風は滞ることを望んで
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「良かった。おじいちゃんが無事で……」
「ははっ、そんなに心配しなくても、お前がくれた風の小瓶をちゃんと持っているよ」
「それでも、魔虫が二体もいたんだよ?それで犠牲になった人もいたし……」
「そうかそうか、これから山に出る時は気を付けないとな」
マントを羽織った者は、一人の老人を背中におぶって山を駆ける。
本当に探していた人物。
あの人助けをしたのは、おじいちゃんを探している途中で、血の臭いが風に乗って来たので、何事かと思って行ったら魔虫と出くわした。
「それにしても、お前は偉いの。ワシの心配をしてくれて迎えに来ただけでなく、人助けまでして来たのだから」
「うん……あっ、家が見えたよ」
「おぉ、おぶって貰えると、さすがに早い」
少し時間が掛かってしまったが、無事におじいちゃんを連れて戻って来れたとホッと胸を撫で下ろしたが、
「そうだ、あれをしてくれんかの?」
「あれ?あれって跳ぶやつ?」
おじいちゃんは、少年に山小屋までの跳躍をして欲しいという。
もちろん、少年の風の力なら、人一人背中に乗せて跳躍する等、特に問題無いのだが、もしもの事を考えてやろうとは思えない。
「危ないから止めておこうよ」
おじいちゃんからのお願いとはいえ、怪我をさせたくないと断るが、
「今度いつ、こうしておぶって貰えるか分からないから思い出にしたい」
少し寂し気な言葉に、少年の足が止まった。
「どうした?そんなに嫌なら無理強いはしないが……」
おじいちゃんは、足を止めた少年に、それ程までに嫌な思いをさせてしまったのかと、少年の顔を覗き込もうとしたが、
「ねぇ…やっぱり学園に行くのを止めようと思うんだ」
少年の悩みが、その事なのかと分かると覗き込むのを止める。
「だって、魔虫が出るんだよ……僕がいれば何とも無いけど、風の小瓶が無くなったらどうするの?」
今日の朝までは学園に行くつもりではいた、それだけの準備はしてきた。
街で売る為の薪、魔虫に襲われても大丈夫なように風の力を込めた小瓶。
風の力を使えば、ここまで帰って来るのは苦では無いが、
「もしも…もしも僕がいない時に何かあったらどうするの?今日の人だって、僕が偶々おじいちゃんを探しに出て来ていたから助かったけど、そうじゃなかったら死んでたんだよ」
タイミングが悪ければ、助ける事が出来無いかもしれない。




