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そもそもまな板は揉めない

 クレープよりパフェの気分だったらしく、瓶詰めされたパフェというお高いスイーツを奢らされ後、僕は弘香ちゃん家に上がっていた。


「ん! 美味しい。テレビで流れてて気になっていたのよねぇ。買ってくれてありがとう」

「いえいえ。口止め料と思えば安いものですよ」

「あら、そう。あと10個くらい買ってもらえば良かったわ」

「……勘弁してください」


 美味しいけど1個600円とか高すぎるんで……!


「ちなみに巨乳ランキング1位は誰だったのよ」

「見てなかったの? スマホめっちゃスワイプしてたし、紙も見てたからてっきり……はい。なんでもないです。1位は、橋本さん」

「あー、あの可愛い橋本さんね」

「そうそう、すっごく可愛い橋本さん」


 ショートカットに目がクリッとしてていかにも学園のアイドルって感じの美少女である。しかも巨乳である。


 まあ胸だけじゃなく橋本さんというだけで入れた男子もいるだろう。


「旭晴も橋本さんに入れたの……?」

「僕は悩んでたらいつの間にか投票締め切りになっちゃったから入れてないよ」

「そう。まな板の方は随分早かったのでしょうね」

「いや、そんなことは……」

 

 弘香ちゃんの顔が真っ先に頭の中に浮かんだけど消して、胸の部分だけを思い浮かべたらまた弘香ちゃんが浮かんで、消して……その繰り返しで投票した。


「それで、まな板ランキング1位は誰かしら?」

「……根に持ってるなら掘り返さない方がよろしいじゃないでしょうか?」


 あと、ニッコリとした顔を見るの怖いので、その話題もうやめて欲しい。


「2位の板倉さんと変わらないと思うのだけど」

「そっちのランキングはしっかりと見てるのね」

「だいたい、なんでタイトルがまな板なのよ。巨乳の反対って言ったらほら……ひん……貧相な乳じゃない」

 

 貧乳って言えないところが本気で気にしてるよね。


「胸に貧しいとか失礼かなと思って。胸の在り方は人それぞれだし」


 大きさや揺れ方は違うけれど、人の魅力はそこだけじゃ決まるものじゃないしね。

 だから平等に愛するべき———


「いい風に言ってるけど、まな板も中々よ。むしろ攻撃力高いから」


 で、ですよねー……。


「でも良かったわ。思ってたほど悪い意味じゃなくて」

「逆にどう言う意味があるのさ」


 弘香ちゃんが1個目のパフェを食べ終え、2個目を開ける。

 食べるの早い。その栄養は一体どこへいくのだろうか。


「食べたまま聞いて欲しいのだけれど」

「うん」

「貧相な胸はまだかろうじて胸があるという意味じゃない」

「うん」

「まな板は料理にも使われるアレで、平らじゃない」

「まあ料理にも使うし、ふわふわだったら危ないしね」

「貧相の場合はまだかろうじて胸があるってことだけど、まな板は文字通りぺったんこってこと……。まな板を水で洗い流せば、平らだからなんの抵抗もなく水は綺麗に下へ流れていく……平たいから」

「う、うん……?」

「1日後も1週間後も1年後もずっと平たい……まな板の形なんて変わるはずないもの……」


 ……話が段々怪しくなってきた。

 

「だからまな板ランキングって見た時、成長する余地がないって言われてると思った。ふふ、ふふふっ……」


 目に光がない! 自分から振っといてその顔怖いよ……!


「大体、男から見て巨乳ってどのくらいなのよ」

「ぽよ〜ん、て感じ」

「擬人法だと分かりくいわ。スイカ、メロン、カボチャどれ」


 どれも中々僅差じゃない? しかも収穫する時によって大きさも違うし。


「そもそも胸が脂肪なのは知ってるわよね」

「もちろん」


 分かっている上で分かってない。

 男というのは、おっぱいを脂肪と認識しておきながらも、お腹の脂肪とかとはまた違ったもの考えているの。


 おっぱいだけ別枠なのだ。

 何故なら癒しだから。

 目の癒し、心の癒し、そして恋人に発展すれば体の癒しまで……おっぱいにはロマンがキュッと詰まっている。


「脂肪に興奮するなんて変ね」

「現実言わないでっ!」

 

 おっぱいは脂肪じゃないの、ロマンなの! 揉める果実なの!!


 なんて話しているうちに、僕も弘香ちゃんもパフェを食べ終わった。


 弘香ちゃんが長い髪をくくり、ポニーテールにしたと思えば、


「じゃあ胸揉む?」

「……なんでお茶飲む? くらい軽さなの?」


 まな板にはあんなに執着するのに。


「というか、本当に揉んでいいの?」


 てっきり冗談かと思っていた。


「私、胸のことは冗談なんて言ったことないわよ」

「まあ……そうですね」


 弘香ちゃんはソファに上がり、足を組む。綺麗な脚が際立って見える。


「この場において怖気付いたのかしら? まな板ランキング1位の幼馴染の胸を揉んで大きくするなんて、これ以上ないご褒美だと思うのだけども?」


 女の子の胸を揉む。しかも巨乳へと導く役割をさせてもらえるなんてご褒美どころか、超えまくって犯罪行為かもしれない。


「後から訴えたりしない? 本当に大丈夫?」

「ビンタはするかも知れないけど、訴えはしないから早く揉みなさい」


 ビンタはご褒美に入るから問題ないね!

 それに、このまま躊躇してても怒られるだけ。


「じゃ、じゃあ……」


 僕は弘香ちゃんの正面に立ち、まずはゆっくり両手をかざしてみた。


「その、暖炉で手を温めるみたいな仕方ムカつくんのだけど?」

「いや、だって胸だよ? 女の子のおっぱい。普通絶対触れないから緊張するに決まってるじゃん」


 声だって裏返りそうである。

 深呼吸……深呼吸……。

 

 それから、そっと手を近づける。  


「っ……」


 弘香ちゃんとの胸の部分にピタリと触れた。ビクッと、弘香ちゃんとが肩を振るわせたのも分かった。


 ……何より、柔らかい。


「どう……?」

「や、柔らかいです……」

「そう……」


 幼馴染といえど、さすがに胸を触るという状況では気まずくなる。

 幼馴染の前に弘香ちゃんは女の子。しかもとびきりの美少女だ。


「あ、あとは貴方に任せるわ。言っとくけど、服の下に手を入れたら殺すから」

「大丈夫。その時は鼻血でも出して死ぬから」

「全然大丈夫じゃないじゃない」


 弘香ちゃんは本当に僕に任せると言った感じで堂々としている。


 しかし……女の子の胸ってどう揉めばいいんだろう?

 揉むというとでとりあえず指を曲げてみる。指を曲げて……これは身体を引っ掻いているだけではないだろか。でも掴むものがないから……。


「旭晴?」


  これは……うん。そういうことだね。

 

「弘香ちゃん。僕は気づいてしまったかもしれない」

「なにに?」


 僕は正直な男だ。だから正直に言う。


「そもそもまな板は揉めな———ぶはっ!?」


 ここで僕の意識は途絶えた。

 次に起きた時には自室のベッドであった。


 揉んで大きくしたいのに、そもそも揉む胸がない。

 清楚AV女優並みの矛盾が起こってしまったのであった……。

 






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