新代魔女の機械人形 ~女の子二人「で」作るロボットって百合ですか~
本作は漫画のシナリオを想定して書いたもので、小説形式になっておりません。漫画のシナリオすらどのようなものかわからずに書いていますが、ご了承いただけますと幸いです。
また、残虐な設定がございますので、苦手な方はご注意ください。
〇冒頭、主人公・姫宮夏希のモノローグ。
子供の頃、お伽噺に出てくる魔女になることが夢だった。お伽噺の中で魔女は王子様を蛙に変えたり、どんな病気でも直す薬を調合したり、数々の奇跡を起こしていた。そんな魔女になることが、わたしの憧れだった——。
〇ここでタイトルアバン。モノローグから切り替わって海底の鉱物採集や近未来の街を1コマずつ描きながら世界観の説明が入る。
時代は西暦二〇六〇年代。日本海の海底から突如として産出するようになった新種のレアメタルを加工して生み出された新合金・MWB-119の登場により、材料工学の常識と国際社会の勢力図は大きく塗り替えられることになる。
鋼鉄よりも高い強度を誇りながらも軽量性に優れたMWB-119は従来航空宇宙産業や軍事産業に用いられてきた素材に瞬く間に代替され、それだけ影響力のある新たなマテリアルを巡って、世界はMWB-119を持つ側及びその衛星国と、持たざる側に分かれて四度目の世界大戦に突入した。
そして四度目の世界大戦では、機体のほぼ全てがMWB-119で造られたいわゆる軍事用人型ロボ、通称「機械兵器」がMWB-119産出国側の主要戦術兵器として投入され、MWB-119を持たざる国の軍勢を圧倒していく。ここのコマでロボットが戦場で戦う戦争の様子が描かれる。
〇そこで説明が終わり、まだ事件に巻き込まれる前の主人公の平和な日常が描かれる。
時期は第四次世界大戦の勃発から2年後。場所はMWB-119産出国側に属するとある小国。
その小国は戦時下といえども直接戦火に巻き込まれることはなく、主人公の姫宮夏希は平和な国で女子高生ライフを謳歌していた。
そんな彼女には人に言えない夢があった。それは将来はお伽噺に出てくるような魔女になること。お伽噺のヒロインを直接助けたり、時には自分が悪役になってまでヒロインを輝かせる妖しげな魔女。そんな物語の裏の立役者に、夏希は憧れていた。
でも、高校生にもなればさすがにこの世の中に奇跡も魔法もないことなんてわかっていた。だから、その夢を決して他人に漏らすことはできなかった。そのようなことを高校からの帰り道、繁華街を一人歩きながら夏希は考える。
夏希「……だいたい、魔女が本当にいたら世界大戦なんてとっくに終わってるでしょ」
その時。軍服に身を包んだ男性の「大人」が夏希に声をかける。
大人「君、魔女になりたいのかい。実は軍では正義を守るための影の実力者としての「魔女」を人工的に育てる研究をしているんだ。もし君がその気があるなら、ぼくと一緒に来ないかい?」
その提案に目を輝かせる夏希。そして見学だけなら、と夏希が大人の手を取った瞬間。夏希は大人にクロロホルムを染み込ませたハンカチを嗅がされ、大人の腕の中で意識を手放す。
〇場面転換。目ざるとと夏希は金属製の手術台の上に手足を拘束されて寝かされていた。夏希は全身が重く、頭がぼんやりとしている。
そこで夏希を誘拐した大人が登場。彼はここは少女を魔女へと作り変えるための手術を行う研究施設であること、そして夏希は既に魔女となるための適合手術を受け、これから死ぬまで研究所の外には出られないことを告げる。その事実に夏希はようやく青ざめるが、もう全てが手遅れだった。
目覚めてから半日後。身体の気だるさはまだ残っているものの辛うじて動けるようになった夏希は、大人に案内されるまま他の魔女が集められた居住スペースへと移される。移動中、夏希は手足の筋力が著しく衰えていて、魔女になる前のような激しい運動や全速力で研究所から逃げ出すことはできないことを実感する。
