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バレた

不安定にアイドリングを続けるエンジン。そして、繋がらないインターネット。達也は唇を噛み、このもどかしい状況を打破する方法を考えた。


(やっぱり、燃料が足りないんじゃないか? メーターは当てにならないのかもしれない。さっき買ったホワイトガソリン…あれを入れてみるしかない!)


危険な賭けかもしれない。エンジンに合わなければ、完全に壊してしまう可能性だってある。だが、このままではジリ貧だ。


「なあ、マリア」達也は後部のマリアに声をかけた。「どうも、この車を動かすための『油』…燃料が足りないみたいだ。それを補充してみようと思う」


「燃料、か…」マリアはまだ達也を疑いの目で見ていたが、現状をどうにかしなければならないのは確かだ。「それで、その燃料とやらは、どこにあるんだ?」


「ああ、準備してある」達也はそう言うと、アイテムボックスから金属製の4リットル缶(『高品質ストーブ用燃料(白ガス)』と書かれている)を1つと、通販で一緒に購入しておいたプラスチック製のじょうごを取り出した。そして、車の隅に立てかけてあった折り畳み傘を手に取る。


「ちょっと外で作業してくる。危ないかもしれないから、ドアはロックしておく。アンタは中にいてくれ」


達也はマリアの返事を待たずに、傘を開いて小降りになった雨が降る外へと出た。ひんやりとした空気が肌を刺す。彼はキャンピングカーの側面にある給油口のキャップを捻って開けた。


片手で傘を持ち、もう片方の手で重い燃料缶を持ち上げるのは思った以上に大変だった。雨で少し手が滑る。慎重にじょうごを給油口に差し込み、缶を傾けて白い液体――ホワイトガソリン――をゆっくりと注ぎ始めた。ツンとした独特の匂いが雨に混じって漂う。


マリアは、窓に顔を近づけ、達也の奇妙な行動を訝しげに、そして興味深そうに見つめていた。見たこともない缶から、透明な液体を車の横腹に注ぎ込んでいるのだ。彼女には、その行為の意味するところが全く理解できていないだろう。


4リットルのホワイトガソリンを全て注ぎ終え、達也は給油口のキャップをしっかりと閉めた。額には汗と雨粒が混じって浮かんでいる。


(よし…これでどうだ…?)


濡れた傘を畳み、達也は期待と不安を胸に車内に戻った。少しガソリンの匂いが残る運転席に座り、マリアの視線を感じながら、彼は祈るような気持ちで再びエンジンキーを回した。


キュルルル…


先ほどよりも力強いセルモーターの音。そして…


ブロロロロロ…!


エンジンがかかった! しかも、さっきまでの不安定さが嘘のように、力強く安定したアイドリング音が車内に響き渡る!


「やった! かかった!」


達也は思わずガッツポーズをした。どうやら、エンストの原因はやはりガス欠(あるいはそれに近い状態)で、ホワイトガソリンでも問題なくエンジンは動くらしい!


彼は急いでノートパソコンを開き、Wi-Fiアイコンを確認する。そこには、力強くアンテナが立ち並び、「接続済み」の文字が輝いていた! ブラウザを開くと、さっきまで表示されなかったニュースサイトが瞬時に表示される!


最大の懸念事項が解消され、達也は心の底から安堵した。これで移動もできるし、情報収集も続けられる。高くついたホワイトガソリンだったが、その価値はあった。


力強く安定したエンジン音。そして、ノートパソコンの画面には復活したインターネット接続の表示。


「やった! かかった!」「繋がった! ネットも使えるぞ!」


達也は素直に喜び、安堵の息をついた。最大の懸念だった燃料問題と移動手段、そして情報収集手段が一気に解決したのだ。これでようやく、この異世界でのサバイバルにも光明が見えてきた気がする。


しかし、そんな達也の喜びの声を遮るように、後部座席からマリアの静かだが鋭い声が飛んできた。


「タツヤ」


「ん? なんだよ、マリア。エンジンかかったぞ! これでアザリアとやらに…」


「その話しの前に、一つ聞かせろ」マリアは達也の言葉を遮り、じっと達也を見据えた。その鳶色の瞳は、先ほどまでの驚きとは違う、冷静で探るような光を宿している。「さっきの燃料が入っていたという金属の缶。それから、油を注ぐのに使っていた奇妙な形の道具じょうごのこと。そして、君がさっきから使っている傘も、あの魔法の灯りもだ」


マリアは一つ一つ指折り数えるように言った。


「君はそれらをどこから取り出した? この狭い車内のどこに隠し持っていたというんだ? 私が見る限り、君が何か大きな袋や箱を開けるような素振りはなかったはずだが」


核心を突く質問に、達也の背筋に冷たい汗が流れた。喜びで油断していた。マリアが自分の行動をそこまで詳細に観察していたとは…。


「そ、それは…たまたま、足元に置いてあったんだよ」達也は必死に言い訳を探そうとするが、明らかに不自然だ。


マリアはそんな達也の様子を見て、ふっと息をついた。そして、確信したように、決定的な言葉を口にした。


「まさかとは思うが…君、『アイテムボックス』持ちか?」


「―――っ!?」


アイテムボックス。その単語を聞いた瞬間、達也の心臓が大きく跳ねた。この世界にも、その概念が存在するのか!


「ア、アイテムボックス!? な、何のことだ…? そんな魔法みたいな…」達也は必死にしらを切ろうとするが、声は上ずり、顔は引きつっていた。誰が見ても、動揺しているのは明らかだった。


マリアは、そんな達也の反応を見て、やはり自分の推測が正しかったのだと確信したようだった。彼女は腕を組み、改めて達也を値踏みするように見つめる。


「…やはり、そうか。ただの記憶喪失の子供ではないとは思っていたが…まさか、希少な空間魔術の使い手、『アイテムボックス』持ちだったとはな。それも、あんな得体の知れない品々を大量に収納しているとは…」


マリアの声には、驚きと共に、警戒、そして無視できないほどの強い興味が混じっていた。アイテムボックス持ち。その事実は、この世界では大きな意味を持つのかもしれない。達也の存在は、マリアにとって、単なる保護対象や情報源ではなく、もっと別の価値を持つ存在へと変わったのかもしれない。


達也は、自分の最大の秘密の一つがほぼ看破されてしまったことに、激しい動揺と、これからどうなるのかという深い不安を感じていた。

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