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リリア視点

(ふふ、驚かせちゃったかな? あの子、面白いくらい真っ赤になって震えちゃって。まあ、無理もないか。いきなり見ず知らずの相手に『あなた吸血鬼でしょ?』なんて言われたら、誰だってびっくりするよね)


リリアは、馬車からひらりと飛び降りると、フードを目深に被り直し、何食わぬ顔で宿場町の喧騒に紛れた。土埃と家畜の匂い、活気のある人々の声。ありふれた街道の休憩所だ。特に珍しいものはない。


(それにしても、まさかこんな所で同族…それも、あんなに『人間くさい』子に出会えるなんて思わなかったなぁ)


リリアは内心でくすりと笑う。彼女の名前はリリア。見た目は十代半ばの少女だが、その実年齢は…まあ、ちょっと秘密だ。彼女はれっきとした吸血鬼であり、今はとある理由があって自由都市リベルを目指して旅をしている。人目を避け、気配を殺し、普通の旅人を装って。


(本当に久しぶり。他の吸血鬼に会うなんて、何十年…いや、もっとぶりだろうか。私たちの一族は、人間たちに追われて数を減らしたし、同族同士で馴れ合うことも少ないから)


だから、あの馬車の中で、隣に座った少女から微かに漂ってきた懐かしい匂い――薄く、ほとんど消えかかっていたけれど、間違いなく血と夜と古き石の匂い――に気づいた時は、本当に驚いたし、そして…嬉しかったのだ。


(思わず話しかけちゃったけど…ちょっと意地悪しすぎたかな? でも、あの反応…本当に自分が吸血鬼だって自覚がないみたいだった)


リリアは、先ほどの達也の混乱ぶりを思い出して、また少し楽しくなった。


(普通、私たち吸血鬼はある程度の年齢になれば、血への渇望…あの抗いがたい衝動に目覚めるはずなんだけど。あの子からは、そういう飢えた気配が全くしなかった。今まで一度も血を吸ったことがない…? そんなことってありえるのかな? それとも、何か特別な方法で抑え込んでいる?)


達也という存在は、リリアにとって大きな謎であり、同時に強い興味を引かれる対象だった。そして、その興味の根底には、リリア自身の苦い過去が、今もなお癒えない傷として影を落としていた。


(…血の、衝動…)


リリアは無意識のうちに、きゅっと唇を結んだ。遠い昔…まだ自分が若く、本能を制御できなかった頃。心を奪われた人間の娘がいた。 太陽のように笑う、温かくて優しい…リリアにとっては、夜の世界しか知らなかった自分を照らしてくれる、唯一無二の存在だった。しかし、ある満月の夜、抑えきれなくなった吸血衝動の波に飲まれ、リリアは愛する彼女の白い首筋に、牙を立ててしまったのだ。


「……化け物」


そう言い放った時の、恐怖と嫌悪に歪んだ彼女の顔。そして、二度と自分に向けられることのなかった、あの優しい笑顔。それは今でもリリアの心をナイフのように抉り、決して消えることのない深い傷跡となっていた。


あの一件以来、リリアは血を吸うことを自らに固く禁じた。衝動が襲うたびに必死で耐え、時には自分自身を傷つけてでも、その渇きを抑えつける術を身につけてきた。もう二度と、誰かを傷つけたくない。そして、あんな絶望的な拒絶を経験したくない。


だからこそ、達也の存在は、リリアにとってあまりにも衝撃的だったのだ。

(もし、あの子が本当に、血を吸わずに、衝動に苦しまずに生きていけるというなら…それは、私たち吸血鬼にとっての奇跡だ。もし、あの頃の私が、あの子のようであったなら……私たちは、違う未来を歩めたのだろうか…)


リリアは達也に対して、単なる同族への好奇心だけではない、何か特別な、複雑な感情…それは共感か、羨望か、あるいは庇護欲のようなものか…を、感じ始めていたのかもしれない。


(ま、いっか。面白そうだし、もう少し観察してみようかな。せっかく出会えたんだもんね、希少な同族(?)さんなんだし)


リリアは宿場町の隅にある大きな木の影に寄りかかり、馬車の方をこっそりと見つめた。

(怖がらせちゃったみたいだし、休憩が終わる前に、少しはフォローしてあげないとね)

リリアは赤い瞳を細め、次に達也にどう接触しようか、楽しそうに、そして少しだけ真剣に考え始めた。

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