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風は吹いて

ここまで全速力で駆けて来た馬は、ゆっくりとパカパカと、まるでお出掛けしているかのように歩く。



もう昼は過ぎているが、それでもまだ日中。



お散歩するに、はまだ頃合い。



馬の背に揺られながら帰路に付いていると、



「トルート様、後学の為にお聞きしたい事が」



「後学の為に?何かね」



うららかな天気に誘われて、騎士団長が雑談を持ち掛けて来ると、それを断る理由は無いので、話に乗っかるのだが、



「お一人でどうやって、魔虫を二匹も倒されたのですか?」



「そのことか……」



それは答えに困るものであった。



まさか、答えに困ったからといって、あの子の事を馬鹿正直に答える訳にもいかないが、



「その事なんだが……ちなみに、君達を呼びに来た人が来たと思ったのだが、彼が手伝ってくれたのだよ」



この場を誤魔化すには、少々彼の事を出すのは致し方無い。



「なるほど、あのマントを羽織った方ですね」



「そうだ。魔虫が共食いをしている所を、彼に協力して貰って奇襲を仕掛けたのだよ。そうでなければ助からなったよ」



「さすがトルート様です」



魔虫が共食いをしている所を奇襲した……これも中々無理のある話だが、じゃあ逆にどうしたら助かったと思うと聞かれたら、他に答えようが無い。



騎士団長は、トルートの偶々助かったという話に異論を挟む事無く納得し、そこで話が終わる形であったが、



「ちなみに何だが、マントを羽織った者の顔を見たのかね?いきなり、私が襲われたと言っても、信じるには時間が掛かるだろうに」



今度は、トルートの方が気になる事を聞く。



最後まで姿の分からなかったあの子。



もしかしたら、尋問をする為にあの子の素性を洗っているかと思ったが、



「いえ、そんな事はございません。あのマントを羽織った方は、トルート様に言われた通りに紋章の金貨と、倒された魔虫の顔を持って来たので、我々は飛び出して来たのです」



「そうか……」



「でも、あの方も街で待っているはずです」



「いや、それはないな」



「何故ですか?あの者はトルート様の従者では?」



「いや、彼は風だよ……」



吹いた風がどこかに行ってしまうのは、世の常なのかもしれない。

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