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俺は妹じゃない!

「あれー? 顔、真っ赤だよ? うふふ、可愛いなあ、もう。そんなに照れなくてもいいのに」


リリアの楽しそうな声と、頭を撫でられているという屈辱的な状況。その二つが、達也のショートしていた思考回路を無理やり再起動させた。羞恥心と怒りが沸点に達し、達也はカッと目を見開いた。


「なっ…!///」


達也はリリアの手を、ありったけの力で(それでも少女の力だが)バシッと振り払った!


「さ、触るなっ! な、馴れ馴れしいんだよ、アンタ!」


真っ赤な顔のまま、涙目になりながら、達也は震える声で叫んだ。

「だ、誰が可愛いだ! ふざけるな! それにっ、姉妹しまいなんかじゃ、ぜっっったいにない! 俺は…俺はアンタの妹なんかじゃ―――!」

(――ない、男だ!)そこまで言いかけて、達也はハッと我に返り、慌てて口をつぐんだ。危ない、うっかり本当のことを口走るところだった。


「と、とにかく! アンタとは何の関係もないんだからな!」

達也は混乱しつつも、必死にリリアを睨みつけて言い放った。


しかし、達也の激しい拒絶を受けても、リリアは少し驚いた顔をしただけで、すぐに面白そうに口元を歪めた。

「へえ、やっと威勢が戻ったね。そういう元気なところも、嫌いじゃないよ?」

全くダメージを受けていない様子だ。むしろ、達也の反応を楽しんでいるようにすら見える。


二人が(主に達也が一方的に)言い争っていると、近くで休憩していた他の乗客たちが、その様子に気づき始めた。特に、リリアの目立つ容姿と、達也の真っ赤な顔は注目を集めやすい。馬車の御者台で一服していた髭面の御者が、呆れたように声をかけてきた。


「おいおい、そこの若い二人。痴話喧嘩なら、他所でやってくれや。周りの迷惑も考えな」


近くに座っていた商人風の男も、ニヤニヤしながら口を挟む。

「ねーちゃん(リリアのこと)、あんまりその子をからかうもんじゃないぜ? 顔真っ赤にして、泣きそうじゃないか。ほどほどにしときな」


「ち、痴話喧嘩じゃない! からかわれてもない!」

達也は、他の乗客にまで見られていたことに気づき、羞恥心でさらに顔を赤くして俯いてしまった。もう消えてしまいたい気分だ。


一方のリリアは、そんな野次にも全く動じず、悪びれもなく艶然と微笑んで答えた。

「あらあら、ごめんなさいね、おじさま達。ちょっと、私の可愛い妹が拗ねていただけなんですよ。もう大丈夫ですから」


「誰が妹だ!!」

達也の怒りの叫びは、リリアの楽しそうな笑い声にかき消された。


結局、達也の猛反撃は全く効果がなく、逆に周りの乗客にまで状況を面白がられる結果となってしまった。リリアのペースに完全に飲み込まれ、達也はぐったりと肩を落とす。同行するかどうかの返事もできないまま、ただただリリアへの怒りと羞恥心、そして無力感を噛みしめるしかなかった


達也が他の乗客にまでからかわれ、怒りと羞恥心でぐったりしている間に、無情にも休憩時間は終わりに近づいていた。


「おーい、そろそろ出るぞー! 乗り遅れるなよー!」


御者の大きな声が響き渡り、休憩していた乗客たちが慌ただしく馬車へと戻り始める。リリアは「さて、行こっか」と、まるで最初からそれが決まっていたかのように言い放ち、達也の隣の席に、当然のようにストンと腰を下ろした。そして、何食わぬ顔で窓の外を眺め、出発の準備を整えている。達也が何か反論する暇も、拒否する隙も与えない。


「ちょ…おい!」


達也は文句を言おうとしたが、他の乗客も次々と乗り込んできており、ここで騒ぎを起こすわけにもいかない。リリアはそんな達也の様子をちらりと見て、楽しそうに肩をすくめただけだった。


(…ああもう、仕方ない! こうなったら、こいつと行くしかないのか…!? 面倒くさいことこの上ないけど、一人よりは…マシ、なのか…? いや、余計に危険か…!?)


達也は内心で激しく葛藤したが、もはやどうすることもできない。馬車は既に出発の準備を終え、御者の掛け声と共に再びガタゴトと揺れ始めた。なし崩し的に、リリアとの奇妙な同行が決まってしまった瞬間だった。


宿場町を後にし、馬車が街道を走り始める。他の乗客たちがそれぞれの席で落ち着きを取り戻し、車内が少し静かになった頃、隣のリリアが不意に達也の耳元に顔を寄せた。ひんやりとした、それでいて甘いような不思議な香りが鼻をかすめる。


「ま、そんなに警戒しないでよ。悪いようにはしないって、約束する」

悪戯っぽく囁く声。しかし、その赤い瞳の奥には真剣な色も宿っているように見えた。

そして、リリアはこう付け加えた。

「それに、もし本当にあなたが私と同じなら…この世界での『吸血鬼』のうまい生き方、私が色々と教えてあげる。知らないままだと、結構大変だからね? 色々と…ね?」


「吸血鬼の…うまい生き方…」

その言葉は、達也の心に重く、そして奇妙な響きを持って突き刺さった。自分が吸血鬼である(かもしれない)という現実を、改めて突きつけられた気がする。リリアの言葉は、親切心からなのか、それとも自分を手懐けようとする罠なのか?


達也は、隣に座るミステリアスな吸血鬼少女の真意を図りかね、警戒心を解けないまま、その美しい横顔を盗み見る。彼女はただ、楽しそうに窓の外を流れる景色を眺めていた。


なし崩しで始まった、達也とリリアの奇妙な二人(?)旅。吸血鬼の少女は、達也にとって頼れる仲間となるのか、それとも新たな脅威となるのか。これから自由都市リベルまでの道中で、何が起こるのか。馬車は、新たな疑問と不安、そしてほんの少しの奇妙な期待感を乗せて、街道を進んでいくのだった。

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