狭い馬車
学園に着くまで、外でも見てれば良い話のかもしれないが、
「…………」
彼女の視線が痛い。
こちらがフクロウのように、首を横にして外の景色を見ているというのに、窓のガラスに映る彼女はこちらの姿をジッと見ている。
逃げようにも逃げられない空間の中、こちらの姿を観察する程度なら、馬車に乗せて貰っているお礼とし
て黙って見られていようと思ったが、
「馬は良いわよ」
「馬は良い?」
「そうよ……というより、動物は良いわよ」
窓に映る彼女が口を開いて、話し掛けて来る。
「動物は言葉を喋れない……喋れないからこそ行動で愛を示し、行動で憎しみを示す。それはとても素直に」
「それは…はい、僕もそう思います。村に出掛けた先の犬も尻尾を振って懐いてくれてました」
人慣れする為に出掛けてた村の先にいた番犬。
魔虫対策に、門の所で飼われている村の犬。
人が好きで、村に訪れる人に無邪気に尻尾を振り、転がってお腹を見せては撫でられるのを心待ちにしていた。
「動物が好きなんですか?」
他愛の無い話。
彼女が気を使って話し掛けてくれていると、少し顔を彼女の方に向けるのだが、
「えぇ、動物が好き……でも、それは人が嫌いという想いの表れかしら」
「えっ?」
その言葉で、前にいる彼女を見る事が出来ずに、窓の中の彼女と目が合うと、窓の中の彼女もこちらに目を合わせる。
「人って不思議よね。言葉があって、想いを伝えられるのに嘘を付く……好きでも無いのに「好き」って、好きでも無いのに笑顔を見せて……人って変な生き物よね」
「それは……僕には難しい話です」
窓の中の彼女は微笑を湛えているが、その話からするのなら、彼女の微笑は嘘になる。
彼女が馬車に乗せてくれたのは、馬が懐いたから?通行の邪魔になるから、嫌々馬車に乗せてくれた?
真意の分からない彼女の言葉に相槌を打つ事も出来ず、窓の中の彼女の目から視線を切ってしまうが、
「でも…分かる気がするわ。あの子が、あなたに懐いた理由が」
彼女の方は、こちらを真っ直ぐに見つめたままでいる。




