馬に誘われて
「わわっ!?」
馬車を引っ張る馬が、気付いて貰った事に喜んで鼻を擦り寄せて来る。
馬の細長い鼻は、人間の胴体と同じ位に大きくて、擦り寄られてただけで体が押されてしまう。
馬からの親愛の行為に押されてヨタヨタと後ろに下がると、
『ガラガラ……』
馬は馬車を引っ張って、扉が目の前に来るようにして止まる。
「どうされて?この子と一緒に歩くのかしら」
これが「すぐに分かる」という意味であった。
「……乗せて頂いても?」
「えぇ、あなたの歩調に合わせて馬車を走らせていたら、怒られてしまうわ」
一人で勝手に警戒して勘違いした事を恥ずかしく思いながらも、このまま馬車を引き連れて歩くのは、恥ずかしいでは済まないと、恥を忍んで馬車に乗せて貰うが、
「ところであなた」
「はい?」
「私が、あなたを知らないだけで大物なのかしら?」
さっきの警戒していた事を突っつかれてしまう。
「……おじいちゃん達から、知らない人には気を付けなさいと言われていたんです」
「それは、赤ずきんちゃんがオオカミに気を付けるように?」
「……魔虫に気を付けるようにです」
「そう、だったら安心して良いわ。私はオオカミでもなければ、魔虫でもないもの」
警戒をしたから、目付きが鋭くなって女性を睨むようになってしまったからなのだろう、ちょっとしたお返しとばかりに、からかってくる。
言い返そうにも、言い返す言葉が無いため、渋々大人しく座席に座ると、
「許しなさい、ちょっとしたお茶目よ……馬車を出してちょうだい」
「かしこまりました」
御者が馬の手綱を引っ張ると、馬が歩き出す。
ガラガラと車輪が回ると、馬車もカタカタと小刻みに揺れながら進んで行く。
(これで、時間には間に合うんだろうけど……)
馬車の中という密室の中で、誰かと一緒になるというのは初めての事で、何をしたら良いのか、何を話したら良いのか悩んでしまう。




