素直というのは
「ごめんね…助けてあげられなくて……」
頬を擦り付ける馬に、小さな声で囁く。
今までの人生で、馬と接した事があるのは昨日だけ……死ぬまでもがき苦しむのを不憫に思って、喉を切り裂いた馬だけ……
「家族の匂いがするんだね……だけど、僕も行かないといけないんだ」
『ブルルゥゥ……』
家族の匂いが体から香るのだろう、名残惜しそうに頭を上下に振ってから、顔を離すと、
『ガラガラガラガラ…………』
振り返る事無く、馬車を学園の方へと引っ張って行く。
馬車が、学園の門をくぐるのを見送ってから、
「さてと…行かなきゃ」
自分も学園の門の方へと向かう。
彼女の、突然の突き放す態度には、何か訳があるのだと思い、決して馬車の後を追うようなマネをせずに、学園の門をくぐろうとしたのだが、
「そこの君、待ちなさい」
「はい?」
門の横で立っていた男の人に呼び止められる。
周りの人達は呼び止められる事無く、次々と学園の門をくぐって行くのに、自分だけ何故呼び止められたのかと思って足を止めると、
「君が通る門はあっちだ」
「あっちですか?」
男性から入り口が違うと言われて、指差す方を見ると、先の方に門がある。
目の前にある門と比べると小さい門だが、それでも、重厚な門には変わりはなく、立派な物だとは思ったが、
「そうだ、早く行くんだ。君みたいな子が、ここをウロチョロしてはいけない」
まるで、野良犬を追い払うかのように追い立てられると、嫌な気分になる。
「なんだ、文句があるのか?」
嫌な態度を取る男性に、また睨み付けてしまった。
一触即発の状況の、ただならぬ雰囲気に、門をくぐろうとしていた者達が足を止めて、事の成り行きを見守ろうとしたが、
「向こうの門に行けば良いんですね」
「そうだ、早く行きなさい」
両者がぶつかり合う事無く、大人しく小さい門の方に歩き出すと、睨み合いからの殴り合いになる事は無く、周りも胸を撫で下ろすかのようにホッとして、門をくぐって行く。
(素直か……)
大人しく引き下がって門へと向かう中、彼女の言った言葉を思い出しながらポケットに手を伸ばすと、ポケットの中に入れている小石を握る。




