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羞恥心はないのか!

リリアのこれまでにない驚愕した顔を見て、達也は初めてこの吸血鬼少女の意表を突けたことに、内心で快哉を叫んでいた。少し気分が良くなった達也は、ちょっとだけ得意げに口元を緩める。


「まあ、これは俺の故郷の特別な技術だからな。そっちの豆から挽くやつより、ずっと手軽で、多分美味いと思うぜ?」

少し煽るような口調で言うと、リリアは悔しそうに唇を噛んだが、何も言い返せないようだった。


その後、二人の間には奇妙な空気が流れた。達也は少し優位に立った気分で、リリアは達也の持つ未知の技術(と能力)に強い興味と警戒心を抱いている様子だ。馬車はガタゴトと揺れながら街道を進み続け、やがて空は満月ではない月と無数の星で埋め尽くされた。


深夜近く、馬車はようやく二度目の休憩地点となる、街道沿いの小さな村に到着した。灯りはまばらで、ほとんどの家は寝静まっているようだ。

「今日はここまでだー! 明日の朝早くに出るからな! 宿は各自で取るなり、野宿するなり好きにしてくれ!」

御者の声が響き、疲れた乗客たちが一人、また一人と馬車を降りていく。


リリアも達也に続いて馬車を降りた。達也は他の乗客たちが村の唯一の宿屋らしき建物に向かうのを横目に、リリアを手招きする。(リリアは黙ってついてくる)

「こっちだ」

達也は村の灯りが届かない、少し外れた平らな草地へと移動した。そこなら人目につかずに「あれ」を出せるだろう。


「ここで何をする気だ?」リリアが訝しげに尋ねる。


「まあ見てろって」

達也はニヤリと笑い、スマートフォンを取り出した。(リリアにはそれが何なのか分からない)画面を操作するフリをしながら、実際にはアイテムボックスの操作に意識を集中させる。――キャンピングカー、出現!


ボンッ!


…というような派手な音はしなかった。ただ、達也の目の前の空間がわずかに歪んだかと思うと、次の瞬間には、暗闇の中に巨大な白い箱――軽キャンピングカー――が、まるで最初からそこにあったかのように、音もなく出現していた。


暗闇の中に、突如として巨大な白いキャンピングカーが出現する。


「なっ……ななななな!?!?」


リリアは、物が現れたこと自体よりも、その出現した物のあまりの巨大さに、今度こそ本当に言葉を失った。コーヒーの小袋を出すのとは次元が違う。家ほどもある物体が、アイテムボックスから現れたのだ。


「アイテムボックス…!? あなた、やっぱりアイテムボックス持ちだったのね!? でも……こんな巨大なものまで仕舞えるアイテムボックスなんて、聞いたことがない!」

リリアは信じられないものを見る目で、キャンピングカーと達也を交互に見る。

「私の知ってるアイテムボックスは、せいぜい背負い袋の中身が少し増えるとか、剣や盾をいくつか仕舞えるとか、その程度のはずよ!? なのに、家みたいな箱を丸ごと!? あなたのアイテムボックス、一体どうなってるの!?」

リリアは、達也の持つアイテムボックスが常識外れの性能であることに、驚愕と興奮を隠せない様子だ。


達也は、リリアが「アイテムボックス」という言葉を知っていることに少し驚きつつも、(どうやら、この世界のアイテムボックスは、俺のほど便利じゃないらしいな…)と内心で理解した。「まあ、俺のはちょっと特別製なんだよ」と曖昧に答える。


すると、リリアは能力への驚きもそこそこに、やはり目の前の未知の物体そのものに興味を奪われたようだった。

「それで、この巨大な箱は一体…!? これがあなたの『家』!? 信じられない…。一体どういう仕組みなんだ? 中はどうなっている? どうやって動くんだ? これは…これもあなたの『故郷』のものなのか?」

リリアは恐る恐る、しかし止められない好奇心に突き動かされるように、キャンピングカーに近づき、その白いボディをペタペタと触り始めた。


(お、思ったより食いつきがいいな…)

達也は、リリアが自分の能力の規格外さよりもキャンピングカーに夢中になっている様子を見て、少し拍子抜けした。しかし同時に、(これなら、色々と誤魔化しやすいかもしれないぞ…)と、内心でほくそ笑むのだった。


リリアは、達也に招き入れられるまま、好奇心いっぱいの様子でキャンピングカーの中に足を踏み入れた。そして、その内部を見て、再びあんぐりと口を開けた。


「なっ…! 外もすごかったけど、中も…! まるで小さな家じゃないか! この明るい灯りは何なんだい!? ここで料理もできるのか!? ベッドまで…!」


天井のLED照明、コンパクトなキッチン設備、座席が変形したベッドスペース…。リリアは目をキラキラさせながら、まるで宝箱を見つけた子供のように車内を探検し始めた。スイッチ類を不思議そうに触ってみたり、シンクの蛇口をひねってみたり、未知の空間に興奮を隠せない様子だ。


そんなリリアの興奮ぶりを、達也は少し離れた場所から呆れたように見ていた。そして、「ふぁ〜あ」と、疲れから大きなあくびを一つ漏らす。


「さてと…」達也は伸びをしながら言った。「アンタが中を見てる間に、俺はもう一回シャワー浴びてくるかな。外、結構暗くて泥も跳ねたし、さっぱりしたい」


リリアは、達也の能力の規格外さよりもキャンピングカーという未知の物体そのものに、すっかり心を奪われているようだった。ペタペタとボディを触りながら、「すごい…鉄でも木でも石でもない…? 不思議な手触り…」「この丸い黒いものは何? 地面を転がるのか?」などと、興奮気味に独り言を呟いている。