案内された居住スペースの大広間には十人以上の魔女が集められていた。半数ほどは気だるそうにぐったりしており、残りの半数は二人ずつのペアに別れて、一緒にパフェと食べたり、寄り添ってお互いに体重を預けながら映画を見たり、他の女の子たちがいるというのに性的な交わりをしようとしていたりしていた。まるで恋人同士のように。
そんな恋人のような距離感の彼女らを目にして違和感を抱く夏希に、大人は居住スペース・そして居住スペースに併設された機械兵器の製造ラインを案内しながら魔女について説明する。
・軍の適合手術を受けた魔女が魔法を使えるのは人生でたった一度、死ぬ間際だけであること。
・魔女が使える魔法はたった一種類だけで、心の底から愛し合った魔女のことをキスして、彼女の命を奪うと同時に彼女を「人間の死骸ではありえない存在」に変えること。
・愛し合った魔女のキスによって死んだ魔女の死体は20倍ほどに肥大化する。また、肥大化した魔女の肉(内臓を除く)及び骨はそのままだと普通のタンパク質性の死骸だが、高温で溶かして固めるかいったんミキサーか何かでペースト状にして固めると、まるで別の物質のように、チタン合金以上の強度と軽量性を誇るようになること。
・そしてMWB-119はそのような魔女の死骸から作られた、金属ですらない未知の物質だったこと。
・さらに言えば、生前に愛し合った魔女同士の死骸から作り出されたMWB-119は折り重ねることによってより強度を増すという性質を持ち、それを応用して作り出されたロボット兵器こそが「機械兵器」であること。
個室で半分服がはだけたまま互いにキスをし合い、巨大な死骸となった先輩魔女のペアが加工場へと運ばれ、元々人間だったのにも関わらず一人は高熱によって溶かされて再錬成され、一人は巨大なミキサーにかけられて骨や皮が砕けるような音を伴いながらぐちゃぐちゃのペースト状にされた後に再度押し固められ、二人の死骸を最初からただの「材料」だったかのように再度人型ロボットに組み上げていく一部始終を見せながら、大人は話していく。
そのあまりのむごさに嘔吐してしまう夏希。しかし大人は目が据わったまま告げる。
大人「大好きな人と文字通り一つになれるんだぞ? これ以上素晴らしいことはないだろ」
夏希「おかしいよ。大体、女の子が女の子同士で付き合うってなに? 人の趣味は否定しないけれど、少なくともわたしは! 男の子と普通にお付き合いして、ごく普通の幸せを手に入れたかった! こんな目に遭うくらいなら、魔女になんて憧れなければよかった!」
その夜。夏希は一人、雑多に魔女たちが詰め込まれた広間の隅で声を押し殺して泣いた。しかし泣いたところで何の解決にもならなかった。
いくら直接戦火に巻き込まれていないとはいえ第四次世界大戦中である今、軍に入隊することは美徳とされており、軍に入った後に死んでもそれはお国のため、MWB-119で繫栄している世界のための尊い犠牲だったと捉えられるのが当たり前で、家族が助けに来てくれることはなかった。
そして自分の力で逃げようにも適合手術の際に手足の筋力を著しく退化させられたせいで、魔女たちの箱庭から逃げることなんてできるはずもなかった。
〇そこから魔女としての夏希の生活が描かれる。
魔女が死骸となった時に少しでもMWB-119の材料となる死体のかさを増やすため、魔女には常に沢山の食事が出された。それを無理やり食べさせて、魔女たちを肥え太らせようと研究者たちはしてきた。それと同時に、魔女たちの鳥籠では共に最後を迎えて一緒にMWB-119になるためのパートナーの少女を探すため、毎日、まだパートナーのいない魔女同士・女の子同士でのお見合いが開催された。
元々小食な上に女の子を好きになる感覚が分からない夏希にとって、そのどちらも苦痛だった。そしていつまで経ってもパートナーを見つけられない夏希は研究室で孤独な日々を送っていた(部屋の室温は常に35度で、暑さで頭が正常に働かないように設定されています)。
ある時、そんな夏希を心配した百合ップルの先輩魔女が夏希に声をかけてくる。
先輩1「早く夏希ちゃんも彼女を作ったらいいよ。彼女がいたら、人生が薔薇色になるよ!」
