旅立つ前の下準備
『ヒュッ……バッダンッ!!』
青々とした葉が生い茂る森の中で風が走る音が聞こえると、木が倒れる音も聞こえる。
『ヒュッ……バッダンッ!!』
朝日が昇ってから、風の走る音と木が倒れる音が森の中で響き続ける。
『ヒュッ……バッダンッ!!』
朝から精を出して、木を切っている者がいる。
「うん、後一本斬れば良いかな」
朝から精を出して、木を切っていたのは一人の少年。
白銀の美しい髪と、同じく美しい白銀の瞳が綺麗な少年。
少年は、朝から精を出した甲斐があったらしく、少年の周りの木は切られて倒れ、拓けている。
後一本と言った通り、少年は目の先にある木を最後の一本と定めるが、彼の手には斧は握られていない。
それでも彼は、自分が何も手にしていない事等一切気にせずに、手を木の方に向けると、
『ヒュッ……バッダンッ!!』
風が走る音が聞こえて、木が倒れる。
先程から聞こえていた風が走る音は、彼が木を切る為に鳴らしていた風の音。
最後の一仕事を終えた少年は、自分の周りに倒れる木々を確認して、
「これだけあれば、大丈夫だよね」
両の手を地面に向け、少し腕を広げると、
『ヒュゥシュパッッンン!!!!!!』
周りに倒れていた木々が裂かれて薪になり、薪になった木がひとりでに一か所へと集まっていくと、そこには大量の薪が積み上げられる。
普通なら、山盛りの薪は一人では運びようも無いのだが、
「よしっ!!帰ろう!!」
少年の声に反応して、山盛りの薪が浮かび上がり、ペットの犬の様に、少年が帰る背を追って付いて来るのであった。