達也はそんなリリアの様子を、少し呆れたような、それでいて(こいつの知らないものを見せてやった)という、わずかな優越感を込めた目で見守っていた。


(ふん、まあ驚くのも無理ないか。俺の故郷じゃ、これくらい…いや、これでも古い方だけどな)


「しゃわー? 何をするんだ?」リリアが不思議そうに顔を上げる。


「ん? 体を洗うんだよ。温かいお湯でな。長旅で汗もかいたし、寝る前は綺麗にするに限るだろ?」達也はこともなげに言うと、アイテムボックスからタオルと清潔な着替えを取り出した。


リリアはきょとんとした顔をしている。「お湯で体を? この中でかい? どうやって?」彼女の世界では、体を洗うなら川か湖、あるいは宿場の共同浴場くらいしか思いつかないのだろう。ましてや、個人が自由に使える温かいお湯など、貴族でもなければ難しいはずだ。


「まあ見てろって」

達也はニヤリと笑みを浮かべると、リリアを車内に残したまま、キャンピングカーの外へと出た。そして、車の後部にある外部シャワーのハッチを開け、FFヒーターの温水機能をONにする。


車内に残されたリリアは、達也が外で一体何を始めるのか、気になって仕方がない。音を立てないようにそっとサイドドアを開け、暗闇の中、達也の様子をうかがった。


すると、リリアは信じられない光景を目にする。

達也は車の横で、何か管のようなもの(シャワーヘッド)を手に持ち、そこから勢いよく噴き出す温かい湯気立つお湯を浴びているではないか!


達也が車の横で、気持ちよさそうに温かい湯気を立てるシャワーを浴び始めたのを見て、息をのんだ。

(本当にお湯が出てる…! 火も使わずに!? しかも、あんな勢いよく…!)

達也の言う「故郷の技術」の異常さを改めて目の当たりにし、その不思議な光景から目が離せない。そして同時に、温かそうなお湯が、自分の冷えた(かもしれない)体にも魅力的に思えてきた。


「ねえ!」

リリアは隠れているのをやめ、達也に声をかけながら近づいた。まだ服は着ている。


「うわっ!?」突然声をかけられ、シャワーを浴びていた達也は驚いて振り返る。(リリアからは達也の背中側が見えていたが、振り返ったことで…)タオルは近くに置いてあるが、今は無防備な状態だ。


「な、なんだよ! 見るな!」達也は慌てて体の前を腕で隠そうとするが、あまり意味はない。顔がカッと赤くなる。


しかしリリアは、達也の裸(少女の姿だが)を見ても特に動じた様子はなく、興味津々な赤い瞳をシャワーヘッドから出るお湯に向けていた。

「やっぱりそれ、すごく気持ちよさそう! 私も浴びたい! ねえ、ちょっと代わってよ!」


「は!? ダメに決まってるだろ! 俺が浴びてるんだぞ!」


「えー、いいじゃん、ケチケチしないでよー」

リリアはそう言うと、達也の返事を待つことなく、なんとその場で自分の着ている服を脱ぎ始めた!


「ちょっ…!! おい!! 何してんだ、ここで脱ぐな!! バカ!!」

達也は真っ赤になって叫ぶが、リリアは「だってシャワー浴びるんだもん」と全く意に介さず、あっという間に全ての服を脱ぎ捨て、生まれたままの美しい姿になった。


そして、次の瞬間。


「えへへ、あったかいねー♪」


リリアは無邪気な笑顔で、シャワーを浴びている達也の背中に、ぴとりと抱きついてきた! ひんやりとした肌と、柔らかい感触が達也の背中に伝わる。


「ひゃああああああ!?!?!?」


達也は今度こそ本物の悲鳴を上げ、全身がカチンコチンに硬直した。顔は沸騰したヤカンのように真っ赤になっている。背中にぴったりとくっつくリリアの体温(吸血鬼だからか少し低い?)と、柔らかな感触、そしてすぐ近くで聞こえる楽しそうな吐息に、思考が完全に停止した。


リリアはそんな達也の反応を面白がるように、抱きついたまま達也の耳元で囁いた。

「もー、そんなに固くならないでよー。大丈夫だって。私たち吸血鬼はね、成長が遅いからねー。見た目はずーっと若いけど、中身は結構お姉さんなんだから、これくらい平気平気♪ それとも、あなたが恥ずかしいの? うふふ」

くすぐるように笑いながら、リリアは達也の体にさらにすり寄ってくる。


「は、離れろ…! くっつくな!」

達也はかろうじてそれだけ言うのが精一杯だった。しかし、リリアは「やだー、あったかいんだもん」と全く離れようとしない。


結局、達也はリリアに背後から抱きつかれたまま、あるいはすぐ隣でリリアがはしゃいでいるのを意識しないように必死になりながら、人生(?)で最も長く、そして屈辱的で、心臓に悪いシャワータイムを過ごすことになった。


リリアだけは、「わー! やっぱりこのお湯、気持ちいい! 火も使ってないのに、どうしてこんなに温かいお湯がずっと出るんだろう? あなたの故郷の技術って、本当にすごいわね!」と、どこまでも無邪気にシャワーの機能に感動し続けていたが、達也の耳にはほとんど入っていなかった。

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