父の戦い
「凄い……」
「見ただけで……」
学園長の鞭のようにしなる腕は、騎士候補生のそれと遜色の無い動き。
誰もが、学園長の動きに驚嘆している中で、
「…………」
騎士候補生の子は絶句してしまう。
ルハンスク家を名高くした剣術、先陣を切って敵の部隊に突っ込み、剣を鞭のように振るって雑兵を薙ぎ倒す。
「…………」
学園長が何かを説明しているが、耳に入って来ない。
学園長の剣を振るう姿を見て、思い出してしまう。
父の部下だった兵士が教えてくれた、父の最期。
騎士になろうと、ルハンスク家の剣術を盗み見をしていた馬鹿者。
本当なら父が先陣を切って敵を制圧するのに、見よう見真似の猿真似で、別の所の敵に突っ込んだ兵士は孤立してしまう。
最初は、剣の動きに翻弄されていた敵は慌てふためくが、よくよく見ればただただ剣を振るっているのがバレてしまう。
兵士の付け焼刃の剣術では、数で押し込まれては押し返せない。
まるでワニの群れの中に落ちたウサギのように、死に物狂いで暴れる兵士を、父は見捨てなかった。
馬を走らせ、群がる雑兵を蹴散らして助けに行くが、ウサギを狩ろうとするワニは獰猛化していた。
馬に乗った騎士を見たら、普通なら意気消沈するものだが、敵兵達は興奮していて槍を突き立てる。
槍の茨の道を進むと、肘と膝の隙間に、槍の先が入り込む。
ルハンスク家の鎧は、剣を鞭のように振るう為、関節部分の装甲を減らしていたのが仇になった。
兵士の元に辿り着いた時には、手足の先に赤い血が線となって垂れている。
それでも父は、兵士を守りながら剣を振るい、血を飛ばして雑兵を蹴散らしていたが、恐るべし敵が来てしまう。
それは自分と同じ、鎧を着た騎士。
騎士と騎士の戦いは戦場の華。
勝てば名誉と栄光手にする事が出来る戦いなのだが、その時だけは違った。
暴走した兵士を守って勝手に傷を負った騎士、自分の部下すら御する事が出来無い情けない騎士……情けない騎士は、相手の肥やしにされてしまう。




