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ライター

「だから姉妹じゃないって言ってんだろおおおぉぉぉ!!!」


達也の悲鳴じみたツッコミも虚しく、結局二人は「銀の寝床亭」の一部屋に押し込まれることになった。案内された部屋は、屋根裏のような場所で、広くはないが、掃除はされており、簡素な木製のベッドが二つと、小さなテーブル、椅子が一つ置かれていた。(ベッドが二つあったことに、達也は心の底から安堵した)


「わーい! 結構まともな部屋じゃーん!」

リリアは人の気も知らず、早速片方のベッドに飛び乗って、スプリング(のようなものが入っているのか?)の感触を確かめるようにポンポンと跳ねている。


達也はそんなリリアを完全に無視することに決め、もう片方のベッドの端にどっかりと腰を下ろした。そして、深いため息をつき、これからのことを真剣に考え始めた。


(金貨5枚と、銀貨・銅貨がいくらか…これで宿代と当座の食費はなんとかなるけど、いつまでもつか分からない。アザリアの女将さんに貰ったボールペンみたいに、物がいつでもお金になるとは限らないし…安定した収入源を確保しないと、すぐに詰むぞ)


商業ギルドで仮の鑑札は手に入れた。これで一応、リベルで「商人」として活動する最低限の資格は得たはずだ。だが、何をどうやって売る?


(胡椒は確かに高く売れた。でも、あれは香辛料専門店だったからだ。それに、在庫は無限じゃない。もっと手軽で、数があって、この世界の人たちが欲しがりそうなもの…)


達也は自分のアイテムボックスの中身を思い浮かべる。服、食料、日用品…そして、ふと、キャンプ用具と一緒に入れていたものが目に留まった。


(……ライター!)


それは、元の世界では100円ショップでも買えるような、使い捨てのプラスチック製ライターだった。あるいは、少し奮発して買ったオイルライターもいくつか入っていたはずだ。


(これだ…! 火打石も火口もいらない。カチッてやるだけで、いつでもどこでも火がつく。これって、この世界じゃめちゃくちゃ画期的な道具なんじゃないか!?)


達也の目に光が宿る。火を起こすのが大変なこの世界なら、冒険者、商人、兵士、あるいは一般家庭でも、灯り(ランプや蝋燭)や暖炉、調理用の火種として、ライターは非常に重宝されるのではないだろうか?


(胡椒ほどの超高値はつかないかもしれないけど、それでも、1個あたり銀貨1枚…いや、銅貨50枚くらいで売れたとしても、元の値段を考えればとんでもない利益だ! これなら、安定して稼げるかもしれない!)


どうやって売るか? 市場でこっそり売る? それとも、商業ギルドに登録したんだから、どこかの道具屋とか雑貨屋に卸すような形で交渉してみる?


(よし、これで行こう!)

ライター転売という新たな金策のアイデアに、達也の心は少し軽くなっていた。彼は早速、その計画を具体的に詰めるため、再びノートパソコンを取り出し、ベッドの上に胡坐をかいて画面を開いた。


カタカタカタ…。

達也はテキストエディタを起動し、考えを整理し始めた。

『金策計画 Ver.1.0』

『商材:ライター(使い捨て、オイル式)』

『在庫:使い捨て 約50個、オイル式 3個』

『想定売価:使い捨て=銅貨30~50枚? オイル式=銀貨5枚~? 要市場調査』

『販売ルート候補:①市場での露天(リスク高?)、②道具屋・雑貨屋への卸売り(要交渉)、③商業ギルド経由(手数料?)…』


元の世界の原価と、異世界の物価(女将さん情報)、そしてライターの利便性を考慮し、現実的な(それでいて利益が出る)価格設定や販売方法を模索する。集中してキーボードを叩いていると、いつの間にか背後に気配を感じた。


「ねーえ、何してるのー?」


ひょっこりと、リリアが達也の肩越しにノートパソコンの画面を覗き込んできた。ベッドの上で跳ねるのに飽きたらしい。その赤い瞳は、光る画面と、その上で目まぐるしく変わる未知の記号(日本語)に釘付けになっている。


「うわっ! 近い!」達也は驚いて少し身を引いた。「なんでもないよ。ちょっと考え事だ」


「ふーん?」リリアは納得していない様子で、さらに画面に顔を近づける。「その光る板、さっきのアザリアのニュース(?)が映ってたやつとは、また違う感じだね。なんか、小さな模様みたいなのがいっぱい書いてあるけど…これ、もしかして魔法の呪文書か何か?」


「違うって。計算盤みたいなもんだって言ったろ」達也は適当に答える。


「計算盤? あんな平べったい板でどうやって計算するの? しかも、あなたがその下のキーボードを指でカチカチ叩くと、中の模様がどんどん変わっていくし…」リリアは不思議そうにキーボードをつんつんと突いた。「この板を叩くのと、中の模様が変わるの、どういう繋がりがあるわけ?」


「それは…そういう仕組みなんだよ。説明してもアンタには分からない」達也はリリアの指を払いながら、面倒くさそうに答えた。


「ちぇー、ケチ。じゃあ、これは?」今度は、達也が使っていたワイヤレスマウスに興味を示した。「この、石ころみたいなのは何? さっきからあなたがこれを手のひらで動かすと、光る板の中の、この小さな矢印マウスポインタが一緒に動いてるけど…遠隔操作の魔術?」


「…まあ、そんなようなもんだ」達也はもう説明するのも億劫になってきていた。


リリアは目をキラキラさせながら、パソコンの周りをうろうろし、画面を覗き込んだり、キーボードに触ろうとしたり、マウスを手に取ってみたりと、完全に未知のテクノロジーに魅了されている。その様子は、まるで初めて見るおもちゃに夢中になる子供のようだった(実際、見た目は子供なのだが)。


「ふーん…あなたの故郷には、本当に不思議な道具がいっぱいあるんだねぇ。お湯が出るシャワーもそうだし、この光る板も…。まるで全部、魔法みたいだ」

リリアは心底感心したように呟いた。


(魔法、ねぇ…ある意味そうかもしれんが…)

達也がリリアの言葉に内心で同意しかけた、その時だった。


「おーい! 夕飯の準備ができたぞー! 食堂が混む前に降りてきなさーい!」


部屋の外の廊下から、宿の主人の大きな声が響いてきた。どうやら夕食の時間らしい。良い匂いも漂ってくる。


「わーい、ご飯だご飯だ!」

リリアはさっきまでのパソコンへの興味などすっかり忘れたように、ぱっと顔を輝かせ、ベッドから飛び降りた。


「…現金なやつだな」達也は呆れつつも、ちょうどキリが良いところだったので、パソコンの画面を閉じ、データを保存した。そして、リリアに急かされるように(「早く行こうよー!」)、パソコンをアイテムボックスに仕舞い、二人で部屋を出て、階下の食堂へと向かうのだった。

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