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「別に気が狂ったわけじゃない」

「旭晴ーーっ!!」

「旭晴くぅ〜〜ん!!」

「え、なになに。気持ち悪いんだけど」


 朝から男に熱烈に名前を呼ばれるのはあまり嬉しくないのだけれど。


 教室に入るなり、昨日僕を見捨てた男友達2人が駆けつけてきた。

 と、思えば眉を下げて何やら絶望的といった顔になり、


「大丈夫なのか……?」

「なにが?」

「西堂さんにランキングのこと、バレたんだろ……?」

「あー……」


 そういえばおっぱいランキングの件、バレたんだったね。

 胸を揉んでいいよっていうインパクトが強すぎて忘れていたよ。


 2人のみならず、すでに登校しているクラスの男子も僕のことを心配そうに……違うな。

 あれは、自分たちが関わったことがバレてないか、心配している目だ。

 僕のなんて二の次どころか脳の片隅にもないのかもしれない。


「バレだけど、弘香ちゃん秘密にするって言ったし大丈夫だよ」

「いや、それ。大丈夫じゃないだろっ」

「なんで?」

「だって……その……」

「?」

 

 なにやら目が泳いでいる2人。すると、先ほどより声を小さくして、


「西堂さんって美人だけど、どこか怖いし……。こういう系とか嫌いそうじゃん……?」

「だから実はもう、一部女子にバラしている説とかありそうだし……」


 ああ、そういうこと。 

 弘香ちゃんは吊り目で、クールな印象。物事をハッキリいうタイプで、男子や女子の中には怖いって思う人もいるだろう。

 実際は話しやすくていい子なんだけどね。


「本当に大丈夫なのか……?」

「下手したら俺たち男子、全員死ぬことになるぞ……?」

「大丈夫だよ」

「でもなぁ……」


 僕の言葉を信じるより、心配の方が勝つようだ。  


 全く、男子ときたら……。

 僕は強い口調で、もう一度言う。


「弘香ちゃんは約束は守る子だし、僕も大丈夫って言ってるじゃん、全く……。じゃあ、もしバレたら僕ひとりでやったことにしてもいいよ」


 そこまで言うと2人は顔を見合わせて……分かったと頷いた。


「すまねぇ旭晴。疑ってしまって……」

「旭晴は西堂さんのこと、信頼してるんだな」

「まあね。幼馴染だし」


 これで一件落着と思ったら、友達の1人が紙を見せてきた。


「ところでこれ、中に入ってたんだけど」

「あー、俺も俺も。この文字旭晴だろ」

「うん」


 昨日2人の鞄に入れといたメモ用紙だ。

中には『許さないぞ♡』と文字が書かれている。僕が書いた。


「赤ペンで書かれていることからすごく恐怖を感じた。これは……昨日のことか?」

「うん。昨日逃げたでしょ」

「それは……うん。すまん……」

「体が反射的に逃げろと判断してしまったんだっ! ほんと、ごめん!!」


 うんうん。すぐに謝れるなんていい友達だ。


「謝ってくれてありがとう。本当はご飯や何か奢らせようと思ったんだけど……僕も2人に謝らないといけないことがあるんだ」

「謝る?」

「俺たちに?」


 そう。昨日ついついやってしまった。まあこれでお互い水に流すってことでいいよね。


「なんか無性に紙を破きたい気分だったから、そこらへんの雑誌破ったら預かってた……美尻100選の雑誌だった。てへ♪」


 可愛らしく舌を出す僕に2人は絶句していた。


 だって胸を触ったという事実に舞い上がったもん。

 尻のことなんて考えられないよ。

 元々河川敷に捨ててあったものだから元からなかったと思えば大丈夫。

 2人は熟読してたんだし、尻のことは今回は残念だが、きっと君たちの心に残ってるさ。


「俺たちの新たなオアシスが……」

「まだ5ページの『ケツ出しレイナちゃんの初めてのお遣い』くらいしかいってないのに……ぐずんっ……うゔ……」


 ガチで落ち込んでいる。

 教室なので下手に騒ぐことなく、静かーに涙流してる。

 

「ううっ……」

「ぐずん、ひっく……」


 友達2人の啜り泣きをBGMに窓の外の雲ひとつない青い空を眺める。


 今日も賑やかな学校生活が始まるなー。



◆◆


(弘香side)


 別に気が狂ったわけじゃない。

 まな板ランキングに怒ったわけじゃ。

 ……。

 ……ちょっとはムカついたけど。


 胸を揉んでなど、痴女がいう言葉だ。

 親にでもバレたら……いや、うちの親は逆に関係が進展したって喜びそうね。


 幼馴染なんて最初にできた友達みたいなもの。

 月が経てば互いに付き合う友達も増えてきて自然と離れていく。


 そう、思ってたのに……。

 私はそうではなかったし、自然と隣にいたいと思っていた。


 私は胸もなければ、幼馴染からは脈がない。

 ないものはない。

 意識されてないのなら、何をやっても効果がない。


 なら、一泡吹かせようと思った。

 アイツ自身を使ってでも。

 


◆◆


「昼休み。可愛くて巨乳で有名なあの橋本さんに呼ばれたらしいじゃない」


 いつも通り旭晴と帰っている時。そう切り出してみた。


「え、なんで知ってるの?」

「男子が騒いでたわ」

「なるほどね。ほんと、そっち系の話は広まるの早いなぁー。別に大したことではなかったよ。なんか男子の好きなお菓子が知りたいってさ」

「なんで旭晴なのかしらね?」

「僕が話しかけやすいからじゃない?」


 ……。


「そうかもしれないわね」

「本当! やったね! これは将来モテモテになるかもしれない!」


 ほら、鈍感。そこまで分かっていて何故自分に気があるかもと考えない。


 この幼馴染は実に厄介である。


「今日は寄り道はしないの?」

「ええ。私の家にはきてもらうけど」

「なんで?」

「私の胸がちゃんと成長するまで付き合いなさい」

「……また揉むってことですか? でも……」

「なにか反論があるのかしら? まな板ランキングを作った変態さん」

「……なんでもないです、誠心誠意やらせていただきます」

 

 幼馴染は厄介な関係であって、有利な関係。矛盾すぎるけど今は有利な関係をフル活用させてもらうとしよう。




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