不協和音の希望
魔虫の腹はプクプクと膨らんではいるが、それは想定内の話。
蛇腹の腹が膨らむ事で、腹の許容量が増える、
それは周辺の生き物を食べて捕食して、根絶やしにする事を前提にしたかのような腹。
(まだ生きられるか……)
この大きなカマを持った魔虫は、人間を食べて、馬を捕食しただけでは物足りない。
食事が終われば新たな餌を求めて、この辺り徘徊するだろう。
少しでも長く生き残ろうと、馬車の中に備えられている剣を手にして、息を殺していると、
『ブゥンン!!!!』
『ブゥァン!!!!』
魔虫同士で、羽を広げて威嚇をする。
馬を食べている時に、カマが触れあったのが気に障ったらしい。
互いに食事を止めて顔を上げると、睨み合いが始まる。
(いいぞ!!殺し合え!!)
食事の邪魔は、例え同種だとしても許されない。
話を聞けば、魔虫の腹から同種のはずの魔虫が出て来たという話があり、魔虫は共喰いをするのが知られている。
それが腹が減ったからのなのか、喧嘩の果てに起きた共喰いなのかは定かでは無いが、
『ブゥンン!!!!』
『ブゥァン!!!!』
目の前では一触即発の状態でいる。
互いに大きなカマをまだ振るわないが、それでも何度も何度も、羽をバタつかせて空気を震わせる。
馬車の中にいても耳を震わせる音は、聞いていて不快感を覚えるが、それでも今はこの羽音が生き残れるかどうかの希望。
聞きたくもない羽音を聞かなければならない拷問を受けながら、共喰いをしろと願っていると、
『…………』
『…………』
あれほど羽をバタつかせていた魔虫が、羽を閉じた。