先輩2「MWB-119になって機械兵器にされたら大好きな人と一緒になって、いつまでも一緒にいられるんだよ。こんなに幸せなことってなくない?」
夏希「一緒にって、その時にはもう死んじゃってるじゃないですか! 互いの体温を感じることだってもうできないんですよ!」
先輩1・先輩2「生きてるとか死んでるとかどうでもよくない? たとえ屍になっても、そこに愛があれば」
何の疑いもなくそう言い切る先輩達に夏希は戦慄を覚える。一週間後。その先輩魔女たちは口づけを交わして息を引き取り、彼女らの死体は機械兵器にされるために加工場へと運ばれていった。
〇夏希が研究施設に誘拐されてきてから3か月後。研究所に夏希よりも1歳年下の恵庭小春が入所してくる。彼女は夏希と人目あった途端、目を輝かせて言う。
小春「あたし、先輩に一目惚れしちゃいました!」
それからというものの。小春は何をするにしても夏希にべったりとくっついてきた。そんな小春に夏希は困惑し、何度も自分は女性同士で付き合うつもりがなく誰かと一緒に「機械兵器」になるつもりもないことを伝える。
夏希「だから、あなたも「魔女」としての役割を全うすることに意味を見出してるなら、わたしのことなんてさっさと忘れて他の子を探した方がいいわよ」
小春「嫌です! あたしは先輩に一目惚れしてしまったんです。他の人のことなんて考えられません!」
夏希「たとえその想いがいつまでも一方通行で、永遠に『一緒』になることができないとしても?」
小春「ッ! ……それでも、です」
〇それからもなにかと夏希に付き纏ってくる小春。そんな小春と一緒にいる時を重ねていくうちに夏希は小春に対して、妹のような愛おしさを抱くようになる。
そして小春といつまでも隣で生き続けたいと思うようになる。それは、出会ったばかりの頃に夏希が小春に抱いていた感情とは明らかに別物だった。けれど小春の「身も心も夏希と一緒になりたい」と言う願いとは平行線のままだった。
そう願いつつも、夏希は研究所の「大人」がいつまでもMWB-119の材料にならない自分達のことを放っておいてはくれないだろうなと諦めていた。
〇ある日。これまで戦火に巻き込まれないと思われていた夏希たちの国にMWB-119非産出国側の巨大軍事輸送機が防衛網を突破して侵入し、「ヤタケ作戦」を展開。ずんぐりむっくりしたリアルロボット風の対機械兵器戦闘用有人式人型駆動兵器楽殲を国内複数の重要軍事拠点都市に投下した。それは夏希たちのいる研究施設が立地する港湾に面した都市も例外ではなかった。
ここからは機械兵器と楽殲の戦闘が描かれる。
研究施設に降り立った楽殲・参式は機体から常時特殊な微粒子を撒き散らして半径5kmを自身の戦闘しやすい空間へと変える機能が搭載していた。その微粒子はMWB-119を汚染し、腐食する効果の他、電子計算機の働きを阻害する性質を持っていた。
楽殲の振りまく微粒子によって研究施設に遺されていた機械兵器のその殆どが活動を停止。僅かに残されたまともに戦える機械兵器も、その軽くて丈夫なMWB-119の性質を生かした機動性を著しく制限され、交わす暇もなく楽殲・参式の胸部に搭載された対宇宙艦隊用主力砲「デオキシキャノン」によって跡形もなく溶解させられた。
そしてみる影もなくなった研究所跡に降り立った楽殲の複座式のコクピットからは白衣に身に包んだ女性が出てくる。彼女は夏希たちがこれまで人間だと思っていた生き物に非常に近いものの、どこか違和感を漂わせていた。彼女は背丈的に明らかに「大人」なのに体のどこにも分割線がなく、髪にインナーカラーが入っていなかった。
そしてなんとか生き延び、崩壊した建物の影に身を潜めていた夏希と小春に向かって手を差し伸べて言う。「大人」とは違う、澱みのない美しい声で。
白衣の女性「頑張ったね。もう大丈夫。私はあなた達のことを助けにきたの」
白衣の女性の言葉に首を傾げる夏希に、紅葉と名乗った女性は「続きは安全なところまで行きながら話そうか」と提案し、渋々頷いた夏希と小春を楽殲に載せて紅葉達の本拠地へと連れて行きながら第四次世界大戦の真実を話し出す。
