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ストレッチ?

人生(?)で最も気まずいシャワータイムを終え、それぞれ服を着た達也とマリア。しかし、早朝の草原に響いた達也の悲鳴(?)と、共有してしまった異常な状況のせいで、二人の間の空気は最悪に近いほど重かった。


達也は羞恥心でまだ顔の赤みが引かず、マリアとまともに目を合わせることができない。一方のマリアは、シャワーでさっぱりしたのか、あるいは達也の反応を面白がっていたのか、ケロッとした表情で髪(濡れたままだったのを達也がタオルで拭いてやった)を弄んでいる。


「……」

「……」


無言のまま、達也はカセットコンロとフライパンを再び取り出し、朝食の準備を始めた。アイテムボックスから取り出したパンと、通販で買った卵とベーコン。簡単なものだが、今はこれくらいしか作る気になれない。


気まずい雰囲気の中、朝食の準備をする達也)


出来上がったベーコンエッグとトーストをテーブルに並べる。達也は俯き加減に自分のパンをかじり始めた。マリアも無言でフォークを手に取り、まずベーコンに手を伸ばした。カリッと焼かれたそれを見て、彼女は知っている食材だという顔をしたが、一口食べて、その表情が変わった。


「む…!? この『ベーコン』は…!」マリアは驚いたように目を見開いた。「私の知っている保存用の塩漬け干し肉とは、まるで比べ物にならんな! こんなにも柔らかく、噛むほどに旨味があり、塩加減もちょうどいい! それに、このいぶしたような独特の良い香りはどうだ…!」


彼女は目を少し輝かせながら、夢中でベーコンを味わっている。次に卵にフォークを入れ、「この卵の焼き加減も絶妙だ。外は程よく焼けているのに、黄身はとろりとしている。どうやったらこんな風に焼けるんだ?」と不思議そうに呟く。そしてトーストをかじり、「このパンも、やはりふんわりしていて美味いな。村の黒パンとは大違いだ」と付け加えた。


「…そうかよ。口に合ったなら良かった」達也は俯いたまま、ぶっきらぼうに返した。気まずさは依然として残っているが、マリアが自分の知る食材との違いに驚き、素直に感動している様子は、達也のささくれだった気持ちをほんの少しだけ和らげた。少なくとも、完全な沈黙よりはずっといい。


食事が終わり、達也が黙々と後片付けをしていると、マリアは先に車の外へ出て、朝の清々しい(達也にとっては気まずい)空気を吸いながら、体を軽く伸ばし始めた。


やがて片付けを終えた達也が、恐る恐る外へ出ていくと、マリアが声をかけてきた。その表情はいつもの傭兵としてのものに戻っている。


「タツヤ、少し体を動かすぞ」


「は? 体を動かす?」達也はきょとんとした。


「ああ。体が鈍っていては、いざという時に動けんからな。傭兵の基本だ」マリアは言い、そして達也を上から下まで値踏みするように見て付け加えた。「君もだ。そのひ弱そうな様子では、いざという時に足手まといになる。少しは鍛えておけ」


半ば一方的な決定。しかし、言われてみればその通りだった。異世界に来た当初も運動してたし、今後のことを考えれば、少しでも鍛えておくべきだろう。それに、この気まずい雰囲気を変えるきっかけになるかもしれない。


「…わ、分かったよ。少しだけなら付き合う…」達也は渋々頷いた。


「よし」マリアは満足げに頷くと、早速手本を見せ始めた。まずは入念な柔軟運動。それから、腕立て伏せ、腹筋、スクワットといった基本的な筋力トレーニング。彼女の動きはしなやかで無駄がなく、鍛えられた体幹の強さがうかがえる。


「さあ、君もやってみろ。まずは腕立てだ。できるか?」


「う…」達也は言われるままに地面に手をつき、腕立て伏せの姿勢をとった。そして、腕を曲げようとするが…


「ぐ…ぐぐ…!」


体が、びくともしない。腕がプルプルと震え、1センチも体を下げられない。

(うそだろ!? 腕立て一回もできないのかよ、この体!)

転生前なら余裕でできたはずの動きが、全くできないことに愕然とする。


「…話にならんな」マリアは呆れたようにため息をついた。「まあ、無理もないか。まずは膝をついてやってみろ」


達也は屈辱感に顔を赤くしながらも、膝つき腕立て伏せに挑戦する。それでも数回で限界だった。腹筋も、スクワットも、マリアが軽々とこなす動きに、達也は全くついていけない。すぐに息が上がり、汗だくになってその場にへたり込んでしまった。


「ぜぇ…はぁ…きっつ……」


「まったく、これでは先が思いやられるな…」マリアは呆れ顔だが、少しだけ楽しそうにも見えた。「まあ、最初からできる者などいない。続けることが大事だ」


そう言って、マリアは自分の腰に差していた剣を抜き、今度は素振りを始めた。ブン、ブン、と風を切る音が鋭く響く。その姿は、先ほどまでのコミカルな(?)やり取りが嘘のように、真剣で、そして美しくさえあった。


達也は、ぜいぜいと息をしながら、マリアの剣の動きをただ見つめていた。体力差、技術差、そして根本的な世界の常識の違い。それらを改めて痛感させられる、疲労困憊の朝の運動だった。しかし、汗を流したことで、シャワーの時の気まずさは、少しだけ薄れたような気もした。

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― 新着の感想 ―
凄く楽しかったです。長く続く事楽しみにしてます。(*^^*)
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