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命ある物、生き長らえる事を願う

微動だにせずに、身動き一つ取らない魔虫。


それはまるで、決闘で睨み合っているかのような静けさ。


固唾飲みながら争えと祈り、動向見守っていると、



『…グチュ…クチュ……』



最初に馬を食していた方の魔虫が許した。



目の前に食べ物があるのに、争うのは馬鹿らしいと顔をそむけて、馬の首に口をあてて食事の続きを取ると、もう一匹の魔虫も、争う気が削がれてしまう。



(くそっ!!)



こんな幕引きをされるくらいならドアをこっそり開けて、割れたガラス片でも投げ付けて、喧嘩をけしかければ同士討ちをしたかもしれない。



(こんなジジィになっても、恐怖で腰が引けるか……)



年相応の白いひげをたくわえ、年相応の年季の入ったシワシワの肌になってもなお、魔虫に怯えた。



割れたガラス片を投げ付ければ、魔虫同士の喧嘩をけしかける事も出来たかもしれないが、それは同時に、自分の存在がバレる危険性もあった。



そうなれば、どうなっていただろうが?



御者は不運だったが、幸運ともいえた。



頭から食われた事で、苦しまずに死ぬ事が出来たが、老人の場合もそう上手く殺してくれるとは限らない。



一番考えたくないのは、二匹の魔虫が我先にと飛び掛かられ、手足を掴まれて捕食される事。



生きたまま気絶する事も、即死する事も出来ずに食される。



痛みと苦しみを感じ、まだ生きている事を感じさせられながら、死んでいくという、拷問のような殺され方は、例え幾つの歳を重ねたとしても想像したいものでは無い。



ならば、手にしている剣で自分の心臓を貫いて、自死を選ぶことが出来るかというと、



(ふぅ…まだ悲観するのは早い……)



それも出来ない。



少しでも生き長らえる、幾つ歳を取ろうとも、生命の生きようとする本能には逆らえない。



息を潜めながら、次のチャンスを待つ。



それはまた一触即発の状況になるでも良いし、食事が終わって、そのまま満足して立ち去るでも何でも良い。

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