魔虫の食事
『クチュクチュ……』
横倒しになった馬車に、繋ぎ止められている馬が食される。
大きなカマで馬の喉元と、首の付け根を押さえて喉を食い破る。
馬はまだ生きようと、必死に足をばたつかせるが、息絶えるのは時間の問題。
生きようとすればする程に苦しみが、纏わり付く。
『ゴクチュ…ゴリチュ……』
それに比べて人間は柔い。
馬車を運転していた御者は、大きなカマに掴まれると叫び声を上げたが、次の瞬間には頭を捕食されて声が消えた。
その後はスティック野菜を食べるように、人間の体を骨ごとボリボリと食べて、足先まで残す事無く食べ終えると、もう一匹が食べている馬に口を付けて捕食を始める。
(こんな所で魔虫に襲われるとは……)
横倒しになっている馬車の中に、一人の老人がいる。
馬車が襲われた時に頭を打ったのか、ジンジンと痛む頭を押さえながら、前を見る為の窓から外の様子を窺う。
腹を満たす為に食事をする魔虫。
木の枝のように細い体に、大きなカマを持つ化け物。
見ただけで分かる、獲物を狩るのに特化した姿、パッと見ただけでは分からない、木に擬態する茶色い姿。
そのせいで簡単に馬車が襲われた、そのせいで気付けなかった、木々の中に紛れて身構えていた魔虫を。
街道ゆえに、兵士達が定期に安全を確かめていたはずのだが、兵士達がサボったのか見落としたのか、はたまた、安全を確かめた後に魔虫がやって来たのか分からないが、魔虫の横を通った途端に、御覧の有様だ。
(それにしてもよく食べる)
木の枝のように細長い体の、お尻の方がぷっくりと膨れていく。
人なら、そんなにぷっくらと膨らんだら、もう食べれないと言ってしまうそうな程に膨らんでいるお腹。
このまま、お腹が張り裂けて絶命するか、お腹一杯になってどっかに行ってくれれば御の字なのだが、
(蛇腹の腹か……)
そんな旨い話は無い。