〇ここからは第四大陸(紅葉たちの本拠地)に楽殲向かうまでのちょっとしたロードムービーと合わせながら、第四次世界大戦の説明を入れる。
・第四時世界大戦の前、シンギュラリティに達したAIに率いられた軍事ロボットがロボットをまるで道具のように使い倒す人類に対して蜂起した第三次世界大戦が起きていたこと。
・AIをはじめとする自動操縦機能に頼りきりになっていた人類は第三次世界大戦に敗北し、地球上の地表の70%は人間になり変わって「新人類」を名乗るようになったAIの手に落ちたこと。そして元々の人類である旧人類の支配領域は世界で最も小さい第四大陸のみとなってしまったこと。
・AIの支配領域に取り残された人類は皆、洗脳を施されてAIの搭載された機械のことを「大人」だと認識し、「大人」の命令には絶対服従するようにされてしまったこと。
・それから数十年間は新人類と旧人類は相互不干渉を維持していたが、自称新人類側は地下資源枯渇問題の解決策として新人類側の領域に残され、AIによって管理されている旧人類の少女たちをMWB-119に作り変える技術を開発し、実用化しだしたこと。
・同胞が機械の材料にされているという非人道的な事実に、さすがに許容できなかった第四大陸に逃げ延びたいわゆる旧人類側は反MWB-119・非MWB-119産出国を名乗って、数十年ぶりにAIに対して宣戦布告し、地球史上四度目の世界大戦が勃発したこと。
紅葉はそんな第四大陸に逃げ延びた旧人類の軍隊に所属する研究者で、新人類支配領域に取り残された旧人類、とりわけ魔女たちを助ける活動をしていた。そんな話をしながら紅葉達は、第三次世界大戦中に核兵器によって跡形もなくなって今や新人類・旧人類共に放棄した街・ついこの間までAIと人類の激戦が行われて破壊の跡が生々しく残っている市街地などに立ち寄り、補給しながら、第四大陸へと向かう。
〇そして長い旅を終えて第四大陸へと辿り着いた夏希達は着いた途端、本物の人間達から歓迎を受ける。夏希たちが編入することになった高校では、誰かに強いられるでもなく、ごく普通に自由意思で付き合っている女の子同士のカップルもいた。そんな関係にふと憧れを抱いた夏希の頭の中に小春の顔が浮かぶ。
ここでなら小春と普通の恋人になれる。いつまでも小春と隣にいて、共に歩き続けたい。そう強く思った夏希は第四大陸にやって来てから一週間ほど経った日の放課後、屋上に小春を呼び出して告白する。しかし小春はいつもの笑顔のまま。
小春「それってあたしと物理的に身も心も一つになってくれるってことですか!」
新人類側の価値観を刷り込まれた小春にとっての幸せは、第四大陸にやって来た今でも、好きな人と物理的に一体となることだった。
夏希「なんで小春はそう言うことばっか言うの⁉︎ ここでは普通にお付き合いをできるんだから、普通に付き合おうよ」
小春「でも、あたしと先輩は魔女同士ですからキスすらできませんよね。キスをしたら死んじゃいますもん。あたしはそれでも嬉しいですけど、キスすらできないことを守ったまま好きな人といつまでも一緒に生きるなんて虚しくないですか? 少なくともあたしには耐えられなくて、きっと一線を超えちゃいます」
小春のその言葉に夏希は絶句する。魔女にされてしまった以上、女の子として人並みの幸せすら手に入れられない。女の子同士で普通に付き合うように夏希と小春が付き合ったら最後、小春が言うように一緒にMWB-119になるしかない。その事実に、夏希はようやく気付いた。
小春と自分はどうしたいんだろう、どうなったらわたしたちは「幸せ」になれるんだろう。そう夏希が思い悩む夏希が描かれるが、そうしているうちにも第四次世界大戦の戦局は悪化し、再び夏希たちに戦争の足音が近づいてくる。
〇対機械兵器用に作られた楽殲には全ての機体に、MWB-119特効・人工知能特効を持つ微粒子を散布して、自身が戦いやすい環境を作り出す機能が搭載されている。しかしそのボディは従来の合金が使われているため重く、機動性は機械兵器に圧倒的に劣る。そして楽殲が振り撒く微粒子のAI側の解析が進んでワクチンプログラムが開発されると、第四次世界大戦の戦局は一気に覆り、旧人類側は再び劣勢を強いられるようになる。
