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中学のまな板騒動

 男というのは、単純な生き物である。

 顔が可愛い子がいれば目で追うし、ボインボインの胸を見れば鼻の下が伸びる。


 そう、男は単純………。


「ねぇ。なにこれ?」


 ワントーン低い声が誰もいない教室に響き渡る。

 見上げれば、その細長い足を組んで椅子に座り、スマホの画面をこちらに見せつけながらにっこりとした表情の女の子がいた。


 そして僕、楓旭晴(あさはる)は今、放課後の教室で1人正座させられている。


 事の発端は、男子のグループLINEの中で密かに投票していた『クラスの女子巨乳ランキング』を僕が紙に書いて集計していたところを幼馴染に見つかってしまったというもの。


 だって早く結果を出せってみんながうるさかったから、こっちは急いで作業したというのに。


 ちなみに僕以外にも男友達が2人いたのだが……タイミング良く飲み物を買いに行っていて教室には不在だったので、僕1人がやったとしてこうして正座させられているのだ。


 でも知ってるんだぞ! 窓から覗いて状況を察したのか、急いで走って行ったことを。

 ちくしょぉ! アイツら見捨てやがって!!


「……旭晴。もう一度聞くけど、コレ、なに?」

「えとぉ、見ての通りかと……」

「あら。貴方の口はなんのために付いていると思ってるの?」

「……ちゃんと口で説明しろってことですよね。はい、クラスの女子の巨乳ランキングです」


 今日も僕は幼馴染に言い負けてます。


 そんな彼女の名前は、西堂弘香(ひろか)

 僕の家の隣に住む幼馴染である。


 腰まで届く艶やかな黒紫色の髪に、キリッとした瞳。

 美人で学園で人気が高い。あと僕に対しては、特にSっ気があるものの面倒見は良く、頼れる存在だ。


 相変わらずにこやかな表情を崩さない、弘香(ひろか)ちゃん。

 ……うん、知ってる。

 こうしてにっこり笑っている時は、とても機嫌が悪いと。


「はい、よく言えました。その上で言うけど……女の子の胸にランキングとかつけるなんて最低ね」

「うぐっ……」


 冷たい視線が僕の身体中に突き刺さる。

 

 しょ、しょうがないじゃないか! 男はみんなおっぱい好きなんだからっ! 


 なんて馬鹿馬鹿しい反論を言える訳もなく、心の中に留めておく。


 だが、彼女が怒っているのは"巨乳ランキングの方"ではないだろう。


「それで、私が《《まな板ランキング1位》》ねぇ……」


 絶対まな板ランキングに怒ってるよな……。


 顔も内心も冷や汗が止まらない。

 

 弘香ちゃんは美人でスタイルもいい。

 ただ胸は? と聞かれれば、全員が無言になる。それくらい、スレンダーなのだ。


 別におっぱいがちっぱいでストンストンだろうと僕はいいと思うんだけどなぁ……。


「ちなみに投票数はどんな感じだったのかしら? うふふ……うふふふふ」


 笑顔がもっと怖くなった……!!


「あ、圧倒的だったよ! なんたって男子の9割が弘香ちゃんに———」

「まな板ランキングって巨乳ランキング最下位と同じよね?」

「…………」


 何もいえない。うん。

 しかもそのまな板ランキングの方は僕が提案したものだから余計言えない。

 反応を見るに、弘香ちゃんはよほどまな板が嫌らしい。


「でででもっ、胸ってさ揉むと大きくなるらしいよっ!」

「………自分じゃ意味ないわよ」

「えっ、意味ないの!? じゃあ僕が揉ん—————ちょっ!?」


 弘香ちゃんが僕の股間目がけて足を下ろしてきた。

 咄嗟に手でガードしたからいいけど僕のチソコが死ぬところだったじゃないか!


「はぁ……。これ以上こんな馬鹿らしい会話、続けてもキリがないわね。とりあえず幼馴染のよしみでこのことは黙っといてあげるから、もう二度とやらないことね」

「ははっ! ありがとうございます、弘香様〜〜!」


 深々と頭を下げる。

 良かった! これで僕の中学生活はまだまだ安泰だね!


 やっぱり持つべきものは幼馴染だ。この後、クレープ奢ってと言われる展開は目に見えているけど。


「それじゃあ帰りましょうか」

「うん」


 僕を見捨てた男友達2人の鞄にメモを入れといて、帰りの支度をしていると弘香ちゃんに聞かれた。


「ちなみに、本当に気まぐれの質問なんだけど……」

「うん?」

「旭晴は、その……巨乳派なの?」

「え、どっちも派だけど」


 だからまな板ランキング作ったわけだし。おっぱいは大きいも小さいも平等に愛すべきだと思う。


「……言うと思ったわ。でも強いて言えばどっち?」

「んー、大きい方?」

「そう」


 弘香ちゃんは自分の胸を見た。  

 やっぱりまな板のこと、明らかに気にしてる……よね。


 おっぱいの大きさもいいが、一番大切なことはそれではないと思う。

 生涯おっぱいに触れられるか、触れられないかであって———


「……じゃあ揉めば?」

 

 誰もいない教室でポツリと。弘香ちゃんが漏らした。

 もちろん僕の耳にはしっかり聞こえた。その上で聞き返す。


「え、何を?」

「私の胸」

「………」


 マジですか!?




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