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魔女

騎士たちの厳しい視線が、達也とマリア、そして異様な存在感を放つキャンピングカーに向けられる。隊長らしき騎士が状況を尋ねようと口を開きかけた、その時だった。


「おお! 騎士様! ご無事で…! 危ないところを、このお二方に助けていただいたのです!」


襲われていた馬車の主である商人風の男が、安堵と興奮の入り混じった表情で騎士たちに駆け寄った。彼は達也とマリアを交互に指さしながら、必死に訴える。


「この屈強な女傭兵殿と、そちらの…不思議な大きな箱に乗ったお嬢さんがいなければ、我々一家は今頃…! あの恐ろしい盗賊どもを、お嬢さんの鳴らした雷のような音と、傭兵殿の剣で追い払ってくださったのです! まさに命の恩人であります!」


商人の必死の証言により、達也たちが盗賊の仲間ではないことは騎士たちにも伝わったようだ。彼らの表情から、最初の敵意は少し和らいだ。


「ほう、そうであったか。それは大手柄であるな」隊長は頷き、マリアに視線を移した。「礼を言うぞ、傭兵殿。街の近くで騒ぎを起こす輩は我々としても見過ごせん」

そして、彼は再びキャンピングカーへと視線を向けた。その目には、強い好奇心と、拭いきれない疑念の色が浮かんでいる。

「しかし…その商人が言う『不思議な箱』とは一体何なのだ? 雷のような音を立て、馬もなしに自走したと聞いたが…」


騎士たちの視線が一斉にキャンピングカーに集中する。その異様な形状、材質、そして不可解な現象。彼らの常識では到底理解できない存在だ。


すると、隊長の後ろに控えていた若い騎士の一人が、眉をひそめ、忌々しげに呟いた。

「隊長…馬もなしに自走し、雷鳴のような音を立てる鉄の箱…そして、それを操る童女…。これはまさか…古の伝承にある**『魔女』の仕業**ではありますまいか?」


「魔女」――その言葉が発せられた瞬間、場の空気が凍り付いた。他の騎士たちも「おお…」「まさか…」とざわめき、達也とキャンピングカーを見る目が、先ほどの盗賊を見るような敵意と警戒の色に変わっていく。


マリアも「魔女」という言葉に顔色を変え、咄嗟に達也の前に立ちはだかるように一歩前に出た。彼女も達也の力を訝しんではいたが、「討伐対象」とされる魔女と見なされるのは、全く別の話だ。


達也は、騎士たちの剥き出しの敵意と、「魔女」という言葉の持つ不吉な響きに、全身の血の気が引くのを感じた。アイテムボックス持ちだと疑われるのとはわけが違う。この世界では、「魔女」は存在そのものが許されない、討伐されるべき対象なのだと、騎士たちの殺気にも似た視線が物語っていた。


(魔女!? なんで俺が!? ただ車を運転して、クラクション鳴らしただけなのに!)


弁明しようにも、言葉が出てこない。キャンピングカーも、クラクションも、異世界人であることも、何もかも説明できない。下手に何か言えば、それこそが「魔女の妖術」だと断じられ、即座に攻撃されかねない。


「…待て。早まるな」隊長は部下たちを制したが、その声も硬い。「そこの娘、そして傭兵。その乗り物について、そしてお前たちの正体について、詳しく話を聞かせてもらおうか。場合によっては…アザリアへ連行させてもらう」


騎士たちがじりじりと距離を詰めてくる。マリアは剣の柄に手をかけ、達也は運転席でただ震えることしかできない。助けたはずの騎士たちによって、今まさに最大の危機が訪れようとしていた。


「魔女」――その一言で、騎士たちの敵意と警戒心は最高潮に達した。じりじりと距離を詰めてくる彼らの殺気にも似た視線に、達也は恐怖で身動きが取れなくなる。


「お待ちいただきたい、騎士殿!」


その時、マリアが達也をかばうように一歩前に出て、毅然とした声で言った。

「この娘は魔女などではない。ただの記憶を失った子供だ。私が道中で拾い、保護している。この奇妙な箱も、彼女の親が残したものだと聞いている。見た目は奇妙だが、危険なものではないと私が保証しよう!」

彼女は傭兵としての証であるギルドカード(もしあれば)を軽く示し、簡単には引き下がらないという強い意志を目に宿していた。


同時に、助けられた商人一家も必死に声を上げた。

「そうです、騎士様! このお嬢さんは私たちを助けてくれた、心優しいお方です! 魔女のような恐ろしい方では決してありません!」「どうか、恩人を疑うようなことはなさらないでください!」と、涙ながらに訴えかける。


手柄を立てた傭兵と、被害者である商人一家からの必死の擁護。騎士たちは顔を見合わせ、明らかに判断に迷っているようだった。キャンピングカーとそれを操る(ように見えた)達也が怪しいのは事実だが、彼らが言うように、明確な悪意があるようにも見えない。


騎士の隊長は、しばらくマリアと商人、そしてキャンピングカーと達也を厳しい目で見比べていたが、やがて一つ咳払いをして、苦々しげに言った。


「…ふむ。傭兵殿と商人殿がそこまで言うのであれば、今この場で事を構えるのは見送ろう。助太刀への感謝もある」

しかし、その目は全く信用していない。

「だが、その娘と奇妙なカラクリ箱については、アザリアの街で詳しく調べさせてもらう必要がある。我々と共にアザリアまで来てもらうぞ。よいな? 途中で逃げ出したり、妙な真似をすれば、その時は魔女の疑いありとして、容赦なく実力を行使する」


それは、疑いを残したままの条件付き解放であり、事実上の連行命令だった。達也とマリアに、断るという選択肢はない。


「…承知した」マリアは短く答え、達也に目で合図を送った。達也もこわばった顔で頷き、再びキャンピングカーの運転席に乗り込む。マリアも助手席に戻り、ドアを閉めた。


騎士たちは馬車の護衛を再開し、その一団の後ろにキャンピングカーが続く形で、アザリアへの最後の道のりを進むことになった。


達也は深呼吸をして、慎重にエンジンキーを回した。

ブロロロ…

幸い、エンジンは快調にかかった。しかし、その独特の低いエンジン音が響き渡ると、近くを歩いていた騎士たちの馬が数頭、明らかに怯えた様子でいななき、後ずさりした。


「むっ…やはり気味の悪い音を立てるな、あの箱は…」

「馬が怯えているではないか…」


騎士たちが、キャンピングカーを振り返り、眉をひそめて囁き合うのが窓越しに見える。解放されたとはいえ、疑いの目は少しも晴れていない。むしろ、エンジン音という新たな不審点が加わっただけだった。


騎士たちの監視の視線を感じながら、達也は生きた心地がしないまま、ハンドルを握る。助手席のマリアも表情を硬くしたまま、前方を睨んでいる。アザリアの街が近づくにつれて、安堵ではなく、これからどうなるのかという重い不安だけが、狭い車内に満ちていくのだった。

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