追い詰められる旧人類軍の中はもともとMWB-119が人間の死骸であることから、数十年前に使用が禁じられた生物兵器や化学兵器を試すことを提唱したり、ついには新人類軍相手に核兵器まで使うことを厭わない過激派の声が大きくなっていく。
そんな過激派を止めようとする保守派と過激派に旧人類側は内部分裂。それどころか、過激派の一部は同じ人間であるにも関わらず「魔女」を(パートナー同士かどうか・本人たちの意思に関係なく)無理矢理魔女同士で口腔性交をさせ、MWB-119にして旧人類側でも機械兵器を作って機械兵器に対抗しようとし出す新人類と変わらない主張をするようになっていく。
〇再び脅かされる夏希たち魔女。高校に通っているどころではなくなり、紅葉の操縦する楽殲・参式に護られながら第4大陸内での逃亡生活を始める。襲い来る過激派の機体に辛くも応戦する紅葉だが、同じ楽殲同士の戦いでは楽殲・参式は優位に立てず、いつもぎりぎりの戦いになる。
紅葉「でもこの機体ってそもそも二人で操縦することを想定されてる機体だし、私はもともと操縦者としての教育を受けてないし、ちょっと厳しい所があるんだよね」
夏希「ああもう! それだったら紅葉は機体の大まかな移動と微粒子散布に注力して。戦闘はわたしがやるから!」
そうして紅葉と夏希の二人で操縦することになった楽殲は夏希の戦闘センスもあり格段にその性能を発揮できるようになり、襲いくるレジスタンス過激派を次々に迎撃していく。
夏希「やればできるじゃん、紅葉」
紅葉「なにその言い方ぁ――って言いたいところだけど、正直めちゃくちゃ助かる。夏希となら、魔女のみんなを守れそう」
戦闘を終え、数年来の相棒のように拳を付き合わせる夏希と紅葉。そんな意気を合わせて戦っていく紅葉と夏希を小春は複雑な気持ちで眺めていた。自分は絶対に夏希の彼女になれない。自分では紅葉のように夏希の隣に立って戦えない。自分は夏希の役に立てず、大好きな人に護られることしかできない。そんな、どうやっても夏希の「特別」になれない自分がもどかしかった。
〇ただ、そんな夏希と紅葉の操縦する楽殲が無双できる期間はすぐに終わりを告げる。旧人類軍の主導権を過激派が握り保守派が中央政府から退避するようになると、旧人類軍の兵力を際限なく使えるようになった過激派はどうしても魔女を手に入れて新人類への対抗手段を得ようと躍起になるようになる。
過激派が送り込むゲリラ戦を得意とする刺客に、重量系でメインウェポンが対宇宙艦隊迎撃用砲である楽殲参式は小回りがきかないため、再び劣勢を強いられるようになる。
その日もギリギリのところで辛くも刺客を撃退した深夜。夏希と紅葉以外が寝静まった頃合いで、夏希は焦りを滲ませながら紅葉に訴える。
夏希「近接武器とか一分間だけ機動力が3倍になるモードとか、もっと何かないの? このままだと小春を守りきれない」
紅葉「……わたしの作った楽殲・参式には装甲を一度パージして、高機動近接形態『苦殲 玖式改』になる機能を最初の設計に組み込んでいた。けれど、その計画は、開発の途中で永久凍結されることになったの」
夏希「なんで⁉」
紅葉「理由は2つあるわ。一つは苦殲の想定される能力があまりに凶悪で、取り扱いを誤ったら大陸ごと、下手したらこの星ごと消し飛ばしてしまいかねないから。そしてもう一つはもっと単純で、私の設計の条件を満たす素材が、この地球にはMWB-119くらいしかなくて、実現可能性の観点から開発が凍結されたの」
夏希「……ちなみに、どれくらいのMWB-119——有体に言えば女の子が必要なの?」
紅葉「MWB-119ができれば一番、最悪一人分調達できればなんとかなる。でも……私はAIじゃない、血の通った人間よ。 同じ人間の女の子を犠牲にして自分の開発を優先するなんて、本末転倒よ」
目を潤ませながら語る紅葉に夏希は絶句してしまう。その話を、小春は寝たふりをしながら聞いていた。
