?)キッチンカー計画――が、オークステーキの脂がまだ残るテーブルの上で、静かに、しかし確かな熱意を持って、始動したのだった。



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