表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/99

ファーストキス

人生で最も長く、気まずく、そして心臓に悪いシャワータイム(主に達也にとって)が、ようやく終わった。達也は猛スピードで体を拭き、リリアに背を向けたまま震える手で服を着込んだ。顔の赤みは全く引いていない。一方のリリアは、さっぱりしたー!と満足げに体を拭き、これまた達也に何の配慮もなく、ゆっくりと服を着ている。


二人とも服を着終えたが、キャンピングカーに戻る気にはなれず、どちらからともなく、少し離れた場所で夜空を見上げていた。気まずい沈黙が流れる。虫の声と、遠くでフクロウが鳴く声だけが聞こえる。


「……月、綺麗だね」


先に沈黙を破ったのはリリアだった。夜空に浮かぶ、欠けた月を見上げながら、ぽつりと呟く。

「満月じゃないのが、ちょっと残念だけど」


「…吸血鬼は、月が好きなのか?」達也は、まだリリアの方を見ずに、ぶっきらぼうに尋ねた。


「好き、っていうのとは少し違うかな」リリアは首を振った。「なんていうか…引かれる、感じ? 私たちの力とか、本能とかと、すごく深く繋がってるから。…良くも悪くもね」

その声には、いつもの悪戯っぽさとは違う、少しだけ真剣な響きが混じっていた。


「ふーん…」達也はそれ以上何も聞かず、ただ黙って夜空に浮かぶ月と星を見上げていた。リリアも隣で静かに空を見上げている。理由は分からないが、先ほどまでの激しい動揺が、夜空を見上げているうちに少しだけ静まっていくような気がした。言葉は少なくとも、ほんのわずかな時間だけ、穏やかな空気が流れた。


「さて、と」やがてリリアが言い、体を伸ばした。「私はもう眠いな。さ、戻って寝よ!」


達也も頷き、二人でキャンピングカーへと戻った。達也は当然のように運転席に向かい、シートをリクライニングさせようとした。ここで寝るのが一番落ち着く。


しかし、達也がシートに潜り込もうとした瞬間、後ろから伸びてきたリリアの細い腕が、達也の体をぐいっと引っ張った!


「わっ!? な、何するんだ!?」


「えー? こっちのベッド、広いんだから一緒に寝ようよー」

リリアは悪びれもなく言いながら、達也を後部のダイネットを展開したベッドスペースへと、いとも簡単に引きずり込んだ!


「ちょっ…離せ! 狭い! 俺は運転席で寝る!」達也は必死に抵抗しようとするが、見た目によらずリリアの力は強く、全く敵わない。


「大丈夫だって、くっつけばあったかいし♪」

リリアは達也をベッドの上に押さえつけると(?)、自分も隣に滑り込み、まるで大きな抱き枕かのように、達也の体にぎゅーっと抱きついてきた!


「~~~~~っ!!??」

達也は声にならない悲鳴を上げた。柔らかな感触と、甘いような独特の匂い、そしてすぐ耳元で聞こえるリリアの寝息(え、もう寝るのか!?)。達也は羞恥心と混乱と恐怖で完全に金縛り状態だ。


「すー…すー…」

リリアは本当にすぐに、安心しきったような穏やかな寝息を立て始めた。達也に抱きついたまま、すやすやと眠ってしまっている。


(う、動けない……!)

達也はリリアの腕の中で身動き一つ取れず、心臓はバクバクと暴れ、顔は真っ赤なままだ。こんな状態で眠れるわけがない。しかし、昨夜からの疲労はピークに達しており、そして不思議なことに、リリアの体温(少し低いが)と寝息が、妙な安心感をもたらしているような気もして…。達也はなかなか寝付けずにいたが、やがて抵抗を諦め、混乱したまま意識を手放した。


***


[翌朝]


チュン、チュン…

柔らかな感触と、すぐ近くで聞こえる鳥の声で、達也はゆっくりと目を覚ました。

(ん…? なんか、唇に…?)


まだ半分眠っている頭で、自分の唇に何か柔らかいものが触れているのを感じる。それが何なのか認識した瞬間、達也の眠気は完全に吹き飛んだ。


目の前には、至近距離にリリアの寝顔。そして、彼女の唇が、自分の唇に軽く触れていたのだ! いわゆる、キスというやつだ!


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!??????」


達也は声にならない絶叫を上げ、勢いよく飛び起きた! 顔は昨日以上に真っ赤になっている!


「ん……あれ? 起きちゃった?」

達也が飛び起きた反動で、リリアも目を覚ましたようだ。寝ぼけ眼で達也を見上げ、にこりと微笑む。


「お、おまっ…! い、今、な、何しやがった!?」達也は真っ赤な顔で、震える指をリリアに突きつける。


リリアはきょとんとした顔で小首を傾げた。

「んー? おはようのキスだけど? 何か変だった?」

そして、悪戯っぽく笑って付け加えた。

「大丈夫だってば。姉妹なんだから、これくらい普通でしょ? ね♪」


「ふ、普通じゃねえええええええええ!!!!!」


達也の絶叫が、静かな朝のキャンピングカーの中に響き渡った。リリアはそんな達也の反応を、心底楽しそうにケラケラと笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