それから3日後。毎日二人組の交代制で行っている食料調達登板で紅葉と二人きりになった小春は、自分が死んでMWB-119の材料となり、それを元に苦殲を完成させることを紅葉に持ち掛ける。最初、紅葉は当然その申し出を断った。しかし、小春は遠くを見るような目で告げる。
小春「先輩に、一目惚れした人に一方的に守られているだけなのは嫌なんです。それに、あたしが望んでいる形で先輩とあたしが結ばれることは決してない。あたしと先輩はいくら両想いでも、まともにキスもできない。だからせめて、先輩の纏う大きな苦殲になって先輩の「特別」になりたいんです。こんなことを頼めるのは紅葉さんしかいないから」
その願いを紅葉は断れなかった。
決行当日の深夜。紅葉の幇助も受けながら、小春は寝ている夏希の口元に自分の頬を近づけ、柔らかい夏希の唇にチークキスをさせる。その瞬間、小春の反対側の頬に涙が流れる。
小春「あたし、死ぬ直前に夢が叶いました。大好きな人にキスしてもらうっていう夢が」
数秒後。小春は柔らかな光に包まれて意気を引き取る。そして小春の死体はぶくぶくと肥大化していく――。そんな小春をただ一人、紅葉だけが涙ぐみながら見届けていた。
翌朝。もう二度と戻らない姿に変わり果てた小春を目にした夏希は、小春と紅葉がしたことをすぐに理解する。そして、小春の自殺を許した紅葉を糾弾する。
夏希「MWB-119は、女の子の身体は使わないって約束したよね⁉ しかも、よりによって小春だなんて……なんで止めてくれなかったの!」
紅葉「止められるわけないじゃない! このまま生きていても小春は幸せになれなかった。大好きな人の「特別」にはどうしたってなれなくて、ただ護られるだけで生きているのがものすごく辛そうだった」
夏希「だとしても、死んじゃったらもう何もかも終わっちゃうじゃん。血の通った人間ならそれくらいわかるでしょう?」
紅葉「もう何が正しいかなんてわからないわよ! 大好きな人と一生キスすらできないまま生きなくちゃいけないのと、死んで大好きな人に乗ってもらって一緒に戦えるのと、どっちが嬉しいかだなんて!」
らしくもなくヒステリックに叫ぶ紅葉に夏希は言葉を失う。それから小春を追って自殺しようとする夏希だが、それは紅葉によって止められる。
紅葉「残酷なことを言っているのは分かってる。でも、ここであなたまで死んだら誰も幸せにならない。託された私とあなたは生きて、この戦争を戦いぬかなきゃいけないのよ」
紅葉の嗚咽交じりの言葉にはっと息を飲む夏希。それから、夏希は「小春の身体を使う以上、絶対に世界最強の機体を作って。そうじゃないと、絶対にあなたのことを許さないから」と紅葉に小春の身体を託す。
30日後に突貫工事を終えて完成した苦殲は、楽殲に搭載されていた微粒子散布機能を更に進めた機能を搭載していた。それは常時機体から半径30kmに自分以外のあらゆる電気信号を狂わせ、分子の組成を自動的に崩壊させる微粒子を撒くというものだった。それが苦殲が「歩く公害」と呼ばれて開発中止に追い込まれた原因だった。
しかし苦殲の戦力はそれだけではなかった。苦殲は分厚い走行を脱ぎ捨て、ボディに軽量性に優れたMWB-119を使用しているだけあって、その高機動性を生かして主要兵装である二振りの巨大な剣を用いた近接戦を得意としていた。
そしてその二振りの剣・概念霊装『有無臨界』は切り分けた向こう側に存在する物質の存在定義そのものに干渉し、物質が「最初から無かった」と定義し直すことで抹消することができる力を持っていた。
二振りの有無臨界を構えた苦殲滅は小春が旅立ってから49日後、旧人類軍過激派が占拠した第四大陸の首都上空に現れ、都市ごと、その存在を抹消した。
〇それから2年後。旧人類軍・新人類軍の双方の軍の中ではこんな噂がまことしやかに流れていた。彼女らが通った半径30km圏内は死の街と化し、その範囲攻撃を逃れたとしても自分たちの存在そのものの定義を改ざんし、両軍を抹消する、3人の魔女が。
そんな魔女の噂に震える旧人類軍の兵士たちが描かれて、物語は幕を閉じる。